第111話 10番目の奥様です


 王様とのお茶会を終えた俺達は宿屋に戻ってきた。

 そして、部屋でゆっくりしていると、夕食に時間となり、ナタリア達と一緒に食べる。


「どうだった?」


 今日も豪華な夕食を食べていると、ナタリアが聞いてきた。


「褒美に金貨30枚と豪華な剣をもらったわ」


 小袋に入っていた金貨は30枚だった。

 何とも言えない。


「剣? すごいね」

「後で見せてやろう。売ったら高いぞ。絶対に売れんが」

「それは売れないね。さすがに国王陛下も怒ると思う」


 怒りはせんが、信用がなくなるな。

 ありえないことだし。


「それと悪いけど、仕事が入った。7日間は滞在だ」

「仕事? 何の?」


 言っていいものだろうか?

 いや、巻き込まない方がいいか。


「王家のことだから聞かない方がいいぞ」

「あー、それもそうだね。手伝うことはない?」

「ないない。俺もやる気ないし。そういうわけで7日は付き合ってくれ」

「私は7日くらいなら別にいいよ」


 ナタリアは問題ないようだ。


「私もいいわよ。元々、そんなに仕事をする方じゃないし、クライヴが戻ったんだったら急いで帰る必要もないわ」


 アニーも問題ないらしい。


「…………私も。どちらにせよ、ユウマに従う。暇なら仕事をしてもいいし」


 アリスが言うように王都のギルドで仕事をしてもいいな。


「7日ってちょうどいいじゃん。それくらいなら良い休みって感じ」


 リリーは嬉しそうだ。


「そうなんだよなー。7日って本当にちょうどいいわ」


 10日は長いと思う。

 7日というのはまあいいかーというギリギリのところだ。


「マスター、一応、不審者がいないのかの確認のためにカラスちゃんを飛ばしますか? ついでに地図を作りましょう。買ってもらえるかはわかりませんが」


 そうするかー。


「頼むわ。それと明日の夕食はお前らだけで食べてくれ。俺は外で食う」

「外? 誰かと食べるの?」


 ナタリアが聞いてくる。


「ギルマスと約束した」

「ギルマスさんと? へー」

「あの人、完全にマスターの虜ですよ」


 AIちゃんが会話に入ってきた。


「へー……へ? あのギルマスさんが? あの人、貴族でしょ」

「…………イメージがわかない。チビマスってすごい上から目線だし、生意気で有名なんだけど」


 最初はそんな感じだったな。


「もう乙女ですよ。今日、オットーさんっていうAランクの方と一緒でしたが、これでもかっていうくらいに差をつけてました」


 可哀想だった。


「オットーってあの?」

「…………わずか17歳でAランクになった天才だよ」


 あいつ、そんなにすごかったのか。

 リアーヌのせいでそうは見えなかったが。


「やっぱりコレクションを増やしたわね」

「さすがユウマ! でも、どうするの? 王都のギルマスじゃん」


 アニーとリリーも会話に入ってくる。


「どうするとは?」

「王都に残るの? それは困るよー」


 リリーが首を横に振った。


「残らない。俺は【風の翼】に所属する冒険者でお前らのリーダーだぞ。リーダーっていうのはそういう無責任なことはしない」

「そりゃそうよね。人を誘っておいて、数日でリーダーが抜けるってひどすぎ」


 アニーがジト目で見てくる。


「だから残らねーっての」

「でも、ギルマスさんはどうするの?」


 リリーが首を傾げた。


「知らん。なるようになる」

「訳:お前が俺についてこい」


 AIちゃんが謎の訳をする。


「貴族によくそんなことを言えるよね……あ、いや、ユウマはそういう人か」


 どういう意味だ?


「俺はそんなことに人生を左右されることはないだけだ」

「この前、俺が女についていくんじゃない、女が俺についてくるんだって言ってました」

「言ってない、言ってない」


 女じゃなくて人な。

 パメラが女に聞こえたって言っただけ。


「あー、うん……そんな感じはする」

「でしょうねー。じゃなきゃ奥さんが12人なんて無理でしょ」

「…………いい言葉。ユウマの人柄がよく表れている」

「ノーコメント」


 皆、苦笑いだ。


「……まあいい。お前らは7日間、どうするんだ? アリスが言うように仕事をするなら付き合うぞ?」


 王様の依頼なんかどうでもいいし、オットーに任せておけばいい。


「私は地味に王都で仕事をしたことがないわね」

「あ、私もない。王都って遊ぶところだし」

「私らも登録だけで仕事はしてないよね?」

「…………ないね」


 ないんだ……

 いや、逆に近すぎるのか。

 そして、こいつらはリリーを置いておくとして、大人しいから出稼ぎという発想がない。


「ちなみに、冬に何もしなくても暮らせるだけの蓄えはあるのか?」


 大事なことだから確認しておこう。


「当然、あるわね。それに私は薬師だから冬も稼げる」

「………………」

「もちろん、あるよ」

「…………親に渡すくらいはあるよ」


 ………………。


「そうか……」


 俺達は無言になったリリーをじーっと見る。


「だって、実家に帰ってたから働いてないし、実家に帰るのにもお金がかかるし……あと、この前、王都に来た時にちょっと使っちゃったし」


 スタンピードの時にもいなかったから報奨金もないか。


「お前、どうする気だったん?」

「冬でも狩りはできる!」


 寒そう……


「貸してやってもいいが、仕事をした方がいいな」

「そうね。付き合いましょう」

「しょうがないよ」

「…………まあ、冬だからと言ってまったく仕事をしないわけでもないけど、少しでも蓄えはあった方がいい」


 リリーを除く俺達は頷き合う。


「皆、ありがとー! 良い人達だなー。大好き!」


 リリーは感動の涙を浮かべていた。


「こいつを見ていると、なんか既視感があるんだよなー」


 なんでだろ?


「マスター、それは思い出さなくていいやつです」


 あ、そっちか。

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