第118話 城へ
「叔父上がこんな時間に何の用だ? 明日でいいだろう」
「私は何も聞いておりません。ですが、至急とのこと。何かあったのでしょう」
それはそうだろうが、なんで俺もなんだろう?
「至急……国王陛下の……」
「ギルマス」
「わ、わかっておる。馬車を」
リアーヌはチラチラと俺を見ながら悩んでいたが、ケネスに窘められると王宮に行くことにしたようだ。
「用意しております。すぐに」
「ド、ドレスなんだが……」
リアーヌは今日も赤いドレスだ。
「陛下は気にされません」
気にしているのはリアーヌだろう。
まあ、至急って言っているのだから正しいのはケネスだ。
「わ、わかった。お前は先に下で待っておれ……」
「急いでくださいよ」
ケネスはそう言って、部屋から出ていく。
「……ユウマ様、申し訳ございませんが、城までお付き合いしていただけませんか?」
リアーヌは目に見えて落ち込んでいた。
正直、行きたくないが、泣きそうなリアーヌを見ていると可哀想になってくるし、さすがに緊急事態っぽいから断れないだろうな。
「わかった。すぐにでも行こう」
「はい……」
俺は店員を呼び、会計を済ませると、落ち込んでいるリアーヌを連れて店を出る。
店の前には馬車が停まっており、ケネスが待っていた。
「どうぞ。すぐにでも出発します」
ケネスが促してきたのでリアーヌと共に馬車に乗り込む。
俺達が並んで席につくと、ケネスも乗り込んできた。
すると、すぐに馬車が動き出す。
「ケネス、お前は何も聞いていないんだな?」
俺はケネスに再度、確認をすることにした。
「ええ。兵士がギルドにやってきまして、陛下が呼んでいるからギルマスに取り次いで欲しいと言われました」
「断らなかったのか?」
「もちろん、ギルマスがユウマ殿と食事を楽しんでおられることは知っていましたし、明日にしてほしいと言いました。ですが、至急とのことでした」
ふーん……
「俺とギルマスだけか?」
「いえ、オットー殿もです」
オットー?
となると、例の予告上関係か?
もしかして、王妃とかにバレた?
「オットーは先に行っているのか?」
「いえ、部下がオットー殿を探しているのですが、見つからないのです。この時間ですし、歓楽街かと……」
あそこは人が多いし、娼館にいたら見つけられんわな。
「仕方がないか……」
「申し訳ありません」
俺達はそのまま馬車に乗り、無言で暗い街中を進んでいく。
すると、馬車は城の中に入り、中庭で止まった。
窓から覗いてみると、中庭にはかがり火が焚かれており、数人の兵士がいるだけだ。
「よし! 切り替えなくては!」
馬車が止まると、これまで無言で俯いていたリアーヌが自分の頬を両手でパチンと叩く。
「ギルマス、私はギルドに戻り、待機しておりますので。オットー殿が見つかったら城に向かわせます」
「頼む。では、ユウマ様、参りましょう」
リアーヌがそう言うので頷くと、馬車から降りた。
すると、馬車が動き出し、戻っていく。
「リアーヌ様、ユウマ殿、お待ちしておりました。どうぞこちらです」
待っていた兵士が俺達を案内してくれる。
そのまま兵士についていき、歩いていくと、王様の部屋ではなく、お姫様の方の部屋に前に到着した。
「ご苦労である」
部屋の外には王のそばにいた壮年の騎士が立っており、連れてきた兵士をねぎらう。
すると、兵士は頭を下げ、戻っていく。
「リアーヌ様、ユウマ殿、どうぞ中へ。陛下がお待ちです」
「うむ」
リアーヌは頷くと、扉を開け、中に入った。
俺も続いて部屋に入ると、テーブルについている王様とメイドのアナが立っていた。
だが、この場にはお姫様と護衛のカールがいない。
「叔父上、リアーヌがユウマ様と共に参上いたしました」
「ああ。お前……気合が入っておるな……」
王様がリアーヌの格好を見てつぶやく。
「ええ。とても迷惑です。ですが、緊急事態とのこと。いかがなさいました? カールはともかく、コレットの姿が見えませんが……」
「ほれ」
王様が一枚の紙を渡してくる。
リアーヌはそれを受け取ると、読みだした。
「…………これは?」
「見ての通りだ」
王様がそう言うと、リアーヌが困った顔で俺を見上げてきた。
「見せろ」
「どうぞ」
手を伸ばすと、リアーヌが手紙を渡してきた。
俺はそれを受け取ると、読み始める。
【愚かな人族の王よ。予告通り、お前の娘を殺す。明日の朝、市中に晒してやろう】
ふーん……
『AIちゃん』
『はいはーい』
念話で宿屋で待機しているAIちゃんを呼ぶとすぐに返事がきた。
『状況は?』
『もちろんわかっています。私はマスターとリンクしていますので』
『一度消し、すぐにここに呼ぶ。ナタリア達に状況を説明し、今夜は一歩も外に出るなと伝えろ』
あいつらに何かがあるとは思わんが、念のためだ。
宿屋にいれば狛ちゃんと大蜘蛛ちゃんがいるから大丈夫だろう。
『わかりましたー』
AIちゃんとの念話が切れたので紙をリアーヌに返す。
「叔父上、これは叔父上が書かれたのですか?」
「いや、違う」
リアーヌが聞くと、王様が首を横に振って否定した。
「いや、しかし……」
「リアーヌ、前の手紙と筆跡が違うだろ」
前の手紙はきれいな字だった。
だが、その手紙は汚いというわけではないが、下手だ。
「……叔父上、説明してください。そうでないと何もできません」
リアーヌは俺の言葉を聞き、もう一度手紙を読むと、顔を上げ、王様に説明を求める。
「そうだな……お前は感づいていただろうが、前の予告状は私が書いたものだ」
王様があっさりと認めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます