第130話 森の再調査


「ぬくぬくだな」


 マフラーを巻いたリアーヌはご機嫌そうだ。


「リアーヌ、乗れ」


 そう言うと、狛ちゃんがリアーヌに近づく。


「乗る? このわんちゃんに? 大丈夫ですか?」

「いつもアニーが乗っているから問題ない」

「アニー……あの露出女ですか」


 悪口のように聞こえるが、まあ事実だ。


「今はまったく露出していない」


 顔しか見えん。


「ふーん……まあ、寒いですしね。乗ってもいいか?」


 リアーヌが狛ちゃんにそう聞くと、狛ちゃんが頭を下げた。


「よいしょ」


 リアーヌが狛ちゃんに乗ると、狛ちゃんが立ち上がる。


「さて、行くか」


 俺達は町中を歩き、西門に向かった。

 そして、西門を出ると、森を目指し、チリル平原を歩いていく。


「ここに魔物がうじゃうじゃいたんですね……」


 リアーヌが周囲を見渡しながらつぶやいた。


「ああ。一面にゴブリンとオークだった。倒しても倒しても後ろから出てくるし、波の様だったな」

「そうですか……セリアの町が落ちなくて良かったです。実を言うと、王都ではセリアの町の放棄がほぼ決定していました」


 そんな気はする。


「そういえば、パメラが援軍が遅れているって言ってたな」

「その協議が長引いたせいですよ」


 まあ、仕方がないことだろう。

 為政者は優劣をつけ、時には非情な判断をしなければならない。


 俺達はそのままリアーヌに当時のことを説明しながら歩いていった。

 そして、森にやってくると、中に入り、例の魔族がいた場所を目指して進んでいく。


「リアーヌ、悪いが仕事をしながらでもいいか?」

「どうぞ。理由はわかりますし」


 リアーヌが笑いながらリリーを見た。


「すみませーん……あと、いつもありがとうございまーす」

「うーん、お前、本当にエルフか?」


 リアーヌが微妙な表情でリリーに聞く。


「エルフでーす。気さくなエルフと評判」

「まあ……気さく、かな?」


 アホっぽいよな。

 口には出さないけど。


 俺達は採取や魔物退治をしながら薬草や魔石を集めてることにした。

 しかし、魔物はいつも通りの頻度で遭遇するが、薬草は見つからないらしく、ナタリアとリリーが首を傾げながら地面を探している。


「ないねー。ナタリア、そっちは?」

「うーん……生えてない。この時期ならまだ生えているはずなんだけどなー……」

「私は長年森に住んでいたからわかるけど、この感じは完全に冬だね。あと、10日くらいで一気に気温が下がると思う」


 そういう知識と経験があるのだろう。

 町のリリーと森のリリーって全然、違うな。


「マスター、狼らしき魔物が急速接近中」


 ウルフってやつか。


「お前ら、下がってろ」


 俺は皆を下がらせると、護符を剣にし、その場で待つ。

 すると、草むらから狼が飛び出し、俺に向かって牙を剥いてきた。


 俺はそんなウルフに向かって踏み込み、剣を振り下ろす。

 すると、ウルフをたやすく切断しながら地面に叩きつけた。

 ウルフはピクリとも動かなくなる。


「敵性反応消失。ふっ、マスターの敵ではありませんね」


 AIちゃんがドヤ顔をした。


「まあ、ただの狼とほぼ変わらんしな」

「あ、魔石、魔石」


 ナタリアがウルフのもとに行くと、腰を下ろして解体を始める。


「ウルフかー。鹿とか猪とかでないかな……」


 リリーが周囲を見渡しながらつぶやいた。


「俺は猪が良いなー。牡丹鍋が食べたい」

「何それ?」

「そういう料理だ。あ、そうだ。お前に頼みたいことがあるんだったわ。帰ったら話そう」

「よくわかんないけど、任せておいて!」


 内容も聞かずに了承するなよ。

 まあ、それだけ信用されているということだろう。


「ユウマ、はい、魔石」


 ナタリアが採取した魔石を渡してくれる。


「ああ。しかし、どうする? 薬草がないんだろ?」

「うーん、一度、魔族がいたっていう奥にまで行ってみる? 森の奥ならまだ薬草もあるかもだし」


 そうするか。


「わかった。じゃあ、そうしよう。AIちゃん、魔物はもういいから食えそうな動物を探してくれ」

「わかりました!」


 俺達は薬草探しを一旦、諦め、奥に向かうことにする。

 そして、そのまま歩いていくと、スヴェンとかいう魔族と戦った所にやってきた。

 そこにはスヴェンが放った黒い炎の燃え跡があり、そこは黒い炭のままだった。


「ここか……確かに調査団の報告通りだな……」


 リアーヌは狛ちゃんから降りると、腰を下ろして燃え跡を見る。


「スヴェンという魔族の黒炎だ。かなりの火力だったが、俺には火が効かないからどうってことはなかった」

「さすがはユウマ様です。ですが、呪力に似た力を感じます。大丈夫ですか?」


 呪力?

 まじないか。


「俺にはそういうのも効かない。母親が妖なもんでな」

「ああ……あのキツネさんですか……確かにとんでもない力を感じましたし、この程度の呪力は問題ないかもしれませんね」


 リアーヌが納得したように頷いた。


「リアーヌ、お前は王と俺のどっちを取る?」

「もちろん、ユウマ様です」


 リアーヌは悩みもせずに即答する。


「そうか……AIちゃん」

「はいはーい」


 AIちゃんに指示すると、AIちゃんはリアーヌのもとに行き、空間魔法で鏡を取り出した。


「……これが例の鏡ですか?」


 リアーヌがうっすらと笑った。


「そうだ」

「燃やしたと報告が上がっていましたね」


 確かにパメラにそう報告した。


「そんな浅慮なことをするわけないだろう」

「確かにそうですね。報告が上がった際はまあ、スタンピードを止めるためにはやむなしと思いましたが、実際にユウマ様と話し、あなた様を知ると、絶対に破棄してないだろうなと思いました」

「お前がそう思ったのなら王様もそう思っただろうな」


 そう言うと、リアーヌが苦笑する。


「わかりますか?」

「ここに来たかった理由はその鏡だろ」


 王様に命じられたな。


「ふふっ、その通りです。そして、私は叔父上に鏡はなかったと報告すればよろしいのですね?」

「そうしろ」

「わかりました。では、そのように。それでこれはどうするおつもりで?」

「とりあえずは保留だ。人間が持っていいようなものではない。とはいえ、レアなアイテムらしいので一応、取っておく」


 ゴブリンとオークしか転送できないアイテムを使うことはないだろうがな。


「そうですか……ナタリア、リリー。お前達も他言無用だ。いいな?」

「わかりました」

「というか、他言無用ばっかりなリーダーじゃん」


 リリーがそう言うと、リアーヌがまたしても苦笑し、AIちゃんに鏡を返した。

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