第112話 転生者同士の交流
滞在する7日間で仕事をすることに決めた俺達だったが、初日は休みとなった。
というのも、俺達では依頼票獲得合戦に勝てないので一番偉い奴に仕事を紹介してもらおうということになったのだ。
もちろん、王都のギルマスであるリアーヌのことである。
リアーヌとは今日の夕食を共にする約束をしているため、その時にでも話をしようと思ったのだ。
俺は部屋でゴロゴロしながら時間を潰していると、夕方になった。
すると、ノックの音が部屋に響く。
「何だ?」
『ユウマ様。お客様がお見えです』
この声は宿屋の店員の声だ。
「リアーヌか?」
『はい。リアーヌ様でございます』
まあ、他におらんわな。
「わかった。すぐに行く」
『かしこまりました』
店員の返事が聞こえると、椅子から立ち上がった。
「私はさすがに部屋で待機していますね。正確にはナタリアさんの部屋ですけど」
AIちゃんはこういう時になると、いっつもナタリアの部屋だな。
「普通に食事をして帰ってくるがな」
「もちろん、わかっています」
でも、パメラと出かける時は必ず、帰っても誰もいないんだよな。
さぞ、ナタリアと盛り上がっていることだろう。
俺はAIちゃんを残し、部屋を出ると、玄関の方に向かう。
すると、玄関の扉付近にリアーヌが待っていた。
リアーヌは薄着の赤いドレスの上に暖かそうな布を羽織っている。
さらには黒髪を上げ、金色の髪留めで留めているし、うっすらとだが、化粧もしていた。
どう見ても子供なリアーヌだが、色気を出し、一瞬、大人に見えたくらいだ。
「悪い。待たせたな」
「い、いえ……へ、変じゃないですかね?」
リアーヌが頬を染めながら聞いてくる。
「変どころか似合っている。やはり品があると違うな」
「あ、ありがとうございます……ま、参りましょうか。馬車を用意しています」
「ああ。そうだな」
俺達は宿を出ると、宿の前に停まっていた馬車に乗り込む。
昨日は隣同士に座ったが、今日は向かい合うように座った。
そして、軽い世間話をしていると、馬車が止まったので降りる。
すると、大きな建物があり、その扉の前に店員が待っていた。
「リアーヌ様ですね?」
「うむ。2名で予約したリアーヌだ」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
俺達は店員に促され、店に入る。
店の中はこの前のクライヴ達と飲んだ店とは打って変わって静かだった。
しかも、綺麗で明るい内装であり、床にはカーペットが敷いてある。
「ようこそ、当レストランへ。個室を用意してございます」
店員は店に入るとすぐにそう言いながら頭を下げる。
そして、近くの階段を昇り、とある個室に通された。
そこは狭い個室ではあったが、窓から外が見え、雰囲気は良さそうだった。
俺達が席に着くと、すぐに酒と料理がやってきたので乾杯をし、飲み食いを始める。
「こういう店もあるんだな」
「ええ。すごいですよね。私の世界にはありませんでした」
「俺もない」
まず、外の街並みを見るという発想がない。
海を見るか山を見るかだ。
「ユウマ様がいた世界はどういう世界だったんですか?」
「どういうって言われもな。こっちに来てから日も浅いし。あー、でも、髪の色は黒ばっかりだな。こっちに来て、まず驚いたのはそこだ」
「私の世界も黒でしたね。この世界の人は目が痛いです」
リアーヌはそう言って微笑む。
「若いほど価値がある世界って言ってたな? どういうことだ?」
「そのまんまです。女性は若いほどモテるんです。もちろん、子供を産めるようになってからですけど」
さすがに幼女はないか。
「あと年長者が絶対か?」
「ええ。でも、当然ですが、身分はありますよ」
王より年寄りだからって庶民が威張るわけにはいかないしな。
「なるほどねー」
「あ、あの、叔父上……国王陛下のことをどう思われました?」
「気さくな王様だな。俺としては良かった」
「そうですか……もう少し厳格さが欲しいなと思うんですけど」
厳格さも大事だが、まあ、人それぞれだろう。
「予告状の件だが、お前は元から知っていたのか?」
「ええ。と言ってもその話を聞いたのはユウマ様と会った前日です。ちょうどユウマ様達が王都にいらした時ですね」
あの時か。
確かに手紙を渡したらそれを王家に伝えに行ったとケネスから聞いた。
「どう思った?」
「えーっと、イタズラかなと……」
リアーヌは少し言いづらそうだ。
「そうか」
「ユウマ様はどう思われました?」
「同じだ」
と言っておこう。
「ですか……」
「リアーヌ、国王陛下の姪だったな? お前を転生者だと知っているのは国王陛下だけか?」
「いえ。皆、知ってますよ。私は特に隠していませんし」
まあ、あれだけ年齢を押してたらそうなるか。
「両親とは上手くいっているのか?」
「はい。両親は私が転生者だと知っても、変わらずに接してくれました。私自身も前世では両親がいなかったので嬉しかったです」
家族がいなかったって言ってたが、両親もか。
「年下だろ」
「さすがに両親や兄弟姉妹にそんなことを言いませんよ」
リアーヌが苦笑いで答える。
「他の転生者を知っているのか?」
「あまり知りませんね。正直なことを言えば、私はあまり好かれていませんし、そういう交流もないです」
「そうなのか?」
「性格が悪いじゃないですか……それにああ言いましたけど、やはり男の人はこう、何て言うか、豊満? そんな感じの女性を好みます」
わかっているのに魔法で成長を止めてまでその姿にこだわるのは前世の影響か。
「まあ、一般的にはそうだろうな」
「ユウマ様もです?」
「考えたことがない」
「え? どういうことです?」
リアーヌが首を傾げた。
「人にはそれぞれ良いところがある」
「ち、ちなみに、私は?」
「小さくてかわいらしいじゃないか。それに目が良いな。とてもきれいだ」
「そ、そうですか……」
リアーヌが目を泳がせる。
「それに性格が悪いと言ったが、そうは思わない。気高く、心に芯がある。これはとても美しいことだ。お前の性格が悪いと思う男はそれを見抜けないだけだな」
俺は違う。
「ありがとうございます……」
リアーヌは顔を赤くしながらぶどう酒を一気飲みした。
「リアーヌ、お前、ギルマスだよな?」
「ええ。3年前から務めております。Aランクになりたいんですか? 許可しますけど」
この前、Bランクになったばかりだぞ。
「いや、それはいい。前にも言ったが、そのうちなれるだろう。それよりも仕事を紹介してくれんか?」
「仕事ですか? それはもちろんいっぱいありますけど」
「良い感じのやつだ。もうすぐで冬になるだろう? それなのにウチのエルフが貯めてなかった」
まあ、出かけてたから仕方がないことではあるんだけどな。
「なるほど。ユウマ様が出されないんですか?」
あー……俺の女ってことにしてあるもんな。
「それは最終手段だ。あいつもCランクの冒険者。それもエルフだ。自分の力で解決させるべきだろう。もちろん、そのための協力はする」
「ユウマ様はご当主だっただけあって、考えが立派ですね。そういうことでしたらケネスに見繕いさせましょう。エルフは優秀ですし、ひいては国のためになりますし」
リアーヌは快く受け入れてくれた。
「感謝する」
「いえいえ、当然のことです。頑張ってください」
リアーヌは笑顔でそう言ってくれる。
俺達はその後も会話や食事を楽しみ、良い時間となったので店を出た。
そして、馬車で宿屋まで送ってもらうと、馬車を降りる。
「リアーヌ、今日はありがとう」
馬車を降りると、振り返り、馬車に乗っているリアーヌに感謝の言葉を伝えた。
「いえ。誘って頂いたうえにお金も出していただきありがとうございました。とても楽しい夜でした」
リアーヌが嬉しそうに笑う。
「気にするな。俺も楽しかった」
「は、はい……!」
「送ってもらって感謝する。では、おやすみ。良い夜を」
「はい……おやすみなさい……」
別れを告げると、馬車が動き出した。
俺はその場で馬車を見送ると、宿屋に入り、自分の部屋に戻る。
もちろん、部屋にAIちゃんはなかった。
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今週は木曜も投稿します。
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