第124話 望まぬ訪問


 朝から客が来たと思ったら王様だった。


「悪い、悪い。まあ、座れ」


 そう促されたため、対面のソファーに腰かける。


「店員の様子が変だと思いましたよ」


 客の名前を言わなかったし、応接室まで用意した。

 そりゃ客が王様ならそうだわな。


「ここには私とお前だけしかおらんから正直に言うが、たまに利用する宿屋なんだ。こんな感じで抜け出してな」


 抜け道でもあるんだろうか?

 そんな庶民が着るような服まで用意して……


「何の利用かは知りませんが、感心しませんな」

「お前は私に仕えないんだろう? じゃあ、感心なんかどうでもいい」

「同じ男として言っています。王妃様に悪いとは思わないのですか?」

「息抜きは大事だ。12人も嫁がいても平気なお前にはわかるまい」


 うん、わかり合えないな。


「あなたが私の仕える主君だったらすぐにでも王妃様に告げ口しますね」

「うん。お前はいらない」


 俺もごめんだ。


「どうも……それでこんな朝から何です?」

「色々と立て込んでいてな。こんな朝になった」

「呼べば城に参りますよ」

「お前、城に来たくないだろ」


 当たり前だ。


「そんなことはありませんよ」

「白々しいな。まあいい。用件は昨日の件だ」


 でしょうね。


「まず聞きたいんですが、姫様のお身体は?」

「問題ない。ケガもすぐに治ったし、朝、普通に起きてきた。襲われてすぐに眠らされたらしく、特に記憶もないそうだ」


 それはよかった。

 特に記憶がないのは良い。

 あんなことは覚えておく必要はない。


「一安心です」

「うむ。無事に救ってくれて感謝する」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 これは本当。

 人を救えたのなら良かった。


「それで褒美のことなんだが……」

「それはリアーヌに譲りました。聞いていませんか?」

「いや、聞いておる。お前はそれでいいのかの確認だ」

「問題ありません。私はすでに陛下より、剣を頂いております。これは男子にとって名誉。これ以上は望みません」


 売れないし、使い道もないから部屋にでも飾っておく予定。


「そうか……」

「リアーヌの罪は?」


 これが一番気になっている。


「罪とは?」

「もちろん、オットーのことです。あの冒険者を連れてきたのリアーヌです。もっと言えば、ギルドの長として監督責任に問われるべきでしょう」

「お前、リアーヌを庇いたいのか、断罪したいのかどっちだ?」

「一般論です」


 本当はどっちでもいい。

 何故ならどうなろうが、変わらないから。


「まず、あのオットーとかいうAランクな。余罪がありそうだ」

「それは私も思いました。手口がこなれていましたので」

「そこは現在調査中になる」

「そうですか」


 見つかるかねー。


「結論を言うと、リアーヌの罪は問わない」

「私の功績ですか?」

「いや、リアーヌはその点については別のことを求めてきた。まあ、これはいいだろう。私は元からリアーヌの罪を問うつもりはなかった」

「身内だからでしょうか?」


 まあ、よくあることだ。

 貴族だった俺も人のことを言えないので何とも言えない。


「それもあるが、あいつは有能だ」

「転移ですか?」

「そうだ。あの子を他国に流出させるわけにはいかん」

「王族でしょう? さすがに他国には行かないと思いますが……」


 いくらなんでもね。


「転生者はわからん。違う世界の出身がゆえに考えがまるっきり違うんだ。あいつのあの年齢にこだわるところとかまったくわからん」


 あー、まあ、そうかも。


「同じ転生者としてはわからないでもないですね。確かに文化が異なります」

「だろう? だからあいつが何を考えているのかがわからん…………いや、最近はよくわかるがな」


 あー、うん。

 そんなに見るな。


「まあ、リアーヌが罪に問われないなら構いません。ギルマスを続けるんですね?」

「続けるらしい。よほど何かを守りたいようだ」


 あっそう。

 見るなっての。


「でしたら今回の件は一件落着ですね。早く離宮とやらを建ててください」

「あいつ、そこまでしゃべったか……」


 べらべらしゃべってたね。


「まあ、流してください」

「お前、もうセリアの町に帰るのか?」

「用件は済んだでしょう? ならば帰ります」


 リアーヌから数日はいてくれって頼まれたが、王様と話をしたのだからもういいだろう。


「そうか。まあ、止めはせん。しかし、リアーヌをどうする気だ?」

「どうするとは?」

「あいつ、お前を好いておるぞ」


 知ってる。


「さようですか」

「淡白だな……何も思わんのか?」

「何も言われておりませんので」


 昨日、言われかけたけど。


「残ってほしいと乞われたらどうする?」

「残りません。帰ります」

「お前な……」


 王様が呆れる。


「国王陛下、あなたはそこで残ってしまう人間なんでしょうね。だから今回の事件が起きた。複数の人間と付き合うには差別をしてはいけません。誰かを特別扱いしてはいけません」

「簡単に言うな……」


 王様が首を横に振った。


「誰かを愛することはとても素晴らしいことです。家族を愛するのはとても尊いことです。だからこそ全員を平等に愛さないといけません」

「つまり?」

「リアーヌに頼まれて残れば、私の仲間が不満を持ちます。これは後に響く」

「仲間ねー……もう自分の女扱いか? あの者達や西区の区長の娘とそういう関係でないことは調べておるぞ」


 王家は諜報力が違うな。


「そうなるやもしれません。その時に困るのですよ。だから私は残りません。ついてくるのはリアーヌです。私は絶対に残らない」


 俺があいつらとどうなるのかは未来のことだからわからない。

 だが、どんなことになろうと失敗しないように予防線はいくつも作っておかないといけないのだ。

 何も考えずにその場その場で動く人間は必ず失敗する。

 特に家族になるというならば、信頼関係を崩すようなことは絶対にしてはいけない。


「…………恨まれるとは思わんのか?」

「まさか。それにそれくらいがちょうどいいのです。好きなだけ私の愚痴を言い合えばいい。しかし、妻同士の仲が悪いなんて最悪です。私は幸せな家族が欲しい」

「女の敵で男の敵だな、お前……」


 どうとでも言え。

 俺は弟や妹とも不仲にはならなかった。

 ケンカをすることはあってもそれを引きずってはならない。

 一族は共になければならないのだ。

 如月家はどっかのギスギス一族とは違う。


「私の味方は一族です。逆もしかり」

「リアーヌをどう思う?」


 リアーヌ?


「かわいらしいじゃないですか」

「お前の仲間は?」

「皆、良いところがあります」


 人は皆、そうだ。


「よくわかった。お前は私達とは根本的に違うな」

「愛が多いらしいです」


 覚えてないから知らんけど。


「多いだけか? まあいい……好きにせい。きっとお前が仕えた主君もそう思っただろう」


 思ってない。

 多分……


「話は終わりですか?」

「ああ。そろそろ戻らねば。ユウマ、娘を二度も救ってくれたこと、スタンピードを止めたこと、魔族を撃退したこと、すべてに感謝する。褒美はたいしたものはやれんかったが、一族をくれてやる」


 俺の功績はそこに消えたか。


「わかりました」

「うむ。ではな。セリアの町を引き続き、頼む」

「一冒険者として微力を尽くしましょう」

「ああ。期待している」


 王様はそう言うと、立ち上がり、部屋を出ていく。

 俺も応接室を出て、部屋に戻ると、AIちゃんだけが残っていた。


「あいつらは?」

「仕事に行きましたよ…………マスターの愚痴を言い合いながら」


 そうかね。





――――――――――――

本作ですが、タイトルが変わっております。

ご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願いいたします。

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