第123話 疲れたー


 ルドガーを倒すと、上空から蜂さんがゆっくりと降りてくる。

 そして、お姫様を地面に寝かせた。

 すると、辺りを照らしていた光球が消え、周囲が暗くなる。


「ユウマ様、お怪我は!?」


 リアーヌがそう言いながら駆け寄ってきた。


「ケガはない。かなり力を使ったがな」


 煉獄大呪殺はめちゃくちゃ妖力を食う。


「ご無事なら良かったです」

「お花畑さん、あなたの立場からすると、従妹のお姫様の様子を見るのが先では?」


 AIちゃんが呆れたように指摘した。


「わ、わかっている! …………コレット、コレット!」


 リアーヌは慌てて、しゃがむと寝ているお姫様に声をかけ始める。


「AIちゃんスキャンしてみろ」

「はい」


 AIちゃんが横になっているお姫様に触れた。


「薬で眠らされているようです。そこまで強力な薬ではないですし、問題ないかと。ケガも……すり傷程度です。この程度なら回復魔法で十分に治せます」

「そうか。ひとまずは安心だな。起こした方が良いか?」


 リアーヌに確認すると、リアーヌが首を横に振る。


「寝かせたままにして戻りましょう。とはいえ、少し魔力が回復するのを待ってください」

「転移か?」

「いえ、あの光です。あれはかなりの魔力を使うんですよ。おかげで魔力が尽きました」


 ふーん……


「転移はかなりの魔力を消費するって言ってなかったか?」

「嘘ですよ。ほぼ魔力を消費しません。ただ、一日に数回しか使えませんけど」


 すごいな……

 破格すぎるスキルだ。

 俺は人工知能とかいうよくわからないものなのに……


「私にご不満が?」


 AIちゃんが不服そうな顔をする。


「そういうわけではない」


 AIちゃんに不満なんかない。

 よくわからないだけ。


「ですよね!」


 ほらかわいい。


「リアーヌ、これからどうする?」


 俺はAIちゃんの頭を撫でながらリアーヌに聞く。


「コレットを連れ帰って叔父上に報告します。申し訳ないですが、数日程、王都に滞在してください」


 依頼は終わったが、説明とあるだろうし、仕方がないだろうな。


「お前の責任問題にはならんか?」


 オットーを推薦したのはリアーヌだ。


「どうですかね? そこは叔父上の判断でしょう」


 どうなるかね?


「オットーのことはどうする? Aランクなんだろ」

「冒険者は流れる者が多いですし、どうとでもなります」


 どっかに行ったことにするわけね。


「とりあえずは問題ないか」

「そうですね……もう大丈夫です。コレットの部屋に戻りましょう」

「わかった」


 俺達は帰ることにし、リアーヌがお姫様に触れたので俺とAIちゃんもリアーヌに触れた。

 すると、やはりビクッとした。




 ◆◇◆




 俺達がお姫様の部屋に戻ると、お姫様をメイドのアナに託した。

 アナがお姫様を寝室に運んでいくと、王様にはリアーヌが説明することになり、俺とAIちゃんは宿に戻ることにした。


 宿に戻ると、俺の部屋に4人が集まっていたので説明をし、休むことにした。

 そして、翌日、朝起きた俺は皆で朝食を食べている。


「あのオットーさんが転生者で悪党なのはびっくりしたよ」


 ナタリアがサラダを食べながら言う。


「そうなのか?」

「うん。しゃべったことはないけど、優しい人で有名だったからね」


 まあ、最初はそんな感じはしたな。


「…………まあ、解決してよかった。もう帰れそう」

「そうね……足りるかなー……」


 リリーが心配そうな顔をする。


「まあ、戻っても少し仕事をしよう。冬だってまったく仕事をしないわけでもないし、何とかなるだろう」

「うん……ありがと」


 リリーは礼を言うと、テーブルの上にいる大蜘蛛ちゃんにサラダをわけてあげる。

 だが、大蜘蛛ちゃんはそれを無視して、デザートの果物を食べ始めた。


「ガーン! 私のリンゴが……」

「俺のをやるよ……」


 自分の皿にあるリンゴをリリーの皿に乗せた。


「ユウマ……ナタリアとアリスは良いリーダーを見つけたね」

「…………私の慧眼」

「リンゴで……」


 アリスが誇らしげな顔をし、ナタリアは呆れている。


「ねえ、ユウマ。この蜘蛛ってあの蜘蛛じゃないわよね?」


 アニーが笑顔で聞いてきた。


「大きさが違うな」

「…………そう」


 アニーが食事に戻る。


「まあ、大蜘蛛ちゃんだけど」

「でしょうね……ハァ……ん?」


 アニーがため息をつくと、部屋にノックの音が響いたので皆が扉の方を見た。


『ユウマ様、少しよろしいでしょうか?』


 宿屋の店員の声だ。


「構わんぞ」


 そう言うと、扉が開かれ、店員が頭を下げる。


「お食事中、失礼します。ユウマ様にお客様がお見えです」

「客? リアーヌか?」


 来るだろうなと思っていたが、こんな朝早くからとは……


「いえ、違います」

「違う? 誰だ?」

「男性の方とだけ……それ以上は私の口からは言えません」


 男? ケネスかな?


「まあ、わかった。会おう」

「では、お待ちしております」


 店員はそう言って、扉を閉めた。


「何だ? よくわからんが、行ってくるわ」


 そう言って立ち上がる。


「あ、ユウマ、私達は仕事に行くけど、ユウマは休みなよ。昨日、大変だったんでしょ」

「お前らだけで大丈夫か?」

「心配性だなー。狛ちゃんもいるし、それに……」


 ナタリアがチラッとリンゴを食べている大蜘蛛ちゃんを見た。


「まあ、大蜘蛛ちゃんがいれば問題ないか。じゃあ、リリーを助けてやってくれ」

「うん」

「皆、ありがとー」


 リリーの礼を聞くと、部屋を出る。

 すると、部屋の外で店員が待っていた。


「こちらでございます」

「ああ」


 歩き出した店員についていく。

 そして、玄関までやってくると、受付近くにある扉の前で店員が立ち止まる。


「こちらでございます」

「わかった」


 なんか変だと思いながらも扉をノックした。


『入ってくれ』


 この声は……


 俺はちょっと呆れながら扉を開ける。

 すると、その部屋は応接室のようであり、ソファーには庶民が着るような服を着た王様が腰かけていた。


「おー、ユウマ、こんな朝からすまんな」


 王様がいつものように気さくに声をかけてくる。


「何してんですか……」


 王様がこんな朝から城を抜け出すなよ……

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