第103話 気遣い


「これから繰り出すのか?」

「当たり前だろ。王都に来た理由の8割はこれだし」


 やっぱりね。


「散財しない程度に楽しんでくれ」

「お前は? 付き合うか?」

「アリスが見えんのか?」


 女連れで行くわけないだろ。


「そういや、なんでいるんだ?」


 クライヴがアリスに聞く。


「…………案内役」

「ああ、なるほど。それでどうする? 行くか?」


 クライヴが納得してもなお、誘ってきた。


「俺はそういう店には行かない」

「行かねーの? 女を買うのは嫌だってタイプ?」

「マスターは女性を一夜だけでは買いません。買うなら一生を買います」


 AIちゃんがジュースを飲みながら説明する。


「一生? 結婚か? 色んな女を抱きたいと思わねーの?」

「色んな女性の一生を買います。奥様が12人もおられた方ですよ?」

「12……」

「すげー……」


 クライヴとアルフが感心した。

 でも、ちょっと引いている。


「前世の話だ。今世は違う」

「じゃあ、誰狙い? やっぱりナタリア?」


 やっぱりという言葉が気になるな。


「今は……5名ですね」

「違うっての」

「んー? ナタリア、こいつ、リリーか? あとは……アニー? でも、4人だな」

「聞けよ……」


 無視かい。


「パメラさんですね」

「パメラ? 受付嬢の? すげーな、おい。この前来たばっかりなのにもうそんなに……」

「それは娼館にも行かないっすね……」


 クライヴとアルフが俺をじーっと見てくる。


「違うぞー」

「…………ユウマ、おかわりを頼んでもいい?」


 アリスが俺達のやり取りを無視して聞いてきた。


「好きなだけ頼め」

「…………ん。すみませーん」


 アリスが店員に声をかけたが、声が小さすぎて周囲の喧騒にかき消されてしまった。

 アリスがしょぼんとしたので自分の酒を一気飲みし、空にする。


「すみませーん!」


 代わりに俺が声をかけると、すぐに店員がやってきた。


「酒のおかわり。お前らは?」


 アリスとAIちゃんに聞く。


「…………私もおかわり」

「私はミルク」


 2人も注文した。


「お前らも頼んでいいぞ。奢ってやる」

「マジ? じゃあ、おかわり」

「あざっす。俺も」

「あいよ!」


 注文を聞き終えた店員が戻っていくと、すぐに注文した飲み物を持って戻ってきた。

 そして、皆で乾杯をすると、飲みだす。


「ハァ……しかし、そうなると、王都も明後日には出ないとな」


 クライヴが酒を飲むと、ため息をついた。


「そんなに早く出るのか?」

「クランリーダーの命令だしなー。それにそんなにクランを空けるわけにもいかん。アニーがいないのならなおさらだ」

「アニーさんがいないならクライヴさんが仕切るんっすよ」


 アルフが教えてくれる。 


「そうなのか……まあ、レイラがあの体たらくではな」

「あまり自分のところの頭をどうこう言う気はないが、そうだな。だからBランクのアニーか俺が主に仕切る」

「…………私もB」

「俺もB」


 俺とアリスが自分を指差し、主張した。


「お前、もうBかよ……いや、お前らもいねーだろ。しかも、アリスは一切、仕切らないだろうが」


 まあな。


「じゃあ、さっさと帰ってギルドを助けてやってくれ。今、冒険者が半分くらいに減ってるぞ」

「マジか……そりゃギルドも大変だわ。すぐに戻ろう」

「頼むわ」

「ああ……そういうことで俺らは今日、明日と王都の最後の夜を楽しむ。お前らはお前らで楽しんでくれ」


 クライヴはそう言うと、酒を一気飲みする。

 アルフもまた一気飲みした。

 これから繰り出すのだろう。


「ここは払っておくから楽しんでこい」

「悪いな。今度、奢ってやるよ」


 2人は立ち上がると、歩いていく。


「あいつ、ルーキーだよな?」

「格というか人間が違う気がします。さっきの注文、見ました? 俺、ホレそうになりましたよ」

「ああいう気遣いが大事なのかねー?」

「わかっててもできませんよ。さすが12人も嫁さんがいただけはありますよね。俺らもご馳走になっちゃったし…………」


 2人は盛り上がりながら店を出ていった。


「帰るか」

「…………うん」

「はーい」


 俺達も帰ることにし、会計を済ませると、店を出て、宿屋に戻っていく。

 宿屋に戻ると、アニー達もちょうど戻ってきたところだったので俺の部屋に集まった。


「どうだった?」


 女性陣を担当していたアニーに聞く。


「会えたわよ。ちょっと仕事があるからそれが終わったら帰るそう。そっちは?」

「俺らも会えた。あいつらは暇そうだったし、明後日には戻るそうだ」

「明後日? 急ねー……まあいいか。歓楽街は楽しかった?」


 アニーがからかうような笑みで聞いてきた。


「夜なのにあんなに明るいと祭りを思い出す感じだったな。あと、クライヴ達が飲みすぎてた」

「…………そして、夜の街に消えていった」


 今頃、楽しんでいることだろう。


「あっそ。いつも通りね。じゃあ、全員に会えたわけね」


 ニールには会えなかったが、まあ、あいつらが伝えるだろう。


「そうだな。一仕事を終えた」

「私達はこれで全部だけどね。あとは気ままに楽しもうかしら?」

「そうしな。俺も待ちの間は観光や買い物をする」


 米を買いたい。


「あんたは初めてだもんね。まあ、ゆっくりしなさい。じゃあ、私は寝るわ。朝早かったし、少し飲んじゃった」


 どうやら飲んできたようだ。

 俺もだけど。


「私もお風呂に入って寝ようかな」

「…………疲れた」

「眠い!」


 ここで解散となると、各自が部屋に戻っていく。

 俺も風呂に入ると、眠かったので早めに就寝した。

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