第128話 暖かい


 パメラと話していると、夕食の時間となったので皆で食べだす。

 7人と1匹の大所帯だが、リリーに広めのコタツ机を作ってもらったので問題なく座れた。

 そして、夕食を食べ終えると、お茶を飲みながらまったりとする。


「王都の高級宿屋の食事も良かったけど、久しぶりに食べるクライヴの料理は美味しかった!」


 リリーは戻ってきたクライヴの料理を嬉しそうに食べていた。

 リリーはクライヴと入れ違いだったから本当に久しぶりなんだろう。


「リリー、お前、金はどんな感じだ?」

「あー、うん……金貨40枚ちょっとある」


 うーん、わからん。


「ナタリア、どんな感じだ?」


 冬がどれくらいの期間なのか、それでどれくらい金が必要なのかがわからないのでナタリアに確認する。


「うーん……節制すれば問題ないかな」


 節制ができそうにないエルフだしなー。


「リリー、付き合ってやるからもう少し仕事をするぞ」

「う、うん……ユウマ、優しい」


 リリーが涙を浮かべた。


「私はパス。寒い」

「…………私も寒い。もう少し、寒さに慣れてからにする」


 薄情な女2人はコタツから顔だけを出し、拒否する。


「お前らには期待してない」


 どう見ても外に出る気がない。


「ユウマ、仕事に行っても部屋の鍵は開けときなさいよ」

「…………私達が番をしているよ。剣を盗まれたらいけないし」


 アリスがそう言いながら飾ってある剣を見る。

 もちろん、王様からもらった記念の宝剣だ。


「それは良いけど、お前らはちゃんと金があるよな?」

「当たり前でしょ。数年は何もしなくてもいいくらいのお金があるわよ」


 すげー。

 薬師って儲かるんだなー。


「…………私も貯金はある。使うことないし」


 確かにアリスが散財しているところは想像できんな。

 釣りをしているだけだし。


「じゃあいいや。ナタリア、付き合ってくれ」

「うん、いいよ」


 優しいナタリアは快く、頷いてくれた。


「…………幼馴染であるナタリアと私は2人で1人。ナタリアが仕事をするということは私も仕事をしていると同義」


 顔だけ出して、何を言ってんだ、こいつ。


「あんた、何言ってんの? ねえ、この足、誰の?」


 俺と同じ感想を抱いたアニーがそう言いながら足で俺の足をさすってくる。


「本物の痴女になったか?」

「あんたかい……ちょっとどいて。足を伸ばしたい」


 そう言われたので足をどかし、あぐらをかいた。


「ほらよ」

「ありがと。あー、暖かい。あんたの世界の暖房器具はすごいわね。床で生活をするという概念がなかったから絶対に思いつかない暖房器具だわ」


 アニーは満足そうににやける。


「…………私、ここの子になる」


 アリスも眠そうな目だが、満足そうだ。

 というか、そのまま寝そうだ。


「ずっと入っていると風邪引くぞ…………パメラ、そういうわけで明日、俺達3人で仕事をするわ」

「わかった。依頼を見繕っておくね」

「頼むわ。それと区長はいるか? 帰ってきたし、挨拶をしておこうと思う」

「普通に家にいるんじゃない? いつでも大丈夫だと思うよ」


 相変わらずの他人行儀だなー。

 まあ、女の子はそういうものかもしれない。


「じゃあ、仕事終わりに行ってみるかな」

「わかったわ。声をかけておくから」

「ん」


 俺達は明日の予定を決めると、解散となったたため、パメラは自分の寮に帰り、ナタリアとリリーも自分の部屋に戻っていった。

 そして、AIちゃんが風呂に入りにいったのでコタツから顔だけを出し、一向に動く気配のない2人を見る。


「お前ら、いつまでいんの?」

「寝る前には帰るから」

「…………スゥ」


 アリス、寝てるし……




 ◆◇◆




 翌日、皆で朝食を食べると、一度解散し、準備をすることになった。

 だが、アニーとアリスは昨日とまったく同じ体勢で天井を見上げている。

 違うのは頭の下に枕が敷いてあることと枕元に見たことない器具や薬草、本が並んでいることだ。


 もちろんだが、昨夜は寝る時に部屋に帰した。

 さっき朝食を食べるためにこの部屋に来て、朝食を食べ終えたらすぐにこの体勢になったのだ。


「お前ら、ずっとそうしている気か?」

「仲間じゃないの」

「…………そうそう」


 仲間のリリーはどうした?


「リリーを助けようとは思わんのか?」

「リリーは狩りでも何でもできるし、どうとでもなるでしょ」

「…………うん。最悪はユウマが出せばいい」

「そうそう。どうせもらうんだからそのくらいしてあげなさいよ」


 素直に出たくないと言えよ。


「まあ、好きにしたらいいが、狛ちゃんは連れていくからな」


 ナタリアとリリーの護衛が必要だ。


「犬猫はいいわよねー。ふわふわだもん」

「…………アニーはアニーでおかしいけどね」


 ホントだわ。

 寒いなら着ろよ。


「じゃあ、行ってくるから」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「…………頑張って」


 2人はコタツから手を出し、振る。


「奥さんみたいですね」

「怠惰な嫁だなー」


 俺とAIちゃんは部屋を出ると、交流スペースまで行く。

 すると、すでにナタリアとリリーが狛ちゃんをあやしながら待っていった。


「悪い、遅れた」


 2人のもとに行くと、謝る。


「いいよ。あの2人は?」

「出る気なし」

「まあ、コタツ、暖かかったからね。いこっか」


 俺達はギルドに向かうことにし、寮を出た。

 すると、一気に寒気が襲ってくる。


「さむっ!」


 まだ朝だから気温が低いのはわかるが、寒すぎる。

 王都にいた時はこんなに寒気を感じなかったのに……


「冬だねー」

「今年も雪が降るかな?」


 ナタリアとリリーは普通だ。

 というか、リリーに至っては楽しそうだ。


「お前ら、大丈夫なん?」


 2人はアニーのような薄着というわけではないが、いつもと変わらない格好だ。

 というか、リリーは足が露出している格好だから見ているだけで寒い。


「私は別に平気。寒いのも苦じゃないし」

「私も! 暑いのも寒いのも平気!」


 いいなー。


「暖める魔法とかないの?」


 暑かった時はアリスが涼しくなる魔法をかけてくれた。


「そういうのができるのはアリスとアニーさんだね。私は持ってない」

「私も! だって、必要なかったもん!」


 そりゃそうか。

 逆に苦手なあの2人は使えるんだな。

 いや、だったら来いよ……


「うえー、寒い……」

「本当ですよねー」


 AIちゃんも寒いようだ。


「お前はキツネだろ」


 キツネは寒さに強い感じがする。

 母上って冬でも縁側でゴロゴロしてたし。


「関係ないですよ。寒いものは寒いです」


 AIちゃんはそう言いながら抱きついてくる。

 ちょっと温かい。


「私のマフラーを貸してあげるよ」


 ナタリアがそう言いながら空間魔法から長い布を取り出し、首に巻いてくれた。

 そして、巻き終えると、AIちゃんにも巻いていく。


「おー! 暖かいし、ナタリアさんの良い匂いがします」

「ホントなー。首元を暖めると、かなり違うわ」


 マジで暖かい。


「う、うん……じゃあ、いこっか」


 ナタリアがちょっと頬を染めながら促してくる。


「どうした?」

「ユウマ、良い匂いがしたの?」


 リリーが首を傾げながら聞いてきた。


「そっちじゃねーよ。良い匂いはしたが、俺が同意したのは暖かい方だよ」

「あ、そうなんだ。でも、良い匂いがしたのは確かなんだ」


 そりゃそうだろ。


「いいから行こうよー……」


 ナタリアが再度、急かしてきたため、ギルドに行くことにした。

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