第115話 地図の価値


 俺とアリスは釣りをしていのだが、いつもより釣果が良い。

 昼になると、焚火を起こし、釣った焼き魚を食べ、午後からも釣りをする。


 リリーとナタリアはビッグクラブやサハギンとかいう半魚人を魔法や矢で倒し、魔石を採取していた。

 アニーはよくわからないが、薬の材料を採取しているらしく、その辺を狛ちゃんとウロウロしている。

 AIちゃんは俺達のそばで地図を描いていた。


 そうやってゆっくりと過ごしていると、またもやリリーが海から出てきたビッグクラブを倒す。

 すると、アニーが俺達のもとに近づいてきた。


「今日はもういいんじゃない?」


 そう言われて太陽を見ると、日が沈みかけており、あと少ししたら夕方になりそうだった。


「それもそうだな。片付けよう」

「…………ん」


 アリスがこくんと頷くと釣竿を上げる。

 俺も釣竿を上げると、アニーがリリー達のもとに向かった。

 そして、2人を連れて戻ってくる。


「リリー、どれくらい倒した?」

「14! よーし! 明日も頑張るぞ!」


 まあ、数日頑張ればそこそこの額になるか。


「わかった。じゃあ、今日はもう帰ろう」

「うん!」


 俺達は帰ることにし、来た道を引き返していった。

 そして、王都まで戻ると、ギルドに向かう。

 ギルドに入ると、朝とは違い、受付の方に多くの人が並んでいた。


「多いわねー」


 アニーが嫌そうな顔で並んでいる冒険者達を見る。


「これが嫌なんだよねー」

「…………潰されそう」


 俺達が受付を見ていると、またもやケネスが近づいてきた。


「おかえりなさい。どうでした?」

「そこそこだな」

「そうですか。どうぞこちらへ。ギルマスが話があるそうです」


 話?

 何だろ?


「わかった」


 俺達はケネスについていき、奥の部屋に入る。

 すると、ソファーに座っているリアーヌが俺達に気付き、ささっと手櫛で髪を整えた。


「別に何も変わってませんよ」

「うるさい!」


 ケネスが呆れて言うと、リアーヌが怒る。


「ギルマス、お連れしましたが、少しお待ちください。先に精算をしますので」

「あー、今の時間は多いもんな。いいぞ」

「どうぞ。おかけください」


 ケネスはそう言って、俺達にソファーに座るように勧めると、自身も対面のオファーに座った。

 俺達が並んで座り、その対面にリアーヌとケネスが並んでいる形だ。


「では、成果の方を」

「ああ。リリー」

「うん。これ」


 リリーは頷くと、テーブルに魔石を置いた。


「ほうほう……」


 ケネスは魔石を一つ一つ手に取り、調べていく。

 その間、リアーヌは目を細め、ナタリア達を順番にじーっと見ていた。


「リアーヌ、昨日はありがとうな」


 リアーヌがあまりにもじーっと見るので、ナタリア達、というか、主にナタリアが居心地が悪そうにしているため、話を振る。


「あ、いえ。こちらこそありがとうございました。とても楽しかったです」


 リアーヌがこちらを見て、微笑みながら頭を下げた。


「ギルマス、魔石はどれも質が良いですが、どうします?」


 ケネスが隣を見ながら聞く。


「だったら普通に計算しろ」

「金貨7枚と銀貨4枚ですね」

「切りが悪いな」

「はいはい。えーっと、金貨10枚ですね。どうぞ」


 ケネスが呆れた顔で金貨10枚をテーブルに置いた。


「そんなに!? やったー!」


 リリーが嬉しそうに金貨を受け取る。


「明日以降も行かれますか?」

「そのつもりだ」

「そうですか……」


 ケネスは頷くと、リアーヌを見た。


「ああ、うん。わかっている……ユウマ様、お呼びしたのは実は用件かあるからなんです」


 リアーヌは無表情で頷いたが、すぐに笑顔で俺を見る。 


「用件って何だ? 例の件か?」


 もちろん、予告状。


「あ、いや、それとは違います。実はコレット……私の従妹なんですが、まあ、姫殿下ですね。その子がユウマ様にぜひお礼を言いたいと言ってるのです」


 大蜘蛛ちゃんが助けたあの馬車に乗っていたお姫様か。


「礼か……この状況でいいのか? 狙われているんだろ?」


 予告状を出されただろ。


「あー、まあ、そうなんですけどね。ただ、コレットが言うには助けていただいたのに礼を言わないのは礼に失すると……実を言いますと、ユウマ様がお助けになった護衛の中にこの度、夫婦になった者達がおりましてね。そのこともあって自分が直接、礼を言うと」


 要はお姫様のわがままか。

 王様からすでに礼と褒美をもらっているのだから蒸し返すことではない。


「夫婦か……あのメイドかな?」


 AIちゃんを見る。


「じゃないですかね? 他に女性の方はいませんでしたし」

「ああ、それだと思います。コレットお付きのメイドと親衛隊長の組み合わせです」


 なるほどね。

 お姫様とも近い関係だろうし、それでお礼を言いたいっていう発想になったか。

 気持ちはわかる。


「止めろよ……」

「すみません。叔父上は末の娘に甘くて……」


 まあ、わからんでもないがな。

 60歳で10歳そこそこの娘ということは孫くらいに離れている。


「具体的にはどんな感じになるんだ?」

「お茶会ですね。私も同席します」


 この前の王様と会った時と一緒か。


「まあ、断るわけにはいかんわな」

「本当に申し訳ありません。忙しいでしょうに」

「いや、いい。それでいつだ?」

「明日はどうです? いつでもいいのですが、早い方がいいでしょう」


 明日か……


「お前らはどうする?」

「私達は私達で仕事をしているよ」


 大丈夫かね?


「わかった。リアーヌ、明日でいい」

「わかりました。では、明日の午後にお迎えに上がります」

「悪いな」

「いえ、当然のことです。お時間を取らせて申し訳ありません」


 リアーヌが深々と頭を下げる。

 こいつ、さっきからすげー頭を下げるが、王族が簡単に頭を下げていいのかね?


「ああ、それと地図って買い取れるか?」

「地図ですか? それはどういう……」

「式神に鳥がいてな。それが見た地形なんかをAIちゃんが地図にしているんだ」


 そう言うと、AIちゃんが地図をテーブルに置いた。

 すると、リアーヌがそれを手に取り、見だす。

 ケネスも覗き込むように見だした。


「ほうほう……王都から海までの地図ですな。街道はこういう形をしているのですね」


 ケネスが感心する。

 だが、リアーヌの顔から笑みが消えていた。


「そのようだな……ユウマ様、王都の地図とかあります?」

「あるぞ」


 そう答えると、AIちゃんがまたも地図をテーブルに置いた。

 リアーヌはすぐに地図を見だす。


「これはすごいですな。ギルマス、買い取ってもいいのでは?」


 地図を覗き込んでいるケネスが感心しながら提案した。


「そうだな……ユウマ様、この地図はセリアの町でもお売りに?」

「ああ。ギルドに売った」

「そうですか……」


 リアーヌが悩み始める。


「どうかしたか?」

「ユウマ様、地図を作れという仕事はありましたか?」

「いや、依頼のついでに描いてって、受付嬢のパメラに頼まれたから南の森や東の遺跡の地図を売っただけだ」


 地図の依頼そのものがあったわけではない。


「なるほど……どうりで情報が上がってこないはずです」


 リアーヌが頷いた。


「何かマズかったか?」

「マズいですねー。地図を作るのは問題ありませんし、これほどの地図を作れるのは非常に素晴らしいです。ですが、素晴らしすぎます」

「というと?」

「これ、軍部の連中に見つかったら国境沿いや近隣国の地図を描けという強制依頼が来ますよ」


 他国の地形が欲しいわけか……


「めんどくさい」

「でしょうね……セリアの町のギルドはこれを隠したようです。あくまでも自分達用にと。だからこの情報がここまで上がってきてない」


 パメラ、ジェフリー……それに区長もか。


「マズかったか……」

「いえ、この話は私のもとで止めましょう。地図は買い取ります。ですが、ここやセリアの町のギルド以外で地図を売るのはおやめください。軍の連中は強引でしつこいですよ?」


 それも元居た世界と一緒か。


「わかった」

「はい。では、この地図はもらいます。金貨100枚でいいですか?」


 高っ!


「ギルマス、気持ちはわかりますが、高額にすると、監査の時に引っかかりますよ」

「チッ! それがあったか」


 ケネスが耳打ちをすると、リアーヌが不機嫌そうな顔で舌打ちをする。


「30枚くらいで……明日以降の魔石代にも色を付けますのでそれで調整します」

「わかった。それで頼む」


 リアーヌが頷くと、ケネスが耳打ちをやめ、金貨30枚を取り出し、テーブルに置いた。


「ユウマ様、金貨30枚で買い取りましょう」


 リアーヌが笑顔で告げてきた。


「それでいい」


 金貨を取ると、AIちゃんに渡す。


「では、話は以上です。明日、お迎えに上がりますのでよろしくお願いします」

「ん。これで失礼する」


 俺達は部屋を出ると、帰ることにした。

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