第140話 海釣り


 リアーヌとパメラが帰ると、ナタリアとリリーも片付けをするために部屋を出ていったが、すぐに戻ってきた。

 そのまま6人で話をしながら過ごし、遅くなったので解散した。


 翌日、朝食を食べ終えると、リアーヌが迎えにきてくれたので転移で王都東の内海にやってきた。

 そこで俺とアリスは釣りをしている。


「寒いわねー……」

「アニーさん、焚火を作りましょう」

「そうね」


 ついてきたAIちゃんとアニーは焚火を作ると、狛ちゃんと一緒に焚火にあたる。


「暖かいですねー」

「そうね……しかし、あんた、しれっとキツネ耳と尻尾を出して暖かそうにしているわね」

「そういうアニーさんはものすごく寒そうですね……痴女を通り越して、完全に変な人ですよ」


 本当にそう。

 いくら好色な男が見ても、心配が勝るだろう。


「どんな格好をしようが魔法で暖めたら一緒だし、寒いもんは寒いわよ」

「すみません。何を言っているのかがわかりません……」


 本人以外はわからないだろうよ。


「コタツにずっと入っているか、冬の外で薄着なんだから両極端な奴だよな」

「…………前にクライヴから聞いたことがあるんだけど、雪が降っている時にあの格好で4人で歩いていたらクライヴ達が兵士に捕まったらしいよ」


 確かにヤバい絵面だしな……

 そりゃパーティーを抜けてくれって頼むわ。


「うるさいわねー。あれは私も悪かったと思っているわよ。そんなことよりさっさと釣りなさい。付き合ってあげているんだから」


 いや、頼んでない。


「……あいつ、なんでついてきたんだ?」

「…………寂しいんだと思う。昨日も昼間は1人だったし」


 あー、そういうこと……

 アニーからしたら狛ちゃんの散歩から帰ったら誰もいなかったわけだしな。


「アニーも釣るか?」

「釣らない」


 マジで何しに来た?


「アニーさん、何か出ましたよ」


 AIちゃんが指差した方向には大きなカニがいた。


「ビッグクラブね。魚より先にカニじゃないの……」


 アニーはそう言いながら手をかかげる。


「フレイム!」


 アニーが魔法を放つと、火柱が立ち、ビッグクラブを丸焼きにした。


「不味い毒ガニのくせに匂いだけはいっちょ前ね」


 確かに焼きガニの良い匂いがする。


「魔石は回収しないんです?」


 AIちゃんがすぐに焚火に両手をあて始めたアニーに聞く。


「寒い。AIちゃんが行ってきて」

「私、解体できないです」

「私からインストールとやらをしなさいよ」

「寒いから嫌です」


 AIちゃんが嫌そうに首を横に振った。

 すると、狛ちゃんが焼きガニのところに駆けていく。

 そして、焼きガニを咥えると、引っ張ってアニーのところまで持ってきた。


「あんたは本当にかわいいわねー。あんたの主人は全然、釣らないのに」


 アニーが笑顔で狛ちゃんを撫でる。


「もうちょっとで釣れるぞ」

「早くしてね。焼きガニの良い匂いのせいでお腹が空いてきた」


 俺もだよ。


 そう思っていると、ぐぐっと引きが来たので上げてみる。

 すると、見事に魚が釣れていた。


「ほれ、見ろ」

「貸しなさい。下ごしらえをしておくから。ほら、アリス、あんたも釣りなさい」

「…………わかってる。すぐに釣る」


 俺は釣った魚をアニーに渡し、釣りを再開した。

 そうやってアリスと2人で何匹かを釣りあげ、アニーに渡していると、魚が焼ける良い匂いがしてくる。


「焼けたわよ」


 アニーが呼んだので焚火の方を見てみると、AIちゃんが尻尾を振りながらすでに食べていた。

 俺とアリスは釣りを一旦、中止し、焚火の方に行くと、アニーが焼いてくれた魚を食べ始める。


「美味いな」

「…………自分で釣った魚はより美味しいね」


 わかるわかる。


「ねえ、ドラゴンってマジなの?」


 同じく魚を食べているアニーが聞いてくる。


「多分な」


 AIちゃんが言うならそうなんだろう。


「ドラゴンかー……倒せる?」

「さあ? 大蜘蛛ちゃんでいけるんじゃないか?」

「あれか……確かにあれならいけそうね……じゃあ、ひとまずは安心」


 アニーはセリアの町の心配をしているのだろう。

 地元民だし。


「問題ないだろ。最悪は煉獄大呪殺か妖狐無間地獄で消滅させてやる」


 まあ、そもそも通過した時点でもう来ないと思うけど。


「物騒な名前……」

「使わんでも勝てるとは思うがな。飛んでいるのが厄介だ」


 蜂さんでどこまで対抗できるか。


「あのー、そもそもなんですが、ドラゴンと戦おうとしないでくださいよ。リアーヌさんが温厚って言ってたじゃないですか」


 AIちゃんが止めてくる。


「もしもの話だよ」

「そうですか……あれ? リアーヌさん?」


 AIちゃんがそう言って横を見ると、リアーヌが立っていた。


「ん? どうした? 夕方に迎えにくるんじゃなかったのか?」


 確かそう頼んだはずだ。


「すみません。ユウマ様、ちょっとよろしいでしょうか?」


 リアーヌがそう言って近づいてくると、焚火にあたる。


「なんだ? 悪いが、魚は食べたから釣らんとないぞ」

「あ、いえ、それは大丈夫です。実は昨日の夜にドラゴンの件を叔父上に報告したんですよ」


 そう言ってたな。


「それで?」

「はい。パメラも朝からセリアの町で聞き込みをしてくれましたね。その件を先程、叔父上に話し、協議をしていたんです。そしたら叔父上がユウマ様に会って話を聞きたいと……」

「あー、なるほどね。別にいいが、今か?」

「ええ。できたら」


 釣りの最中なんだけど、まあ、仕方がないか。


「こいつらも連れていくぞ」

「それは問題ありません。叔父上に4人で釣りをしている最中と言ってありますし」


 暇人って思われてそう。


「わかった。お前らもいいな?」


 3人に確認する。


「私は問題ありません」

「寒いよりかはいいわね」

「…………やむなし」


 問題ないらしい。


「じゃあ、行こう」

「はい。では、私に触れてください」


 リアーヌにそう言われたので焚火を消すと、皆でリアーヌに触れた。

 すると、視界が真っ暗になった。

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