第113話 ダメだこいつ…… ★


「うひょえー! かっちょえー!!」


 良い夜をだって! 良い夜をだって!!

 良い夜はあなたと共に……

 ひえー!!


「あー、すごっ……そりゃあんな浮気性でも12人の奥さんも納得するわ」


 かっこいい、気遣いができる、実力もある、自信満々、かっこいい、褒め上手、お金もある、生まれも育ちも高貴、めっちゃかっこいい。

 うーん、すごい。


 私が誘ったのに最後まで自分が誘ったということにしてくれたし、決して安くない店なのにお金も出してくれた。

 それにこんな姿の私に子供としてではなく、女性として接してくれた。

 これが99歳の経験だろう。


「うーむ……」


 どうしよう?

 王都に住まないかな?

 しかし、区長の娘が……

 それにすでに5人もいるんだっけ?

 厄介な……


「消すか? いや、それはさすがにない」


 ユウマ様の仲間も冒険者だ。

 叩いてもホコリの出ない真面目な冒険者。

 どうしようもない。

 しかしなー……


「こっちで転生してくれれば良かったのに……もういっそギルマスを辞めて、冒険者にでもなるか?」


 長年、巫女をやっていたから魔法には自信がある。

 いや、早計か? いや、でも……


「ん?」


 私が悩んでいると、馬車が止まった。

 何だろうと思い、外を覗いてみると、ギルドの前であり、残業をしていたと思われるケネスのバカがいた。


「何だ?」

「失礼」


 ケネスが馬車に乗り込んでくる。


「今、お前の顔を見たくないんだがな」

「そんなにですか……あなたの代わりに残業をしたんですから送ってくださるくらい良いじゃないですか」


 まあ、時間を作るために仕事を押しつけたのは確かだ。

 今日は準備のために休んだし。


「ふん。せっかく良い気分に浸ってたというのに」

「お食事はどうでした?」

「あれはすごいな。正直、部屋に誘われたら黙って頷くことしかできなかった」


 というか、別れ際、誘ってくれないかなーと期待していた。

 だって、かっこいいもん。


「…………それは聞きたくなかったですな」

「ハァ……これまでかっこいいなと思う男はいたが、あれほどはいなかった。どうしよう、私……」


 もうあの人しか考えられない……

 ユウマ様が脳裏から離れてくれない……

 これは……もしや、恋!?


「誰ですか、あなた? そんなことより勧誘の方はどうでした?」


 そんなことだと?

 チッ! そんなんだからお前はモテないんだ。


「あれは無理だな。絶対に無理」

「その心は?」

「根っからの上流貴族だ。自分の決定は絶対。要は自信の塊だな。私がAランクにしてやるって言っても簡単に拒否したぞ」

「以前もしてましたな……そして、それを裏付ける実力もある」


 スタンピードを止め、魔族を撃退。

 話に聞けば、それはそれは怖ろしい化け蜘蛛を出すという……


「そういうことだ。区長の娘の言葉通り、ソニアをつけなくて良かったわ。いくらソニアでも相手が悪い」


 ソニアは男を転がす天才だ。

 実際、何人もの冒険者をかどわかしてきた。


「それほどですか……」

「ソニアをユウマ様に近づけさせるな。ソニアを失うわけにはいかん」


 うん、そうだ!


「……ものすごい私情が入っているように思えますが、あえてツッコみません」


 うるさい奴。


「ギルマス、辞めようかな……」

「ついていく気ですか……おやめになった方がよろしいですよ。要は女たらしでしょう?」

「ふっ、お前にはわかるまい……」


 それほど魅力的だということだ。


「85年も生きている方が頬を染めながらドヤ顔をしないで下さいよ」


 本当にうるさい奴。


「お前、殴るぞ」

「やめてください。それで例の件は?」


 脅迫状というか、予告状の件か。


「ユウマ様は関わらないっぽいな」


 かっこいいうえに賢い。


「ですか……まあ、オットーに任せましょう」

「そうだな。ああ、そうだ。それとな、明日からだと思うが、ユウマ様とその一行がギルドに来ると思う。良い仕事を回して差し上げろ」

「ハァ? 何ですか、それ?」


 察しの悪い男だ。

 これだから40年程度しか生きていない男はダメだ。

 やはり99年くらい生きないとダメだろう。


「ユウマ様の所にエルフがいるだろう?」

「いますね。リリーでしたかな?」


 名前は知らん。


「そいつは金がないらしい。それで仕事をしたいらしくて私に頼んできた。そういうことだから良い感じの仕事を回せ」

「ユウマ殿が出せばいいじゃないですか。持っているんでしょう?」

「ユウマ様は自立と成長を促されているのだ。お前のちっぽけな脳みそでは到底、考え付かないことを考えておられるのだ」


 バカめ。


「お花畑よりマシだと思いますけど……」

「誰のことだ、おい……」

「良い感じの仕事ってどんなのです?」


 無視かい。


「薬草採取かゴブリン退治でいいだろ。それで金貨50枚くらい渡せ」

「お花畑はあなたのことです」


 こいつ、クビにしようかな?


「誰がお花畑だ! 困っている冒険者を助けるのがギルドの役目だろうが!」

「自立と成長云々はどこに行ったんですか……それにギルマスが媚びを売っているだけでしょ。既婚者の意見を言いますと、男女問わず、追う恋より追われる恋の方がいいですよ?」


 くっ! 偉そうに!


「それができたら苦労せんわ! こちとら、85年も生きて恋愛経験ゼロだぞ! それにユウマ様は絶対に追ってこん。あの人は究極の受け身だ。絶対的な追われる側の人間だ。無理無理」


 あの人が欲しいのは愛だ。

 それを寄こせと言われているようだった。

 伊達に85年も生きていればわかる。


「ハァ……情けな……まあ、ホレた者が負けと言いますからね」

「そういうことだから良い感じの仕事を回せよ。ついでにセリアの町の各ギルドに手紙を出せ。あ、あと、区長共にもだ」

「何てです?」

「とても有望だから流出させるようなことをするな。あとくだらない争いやいざこざに巻き込むな、だな。最悪は私が叔父上に頼んで同様の手紙を書いてもらう」


 どうせあの町のことだから奪い合いをして、足を引っ張っているんだろ。


「はいはい……わかりましたよ。それよりもご自分はどうするかを考えておいてください。期限はあと6日ですよ」


 それなんだよなー……

 どうしよう?


「うーん……前世の60年は使命もあり、後悔はない……だが……」


 やはり家族が欲しかった。

 子供が欲しかった。

 こうなったらあの手段で……


「まあ、お好きなようになさればいいとは思いますが、すでに5人もいることを忘れないで下さいよ」

「それはモテる男の宿命だろうな……」


 仕方がない。


「浮気性の男は絶対に嫌だって言ってたくせに……人は数日でこうも変わるのか」


 だって、かっこいいんだもん。





――――――――――――




本日は投稿日ではないですが、書籍発売を記念した特別更新となります。(宣伝)


本作とは関係ないですが、現在連載中の別作品である『廃嫡王子の華麗なる逃亡劇』が明日、カドカワBOOKS様より第1巻が発売されます。

興味がある方はぜひ覗いてみてください。


https://kakuyomu.jp/users/syokichi/news/16818093073291208848


本作品も含め、今後ともよろしくお願い致します。

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