第122話 大盗賊ルドガー


「そうかい」


 オットーもとい、ルドガーは担いでいる姫様を後ろに放り投げた。

 すると、姫様が地面に転がるが、ピクリとも動かない。

 気絶しているか魔法かなんかで眠らされているのだろう。


「コレット!」


 リアーヌが叫ぶ。


「うるせーよ。テメーは特別に四肢を切断して魚のエサにしてやるから待ってろ」


 ルドガーがそう言うと、どこからともなく剣を取り出し、構えた。


「かかってこい、Aランク冒険者。二度目の死を与えてやろう」

「はっ! いいね! ぶっ殺してやる!」


 俺は手でAIちゃんとリアーヌを下がらせると懐から護符の束を取り出し、宙に投げる。

 すると、宙を舞っていた護符が右手に集まり出し、剣を作った。


「いちいちかっこいいな、おい」

「女が見ているからな」

「挑発も上手いじゃないか、貴族様」


 乗ってこんか……


「派手に殺してやるからかかってこい」

「そんなにお姫様から離れさせたいか?」


 姫様はルドガーの後ろにいる。

 この状況で狐火を放ち、躱されたら姫様が燃える。


「ちゃんと計算しているのはすごいな」

「俺は大盗賊だぜ? 何人もの兵士や騎士を屠ってきた」


 狡猾だ。

 ギフトの力だけでAランクになったわけじゃないらしい。


「まあいい。ならこっちから行くぞ」

「来な。お前が死んだらそこのガキ2人をバラバラにしてやる」


 逆に挑発してきやがった。


「地獄沼」


 俺は術を放った。

 すると、ルドガーの足元が沼に変わる。

 だが、ルドガーがいない。


「バレバレだよ!」


 ルドガーはすでに俺の右下に来ており、剣を振り始めている。


「くっ!」


 何とか剣でそれを受けた。


「ほう。貧弱な術師かと思ったが、剣も使えるようだな」


 ルドガーは感心しながらも剣に力を入れてくる。

 俺はそんなルドガーの顔を凝視した。


「チッ!」


 何かを察したルドガーが慌てて距離を取ると、先程までルドガーがいた位置が金色の火柱が立つ。

 ルドガーは距離を取ると、再び、お姫様を背にした。


「こえー、こえー。目が金色に光ったぞ。お前、人間か? 魔族ってやつじゃね?」

「人間だよ。魔族はもっと青白い」

「へー、そうかい」


 ルドガーがにやにやと笑う。

 こいつ、強いわ。


「マ、マスター……」


 後ろからAIちゃんの心配そうな声が聞こえた。


「AIちゃん、リアーヌを下がらせろ」


 リアーヌでは相手にならん。


「わ、わかりました」

「いくらでも下がっていいぞ。どうせ殺す」


 こいつ、余裕だな。

 まあ、それだけの実力はあるが……


「お前が死ね」


 そう言うと、構えて斬りかかる。

 だが、俺の剣はルドガーの身体に届く前に受けられてしまった。


「貴族様の剣だな。鍛えてはあるが、実戦経験が乏しい」

「術者だからな」


 剣を振り回すのは士族の仕事だ。


「剣はこう使うんだよ、おぼっちゃま!」


 ルドガーは剣の刃を立てると、俺の剣を飛ばす。

 剣はクルクルと回転しながら宙を舞い、遥か向こうに落ちた。


「死ね!」


 ルドガーは振り上げた剣を振り下ろしてくる。


「分け身」


 俺が術を放ったと同時にルドガーが剣を振り下ろした。

 俺の目には俺が斬られる光景が見えている。

 だが、その俺は土のように崩れた。


「チッ! 妙な術を」

「幻術だ」


 こいつは俺が作り出した幻術を斬ったに過ぎない。

 当然、俺は斬られていない。


「めんどくせーし、もう殺してやるよ」


 ルドガーは俺に向かって手を掲げる。

 魔法を使う気だろう。


「魔法で俺に勝てるとも?」

「テメーは魔法を使えねー」


 人質がいるもんな。

 もういないけど。


「ん?」


 周囲にブーンという音が聞こえたのでルドガーが周囲を見渡す。

 そして、後ろを見た。


「なっ!? 魔物か!?」


 ルドガーの後ろには大きな蜂がおり、お姫様を抱えて宙に浮いていた。


「くっ! 蜂の魔物が光に寄ってきたか! ふざけるな! そいつは高値だぞ!」


 ルドガーは勘違いをし、蜂さんに斬りかかる。

 だが、蜂さんは簡単に剣を避けると、お姫様を抱えたまま遥か上空に逃げていった。


「クソが! 肉団子にして食う気か!?」

「蜂の生態はそうだけど、ウチの子がそんなことをするわけないだろ」


 俺がそう言うと、ルドガーがこちらを振り向く。


「テメーの蜂か!」

「お前が護符の束を飛ばしてくれてよかったよ」


 おかげで気付かれずに式神を出し、お姫様を救出することができた。

 正直、気絶していて助かったわ。

 絶対に騒ぐもん。


「チッ! あれはわざとか!」

「当たり前だ」


 そもそも術師の俺が突っ込むわけない。


「クソが! 舐めるなよ!」


 ルドガーは再び、俺に向かって手を掲げてきた。

 すると、ルドガーの手に高濃度の魔力が集まってくる。


 俺はそれを見て、自分の右目に触れた。


「ユウマ様、フレアです! 最強の火魔法です!」


 後ろからリアーヌが教えてくれる。

 だが、どうでもいい情報だ。

 だって、俺には火が効かないし。

 でもまあ、後ろの2人はヤバいかもしれない。


「俺の目に映るものはすべてを焼き尽くす……」

「死ねっ! フレア!」


 ルドガーの手から高濃度の圧縮した魔力が火の玉に変わり、飛んできた。


「お前が死ね……煉獄大呪殺!」


 俺が術を放つと、俺の視界に映るものが真っ黒に染まっていく。

 すべてのものが黒くなると、すぐに元に戻るが、一面の平原の草がなくなっていた。

 そして、ルドガーがいた位置には黒い影だけが残り、そこには誰もいなかった。


「地獄に落ちろ」


 過剰な術だが、ルドガーは絶対にここで殺しておかないといけなかった。

 こいつは逃がしたらナタリア達を狙う。

 それは許されないのだ。

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