第127話 鳴る前に起こすにゃ
「うーん、どこから説明しようか……」
「私の手紙はどうなったの?」
そこから話すか。
「王都に着いてすぐにギルドに行って、ケネスに渡したぞ」
「ケネス……王都のギルドのお偉いさんね。ギルマスの右腕」
まあ、有能そうだったしな。
リアーヌはその右腕を殺そうとしてたけど。
「それでソニアとかいう受付嬢をまったく見なくなったな」
「そんなに効力があったの?」
うーん、どうだろ?
「私がものすごく簡潔に説明しましょう。王都のギルマスであるリアーヌさんがマスターを大変気に入り、ライバルになりそうなソニアさんを離しました。そして、この町にまでついてきました」
簡潔だなー。
「え? ギルマスが? えーっと、あの人のことを知ってる?」
パメラが聞いてくる。
「王様の姪っ子だろ」
「知ってるんだ……」
「色々事件もあってな」
「事件ねー……あー、それとあの人が転生者なことは知ってる? あと、ものすごい年齢を気にされる方なのは?」
その辺も有名なのかね?
「知ってる」
「最初は偉そうにしてましたが、マスターの合計年齢が上なことを知ると、すぐに態度が変わりましたよ。そして、すぐに目がハートマークになって、ぞっこんです」
AIちゃんが補足説明をする。
「えー…想像がつかない」
「びっくりすると思いますよ。パメラさんをガン見していたのは自分と同じ立場の人間を観察していたんだと思います」
「観察? 敵視じゃないの?」
普通は敵視だろうな。
「あの人、マスターの魔の手……失礼。マスターの絶対に譲らない態度を見て、折れました」
「折れたって?」
「リアーヌさん的には王都に残ってほしかったんだと思います」
「まあ、ユウマさんは優秀だしね。でも、それ抜きでってこと?」
この話、俺の前ですることかな?
タマちゃん、こっちにおいで。
そう思っていると、タマちゃんがこっちに来た。
「よしよし」
タマちゃんを撫でると、気持ちよさそうにしている。
「ですね。でも、マスターは絶対に残らないとわかって、こっちに来たっぽいです。リアーヌさんのギフトは転移なんです」
「転移? どこにでも飛べるの? すごすぎるスキルだけど」
「自分が行ったことがある場所だけみたいですね。ジェフリーさんの執務室に飛んだのはそういうことでしょう」
仕事で来たことがあるんだろうな。
「そういうこと……そこまでの力を使ってもユウマさんのことを……本気じゃないの」
「本気です。多分、国王陛下からも許可を取ったものと思われます」
お姫様を救った俺の功績を使ったっぽい。
王様が一族をやるって言ってたし。
「怖っ」
「大丈夫ですよ。あの人はマスターに逆らいませんからパメラさん達をどうこうしようとは思っていません。マスターはその辺が非常にお上手なのです」
「ふーん……だから敵視はしていないわけね。ちょっと安心したわ。王都のギルマスに睨まれるって最悪だし」
しかも、王族。
やりづらいわな。
「その辺は大丈夫ですよ。マスターがそういうのを嫌うのはよくわかっていますでしょうし」
「とりあえず、わかったわ。王都のギルマスがなんでいるのか気になったけど、そういうこと……」
パメラがジト目でじーっと見てきたのでタマちゃんを持ち上げ、パメラの方に投げ返した。
「にゃ」
タマちゃんはパメラの膝の上に着地すると、その場で丸まり、尻尾でパメラを叩き始める。
「はいはい」
催促されたパメラが背中を撫で始めると、タマちゃんがスヤスヤと寝だした。
「おやすみかな?」
「便利な猫ねー……」
空気が読めるな。
「良い猫じゃないじゃないか。実にかわいい」
「まあねー」
パメラは頷き、嬉しそうにタマちゃんを優しく撫でている。
「ギルドはどうだ? クライヴ達が戻って来ただろ?」
まだ会ってないけど。
「そうね。この前戻ってきてくれたし、今も西の森だと思う。それに他の冒険者も戻ってきてくれてる」
「良かったじゃん」
「そうなんだけどねー。冬が来るのが思ったより早そう……今日とかも寒いでしょ」
寒いな。
コタツが暖かいもん。
「急に寒くなったな」
「そうなのよ。それでユウマさん達はどうするの?」
「それを夕食時に相談する。誰かさんはやる気がないと思うけど、リリーがなー……」
誰かさんというのはもちろん寒そうな格好をしている女。
「リリーさんがどうかしたの? 王都で博打かなんかでスッた?」
リリーがどう思われているかがわかるな……
「博打なんか俺の目が黒いうちは許さんわ。そういうことじゃなくて、あいつ、実家に帰ってただろ? それで働いていなかったのと旅費で微妙に貯金がないっぽい。王都でリアーヌに頼んで、良い仕事を回してもらったが、数日でどこまで貯めたやら」
「あー、そういえば、リリーさん、この前までいなかったもんね。しかも、あの子って変なものを買い集める趣味があるし」
確かに王都で変な置物を買ってやったな。
良さがまったくわからなかったが、本人は喜んでいた。
「そういうわけでちょっと仕事をする必要があるかもしれん。それと、パメラ、王都土産がある」
そう言って、AIちゃんを見ると、AIちゃんが空間魔法から箱を取り出し、パメラに渡す。
「あ、ありがと……開けてもいい?」
「いいぞ」
パメラは包装紙をきれいに解くと、箱を開けた。
「置き時計?」
中身を取り出したパメラがそれをまじまじと見る。
「すごいものを見つけた。それ、設定すれば決まった時間に音が鳴るらしい。朝、タマちゃんに起こされずに起きられるぞ。すごくないか?」
俺も欲しかったが、AIちゃんが自分が起こすからいらないって言ったので自分の分を買うのはやめた。
最近、寒くて起きないくせに。
「そ、そうかな? あー、うん、ありがとー」
パメラも満足そうだ。
「にゃ? にゃー」
タマちゃんが顔を上げ、パメラが持っている時計を見上げる。
「タマちゃん、それはおもちゃじゃないですよ。マスターがパメラさんにあげたものです」
「にゃ」
「そうそう。そんなに珍しいものじゃないやつです」
結構、高かったぞ。
「にゃ、にゃ」
「ああ……そういう……」
こいつら、何を話してんだ?
「お前、人間の言葉でしゃべれよ」
にゃって言われてもわからんわ。
「一緒に時を刻もうなんてキザな男だにゃって言ってます」
明日の朝、目覚ましの音でビビれ、三毛猫。
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