第119話 一緒、一緒
「王妃様から守るためですね?」
「ああ。あいつは昔から嫉妬深い女だったが、最近、少し過剰になってきたからこのようなことをした」
王妃とちゃんと話せばいいのにと思うのは俺だけかね?
「そこについては私は口をはさむつもりはございません。思うところもありますが、我らとしては王太子であるクロヴィス兄様がしっかりしておられますし、あとは陛下の家庭の問題です」
めっちゃ言ってるな。
「そうだな……」
王様が苦笑いを浮かべる。
「それで? これはどういうことです?」
「アナ、説明を頼む」
王様は控えているアナを見た。
「実は先刻、姫様が食後のお茶を楽しんでおられたのですが、急に目の前から姿が消えたのです。そして、姫様の代わりにその紙が……」
「どういうことだ? お前達は何をしていた?」
「言った通りでございます。我らは目を離していたわけでもないですし、警戒を怠っていたわけでもありません。本当に目の前で消えたのです」
神隠しかね?
「それでどうした?」
「我らも陛下から事情を伺っていましたので我らが知らないことがあったのだろうかと思い、こっそりと陛下に報告しました」
「もちろん、私は何も知らん」
王様が話に入ってくる。
「それから?」
「陛下が部屋に参られ、事情を聞き、ようやく姫様が攫われたことに気付きました。現在、親衛隊の者が城や市中を捜索中です」
「そうか……」
人の心理だな。
本来なら大騒ぎだが、嘘をついているが故に真に気付かない。
それで対応が遅れたわけだ。
「リアーヌ、どう思う?」
「叔父上達が知らないというのなら別の線でしょう。おそらく今回の予告状自演に便乗したと思われます。予告状のことを知っているのは?」
「お前達の他には私やコレットの護衛達、それに一族の者だ」
まあ、そんなところだろう。
「陛下、その……」
リアーヌが言いにくそうにしている。
「一族の者はシロだ。城内を徹底的に調べたし、王妃の部屋も調べた。とはいえ、外部に頼んだ線も残っているから何とも言えん」
普通に考えれば怪しいのは王妃だ。
何しろ、動機がある。
今回の自演に気付き、便乗してコレットを殺す。
これが一番有力。
「そ、そうですか……」
「ユウマ、お前はどう思う?」
王様が俺を見てくる。
すると、リアーヌもアナも見てきた。
「私見でよろしいのでしたら」
「構わん」
「王妃様はないでしょう。利点よりもバレた時の欠点の方がはるかに大きい。王太子へも影響します。母親はそういうのに敏感です」
王妃ならば良いとこの生まれだろうし、なおさらだ。
もう一人の側室は王妃以上に利点がないし、欠点も大きい。
「では、犯人は?」
「それはわかりません。リアーヌが言うようにその予告状を知っている者です。また、城や町を探しているようですが、探しても見つからないでしょう」
「どういうことだ?」
王様はわからないようで聞いてくる。
「こういう時は文章を書いた本人の気持ちになってみるのが大事です。陛下が書かれた文章で変なところは魔族が王である陛下を差し置いて、姫様を狙ったということです。これには姫様を狙われているものとし、王妃様などから守りたいという陛下の思いが見えます。次に今回の予告状で変なところは【明日の朝、市中に晒してやろう】の部分です。殺すのが目的なら攫う必要はなく、姿を消すことができる時点で殺しています。また、明日の朝、市中で晒すという時間と場所を特定しているのが変です。それをする意味がありません」
「見せしめではないのか?」
「見せしめでも場所と時間を指定する必要はありません。殺して適当な時間、場所で晒せばいい」
城でもいいし、その辺に投げ捨ててもいい。
明日の朝でなくても明後日でもいいし、今すぐにでもいい。
「では、何だと?」
「決まっています。捜索隊に王都から動いてほしくないからです。それも少なくとも明日の朝までは。姫様はすでに王都にいないでしょう」
そもそも殺すのが目的ではないと思う。
恨みも買ってなさそうだし、殺す価値がない。
「リアーヌ、冒険者に緊急依頼を出せ! アナ、捜索隊を増員し、王都外を捜索せよ!」
理解した王様が立ち上がって指示を出した。
「へ、陛下、お待ちを!」
「叔父上、落ち着いてください」
アナとリアーヌが制する。
「何を言う!? チンタラしていたら国外に行かれるかもしれんぞ!」
「お待ちください。あまり大事にしてはなりません。コレットの名に傷が付きます」
あの姫様もいつかはどこかに嫁ぐのだろうが、こんな事件が明るみに出れば、政略結婚の価値がなくなる。
「それは……では、どうする!? どこに行ったのかもわからんのだぞ!」
「そ、それは……そのー」
リアーヌが王様を制しながら俺をチラチラと見てきた。
助けて、という心の声が聞こえてくるようだ。
「陛下、AIちゃんを出してもよろしいでしょうか? 姫様を探しましょう」
まあ、助ける分にはいいか。
「そんなことができるのか!?」
「多分?」
確定はできない。
さっきのもあくまでも予想に過ぎないし、すでに死んでいる可能性は十分にある。
「構わん。出せ」
王様が頷く。
『AIちゃん、大丈夫?』
『大丈夫でーす。こちらはアニーさんが何してんの? って呆れているだけです』
俺だってそう思うわ。
『消すぞ』
『はーい』
俺は遠くにいる式神を消すと、護符を取り出す。
そして、霊力を込めて、床に投げると、AIちゃんが現れた。
「AIちゃん、参上! マスター、私は何をすれば?」
この場に現れたAIちゃんが聞いてくる。
「姫様の匂いを追え」
「えー……犬じゃないんですから」
一緒だろ。
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