第114話 海は広いな、大きいな


 リアーヌと食事に行った翌朝、俺達は俺の部屋で朝食を食べていた。


「昨日はどうでした?」


 パンをもぐもぐと食べているAIちゃんが聞いてくる。


「立派な店で普通に食事をしたよ」

「チラッとリアーヌさんを見ましたが、気合入りまくった格好でしたね」

「身だしなみだろ」

「ですかねー?」


 そうだよ。


「それと仕事の件を頼んでおいたぞ。ギルドに行けば、ケネスが紹介してくれる」

「おー、リリーさん、良かったですねー」

「うん! ユウマは頼りになるなー」


 まあな。


「じゃあ、これからギルドに行くの?」


 ナタリアが聞いてくる。


「どうせ暇だしな」

「まあねー」


 観光も買い物も十分だ。

 あとは宿屋でゴロゴロしているだけ。


「…………うん、暇」

「まあ、稼ぎましょう」


 アリスとアニーも問題ないらしい。


「よーし! ご飯を食べたら出発だ!」


 俺達は元気いっぱいのリリーに急かされ、朝食を食べる。

 朝食を食べ終えると、準備をし、ギルドに向かった。


 ギルドに着くと、相変わらず、多くの人が依頼票が貼ってある掲示板の前でたむろっている。

 そんな人だかりを眺めていると、ケネスが俺達のもとにやってきた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 ケネスの挨拶を返す。


「ギルマスから話を伺っております。どうぞこちらへ」


 俺達はケネスに促され、受付の方に向かった。

 受付では何人もの受付嬢が座っていたが、空いている席にケネスが座る。

 というか、その席はソニアが座っていた席だ。


「ソニアはどうした?」

「はは……ギルマスが普段頑張っているソニアに6日ほど特別休暇を与えましたよ」


 ケネスが呆れた表情で渇いた笑いを浮かべた。


「うわー……マスター、あのちびっ子、マジですよ」


 6日は俺達が滞在している期間だ。

 その間、悪女さんを排除しやがった。


「いじめはよくないぞ」

「そういうのではありませんよ。ソニアはウチのエースでギルマスからの信頼も厚いですからね。まあ、その信頼が厚すぎるからでしょうけど…………ソニアは喜んで買い物に行くって言ってましたよ。ウチも激務なんでね」


 じゃあ、いいか。


「それで仕事をしたいんだが」

「ええ……あの発情お花畑……失礼。ギルマスから聞いております。どういう仕事が良いですか? これが得意とか、これが良いとかあれば」


 ケネスも思うところがあるんだな……


「討伐系か採取だな。俺達はセリアでは主にそれをしていた」

「なるほど、なるほど。でしたら外の仕事の方がいいですね。西にある森と東にある海だとどっちがいいですか?」

「海があるのか?」

「ええ。内海ですが、ありますよ。そこから漁船が出るんですけど、海岸の魔物の駆除の依頼があります」


 森はセリアの町でも受けられるし、海がいいかもな。


「魔物ってどんなのだ?」

「ゴブリン、スライムなんかですね。あとは海からビッグクラブやサハギンなんかも出ます」

「なんだそれ?」

「大きいカニと半魚人です。どちらも魔法が有効ですね」


 ふーん……


「半魚人は嫌だが、そのカニは食えるのか?」

「毒がありますよ。それでも食べた者の話によると、大味で美味しくないそうです」


 毒はどうとでもなるけど、大味かー……


「どうする?」


 後ろの4人に聞いてみる。


「…………海がいい。魚釣りができる」


 アリスが我先に意見を出した。


「まあな。リリーは?」

「私は森の方が活躍できるよ。でも、魔法が有効なら海でもいいんじゃない? 魔法使いばっかりだし」


 リリーがそう言うならそうするかな。


「海でもいいか?」


 残っているナタリアとアニーに確認する。


「私は大丈夫」

「海は髪や肌がべとつくのよねー。帰ったらすぐにお風呂に入らないと」


 若干1名、文句を言っているが、反対というわけではないらしい。


「ケネス、海に行ってくるわ」

「さようですか。でしたらお願いします」


 依頼を決めた俺達はケネスから地図を受け取り、ギルドを出た。

 そして、東にある門から王都を出ると、街道を歩いていく。


「気付かなかったが、本当に海が近いんだな」


 視線の先にはうっすらとだが、海が見えていた。


「あそこで獲れた魚が王都やセリアの町に届くんだよ。前に食べてたでしょ」


 そういや俺やアリスが釣れなかった時に食べたな。


「海には行ったことがあるのか?」

「何回かあるよ。アリスに付き合わされた」


 釣りか。

 アリス、常に釣竿を持ち歩くくらいには釣りが好きだもんな。


「マスター、地図を描きましょうか? この地図の精度を見る限り、売れるかもしれません」


 AIちゃんがそう言ってケネスからもらった地図を渡してくれる。

 その地図は子供が描いた落書きにしか見えず、王都、道、海と描かれているだけで距離感なんかはまったくわからない。


「頼むわ」

「はーい」


 AIちゃんは返事をすると、地図を描き始めた。

 もちろん、上空にはカラスちゃんが飛んでいる。


 そのまま歩いていると、1時間も経たずに海に到着する。

 海には何軒かの小屋と共に桟橋が設置されており、船が数隻ほど停まっていた。

 しかし、その船寄りも明らかに多い馬車も止まっており、商人らしき人が大勢いた。


「何だあれ?」

「…………買い付け商人だよ。今は漁に出ているけど、戻ってきた猟師から魚を買うの。それ待ち」


 海に詳しそうなアリスが教えてくれる。


「なるほどな」


 魚は鮮度が命だし、すぐに買うためか。


「…………私達はこっち。あそこに魔物なんかいない」


 アリスがそう言って、街道を逸れ、左の方に歩いていったのでついていく。

 すると、砂浜に到着し、ぼろい桟橋があった。

 さらには砂浜でウロウロしているでっかいカニもいた。


「あれがビッグクラブと見た」

「私もそう思う!」


 リリーが手を上げる。


「どう見てもそうでしょ。というか本当に大きいわねー」


 アニーがビッグクラブをマジマジと見た。

 確かに人ぐらいの大きさはあるカニだ。

 あそこまで大きいと美味しそうとは思えない。


「ほら、リリー、行け」


 ビッグクラブはまだこちらに気付いていないようなのでリリーを促す。


「よーし!」


 リリーは弓を構えると、引いた。

 すると、光の矢が現れる。


「やー!」


 リリーはつまらないシャレみたいな掛け声を出すと、矢を放った。

 ビッグクラブまではそこそこ距離があったが、外すような腕はしていないのでまっすぐ飛んでいった光の矢はビッグクラブの胴体に砕くように突き破る。

 ビッグクラブはじたばたと動いていたが、次第に動かなくなり、ついにはばたりと倒れた。


「敵性反応の消滅を確認」


 地図を描いているAIちゃんが顔を上げずに告げる。


「よーし、魔石だ!」


 リリーがそう言って倒れているビッグクラブのもとに行く。


「あ、手伝うよ」


 ナタリアはリリーを追っていった。


「私、ヒトデか貝でも探してくるわ」


 アニーがそう言って、狛ちゃんをから降りる。


「食べるのか?」

「食べない。薬の材料」

「あ、なるほど」


 何の薬かはわからないけど。


「狛ちゃん、ついていけ」


 歩いていくアニーの後ろ姿を眺めながら狛ちゃんに指示を出す。

 すると、狛ちゃんはすぐにアニーについていった。


「お前は? …………聞くまでもないか」


 アリスはすでに釣竿を持っていた。


「…………ユウマもやる? 昼御飯を釣ろうよ」

「そうするか」


 俺とアリスは桟橋に行き、腰かけると釣りを開始する。


「仕事をする時、俺らって基本、暇だな」

「…………そんなもん」


 まあ、仕方がないか。

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