第102話 飲み屋


 俺の部屋に集まって話をしていると、夕食の時間となった。

 夕食はかなり豪華に見えたし、非常に美味しかった。

 最初は遠慮がちだったナタリアも美味しそうに食べていたし、皆、満足そうだった。


 夕食を食べ終えると、クランメンバーに招集命令を伝えるために宿屋を出る。

 外に出ると、辺りはすっかり暗くなっており、人の数も減っていた。


「じゃあ、私達はこっちだから」


 アニー達は女性陣だからギルドの方角だ。


「狛ちゃん、こいつらについていけ。いくらって聞かれる女がいるから」


 狛ちゃんを出すと、アニー達についていくように命じた。


「こっちの方はそんな冒険者は少ないわよ」


 だから女性陣がよく行くわけか。


「俺らの方は?」

「そんなのしかいない。男の世界ね」


 ふーん……


「アリス、はぐれるなよ」

「…………大丈夫」


 アリスが頷くと、アニー達が歩いていったので俺達も別の方向に歩いていく。


「しかし、歓楽街かー。そんなところに行ったら金がなくならないのかね?」


 歩きながら聞いてみる。


「…………なくなるよ。王都は儲かるけど、その分、誘惑が多い町。男の人も女の人もね」


 男は酒や女、女は買い物かね?

 どこの世界も変わらんな。


 俺達が話しながら歩いていると、徐々に人通りが多くなり、騒がしくなってくる。

 さらには暗い町がどんどんと明るくなってきた。


「…………この辺りから歓楽街。私とAIちゃんがいるから声をかけられることはないけど気を付けて。ぼったくりも多いから」


 ホント、どこの世界も変わらんなー。


 俺達がそのまま歩いていくと、どんどん明るくなり、人も多くなっていった。

 酔っ払いらしき人や仲間と騒ぐ人など様々だが、9割9分男だ。

 そして、左右の建物の前には薄着の若い女性が何人もおり、男共に声をかけている。


 そんな中を見渡しながら歩いていると、何人かの女と目が合う。

 だが、女共は俺を見た後にアリスとAIちゃんを見て、興味を失ったように目を逸らしていった。

 さすがに女の子連れの男には声をかけないようだ。


「何してんだ、この男は……と思っているだろうな」

「ガキを連れてくるなって思っているでしょうね」

「…………アニーがいっぱいいる」


 いやー、同じような扇情的な格好をしているが、アニーとはちょっと違う気がする。

 アニーを最初に見た時に娼婦みたいと思ったが、アニーはファッションなだけあって、かっこいいと思わないでもないし、品がある。

 逆に周囲の女は男が好み、誘うための直球の服装だ。


「なんかこうやって見ていると本当に男の世界って感じだな。クライヴ達がすぐに王都行きを決めた理由がわかる」


 あいつらは西の森が立入禁止になり、南の森も稼げなくなった時にすぐに王都行きを決めていた。

 他の冒険者連中は悩んでいたし、クライヴの実力を考えれば東の遺跡という選択肢もあるのに王都を選んだのはこれのためだろうな。


「…………だろうね。皆知ってる。でも、女性陣もそう。やっぱり王都は華やかだもん」


 それを騒がしくてうるさいと思う奴らが残ったわけね。


「冬ごもりの前の祭りみたいなものか」

「…………そういうこと。ここだよ」


 アリスが立ち止まり、建物を指差す。


「普通の飲み屋か?」

「…………そうそう。この時間はまだ飲んでいると思う」


 飲み終わったら繰り出すわけね。


 俺達が店に入ると、大勢の客が飲んで騒いでいた。


「えーっと」


 どこだ?


「…………あそこ。クライヴとアルフ。あれ? ニールがいない」


 アリスが指差した方向には確かにクライヴ達が丸テーブルに座って飲んでいた。

 だが、いつもの2人組のうち、1人がいない。

 というか、名前を初めて知った。


「んー? クライヴさん、ユウマがアリスとAIちゃんを連れて、なんか来てますけど」

「ハァ? 飲みすぎだろ。なんであいつらがここに……って、ホントだ」


 アルフが俺達に気付くと、クライヴも驚きながら気付いたようだ。


「よう。楽しそうだな」


 俺達はクライヴ達のもとに行くと、席につきながら声をかけた。


「あ、ああ……いや、なんでいんだよ?」

「ちょっとな。それよりかニールはどうした? あ、俺も酒」


 席につくと、女の店員が注文を取りにやってきたので注文をする。


「…………私はジュース」

「私も」

「あいよ!」


 アリスとAIちゃんも注文すると、店員が笑顔で答え、戻っていった。

 そして、すぐに酒とジュースを2つ持ってきたのでそれを受け取ると、一口飲む。


「あー、美味い……それでニールは?」

「あいつは寝てる。昨日、飲みすぎたらしくて今日は遠慮しとくだと」


 こいつら、ほぼ毎日飲んでじゃないか?

 仕事はどうした?


「楽しそうだな」

「楽しいぞ。なあ?」


 クライヴがアルフに振った。


「そうっすね。やっぱり王都ですよ」


 楽しそうで何より。


「お前らはなんでいるんだ? 遊びにか?」


 クライヴが聞いてくる。


「いや、王様に呼ばれた」

「は? マジ? あ、例の件か……」


 クライヴは察したようだ。


「それそれ。ナタリア、リリー、アニーも来ている」

「アニーもかよ……というか、リリーの奴、帰ってきたのか」


 入れ違いだったからなー。


「ああ。帰ってきたぞ」

「ふーん、賑やかな奴が帰ってきたか」


 確かに賑ぎやかだ。

 うるさいわけでもなく、ただ明るい。


「楽しい奴だよ」

「まあな。アニーは? なんでいるんだ?」

「暇そうだったからパーティーに勧誘したんだよ」

「あー……お前らのところならちょうどいいか」


 女ばっかりだしな。


「そういうこと。それで今はナタリアとリリーを連れて女性陣のところだ。というのもレイラからの伝言がある。西の森が解禁になったから全員帰ってこいだとよ。冒険者がいなくなってギルドが困っている」

「もう解禁か。冬をまたぐと思っていたが、早かったな」


 俺も冬をまたぐと思っていた。


「冒険者の流出がヤバいんだってさ」

「そりゃそうか。まあ、わかったわ。リーダーの命令なら帰るわ」

「そうっすね」


 クライヴとアルフが素直に頷く。


「前から聞きたかったけど、お前らはなんでこのクランに入ったんだ?」

「楽だから。【風の翼】はノルマもないし、クランに収める上納金も少ないんだよ。他はひどいぞ」

「じゃあ、ウチは人気なのか?」

「そうでもない。楽だけど、人数は少ないし、適当人間ばかりだから。お前らが来てるってことは今のクランにはレイラさんしかいないんだろ? 他だったらありえんぞ」


 自由がモットーだから皆、好き勝手やるんだな。

 そりゃ上には行けんわ。


「なるほどね。まあ、俺はそっちがいいな」

「俺らもだよ。だから大手じゃなくて【風の翼】を選んだ。そして、豪遊中だ。いえーい」

「いえーい」


 クライヴとアルフが乾杯をし、飲みだす。

 どうやらすでに相当、酔っているようだ。

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