第110話 王様からの依頼


「オットー、どう思う?」


 王様がオットーに聞く。


「見る限りは魔族ですかね?」

「そうだな。人族を敵視し、追い出したという文面からはそれがまず思いつく」

「ですが、いくつか疑問が残ります」


 疑問だらけだよ。


「どこだ?」

「まずは予告状を出した意味です。そんなことをする必要はありません。次にこれが陛下に宛てられたとしたら娘とは姫殿下のことでしょう。何故に姫殿下だけなのか」

「そうだな。私の娘を指名している」

「これ、イタズラでは? これを見た率直な感想はそれです」


 俺もそう思う。

 何より、文章が稚拙すぎる。

 何を伝えたいのかも不明、目的も不明。

 そもそも本当に魔族か?


「私もこの手紙を見ただけならそう思う。大臣もそう思った」

「そうじゃない理由があると?」

「この手紙は謁見の間にある私の玉座の上に置いてあったのだ。それを朝、掃除をするメイドが見つけた」


 犯人、そいつじゃないの?


「そのメイドは?」

「シロだ。というよりも城の中の者を徹底的に調べたし、筆跡鑑定も行った。さらには魔法での追跡も行った。もちろん、私の身内、すなわち王族も含めてだ」

「な、なるほど……つまり外部の犯行というわけですね?」

「そう判断した」


 ふーん……

 城に侵入できたのならそのまま姫様を殺せよ。


「ユウマ、どう思う?」


 さて、何と答えるか……


「私もオットー殿と同じ意見です。ですが、そういうことなら外部の犯行もあり得るかと……姫様は?」

「厳重な警備で守っている」

「失礼ながら姫様が恨みを買われていることは? やはり姫様を指名していることが気になります。もしくは、次の王がその姫様ということは?」

「次の王は私の長男と決まっている。娘は王位継承権を持たない。それに恨みと言われても思い当たる節がない。末っ子であまり表に出るような子ではないからな」


 王位継承権を持たない末っ子を殺害予告か……

 なるほどね。


「申し訳ございませんが、私には見当もつきません」

「そうか……オットーは?」


 王様がオットーにも確認する。


「私にも……それで依頼というのは?」

「外部の者に怪しい者がいないかを調査してほしい」


 それ、俺もだろうか?


「わかりました。早急に調査を開始します」

「頼むぞ。何かわかればリアーヌに報告してくれ」

「かしこまりました」


 オットーが頭を下げた。


「ユウマ、お前も頼む」


 マジか……

 これ、帰れないぞ。


「陛下、私もでしょうか? 私はこの世界に来てひと月足らずで王都にも初めて来ました。お役に立てることはないような気がします」

「逆にそういう目で見てほしいんだ。もちろん、長々と付き合わせる気はない。お前はセリアの町の冒険者だし、セリアの町の状況も聞いておる。だから7日間だけでいい」


 7日か……

 ならいいか。


「そういうことならわかりました。協力いたしましょう」

「頼む。では、話は以上だ。今日は付き合ってもらって感謝する」


 王様がそう言うと、この場はお開きになり、俺達はリアーヌと共に退室し、馬車がある中庭まで戻っていく。

 そして、馬車に乗り込むと、馬車が進みだした。

 なお、俺はAIちゃんとリアーヌの子供2人に挟まれている。


「オットー、お前はどういう調査をするつもりだ?」


 馬車が動き出すと、正面にいるオットーに聞く。


「正直、途方もないことだから聞き込みと王宮周りの見回りかな……他に浮かばない」


 そのくらいか。


「わかった。俺は知り合いもいないし、どうするかを少し考えてみる」


 考えるだけで7日を使うつもり。


「それでいいと思う。多分、君はおまけで俺が本命だ。というよりも君は早くセリアに帰りたいだろ」


 まあ、俺の意図はわかるわな。


「悪いが、頼むわ」

「いい。俺は王都の人間だし、こっちでやろう」


 俺とオットーが話していると、馬車が止まったので外を見ると、ギルドの前だった。


「じゃあ、俺はこれで失礼するよ。ギルマス、明日から調査に入ります」

「わかった」


 オットーがそう言って、馬車を降りていった。

 この場には俺とAIちゃん、そして、リアーヌが残される。


「すみません、ユウマ様。そういうわけで7日ほどお付き合いください」


 リアーヌが謝罪してくる。


「いや、国王陛下の頼みなら仕方がない。どういう調査をするかはこれから考えてみる」

「お願いします。それと……あのー……そのー」


 リアーヌがチラチラと見てきた。


「明日の夜にでも話そうか。店は知らんが」

「あ、はい! 明日にお迎えに上がります」

「頼む。ではな」


 俺はそう言うと、AIちゃんと共に馬車を降りる。

 そして、宿屋に向かって歩き出した。


「どうします?」


 歩いていると、AIちゃんが聞いてくる。


「何がだ? というか、どれだ?」

「えーっと、じゃあ、リアーヌさんで。完全に色目を使ってますよ」


 まあ、そうだわなー。


「さあな。あれについてはどうもせん。なるようになる」

「そうですか……王都に残るという選択肢は?」

「ないな。7日後に帰る。これは決定事項だ」

「なるほど……マスターらしいです」


 俺らしいって何だろ?


「まあ、食事くらいは付き合うさ」

「ですか…………王様からの依頼の方は?」

「逆にお前はどう思う?」

「無視でよろしいかと。7日が経つのを待ちましょう」


 AIちゃんもそう思うか。


「だよな。政治に巻き込まれたくないわ」

「ですよね。犯人、一人しかいませんもん」


 だなー。

 関わらないのが一番。

 適当に時間を潰して帰ろう。

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