第089話 勧誘
俺達はそのまま歩いていくと、川に到着した。
すると、アリスが釣竿を出してくれたので敷物を敷くと、2人で並んで腰かけ、釣りを開始する。
「……散歩じゃないじゃん」
アニーは俺の横にしゃがみ、頬をつきながらジト目で見てきた。
「ここまでは散歩だよ」
「…………そうそう。今から夕食を確保する」
「私はやらないわよ」
やはりアニーは釣りが好きじゃないっぽい。
「まあ、いいじゃん。座れって」
そう言うと、アニーが敷物に座る。
すると、狛ちゃんがアニーの太ももに顔を乗せ、目を閉じた。
「あんたはかわいいわねー……」
アニーが寝ている狛ちゃんを撫でる。
「アニー、お前って普段は何をしているんだ?」
「何をって?」
俺が聞くと、アニーが首を傾げた。
「仕事以外の時に何をしているのかなーって。もうすぐ冬なんだろ? 俺、めっちゃ暇しそう」
「まあ、私も暇してるわよ。最近は狛ちゃんと遊んでいるけど、それ以前は薬を作っているか、一人でファッションショーをしてるだけ」
ファッションショー……
しかも、一人……
人のことを言えないが、こいつ、悲しいな。
「将来の展望は? 冒険者を引退した後」
「別に……薬が作れるから作ってんじゃない? あんまり将来のことを考える冒険者はいないわよ」
その日暮らしか……
「つまり暇しているし、将来の展望もないわけだ」
「まあ、ないといえばないわね。どうとでもなるし」
魔法もできる、薬も作れる。
技能があるから生きていく分には困らないわけだ。
「そうか、そうか」
「ねえ、何が言いたいの?」
多分、アニーは俺が言いたいことに勘づいていると思う。
「お前、ソロだろ?」
「ハァ……勧誘?」
「そう」
「やっぱりね……」
やはりわかっていたようだ。
「一人で外に行くよりかはいいだろ。多分だが、盗賊が増え始めるぞ」
「かもねー……しかし、あんた、本当に女を集めるわね。そんなに集めてどうするのよ?」
集めてないわ。
「別にそんな意図はない。パーティーのバランス的に言えば、お前よりクライヴの方が欲しいくらいだ」
「でも、クライヴは男だもんね」
違うっての。
「あいつはあいつのパーティーがあるだろ。ソロなのはお前だけ」
「冗談よ。あんたのお母さんがぶつぶつ言ってたのを聞いただけ」
あの金ぴかギツネめ。
「母上は無視しろ」
「あんたが趣味もなく、やることがないのって、奥さんが12人もいたからじゃない?」
かもな。
それに子供や孫があんなにいれば暇と思う時がないだろう。
「前世の話だ。俺はそうはならない」
「はっきり言うけど、無理だと思うなー……」
なんでだよ。
「…………私もそう思う」
アリスも同意する。
「俺は誠実なんだよ」
「だからでしょ」
えー……レイラと同じことを言われたし。
「その話はやめよう。そういうわけで今日からお前は正式なパーティーメンバーな」
「強引……私、そんなには働かないわよ? 薬師の仕事もあるし」
「それでいいよ。時間や都合が合ったらでいい」
「ふーん……まあ、だったら別にいいけど」
やけにあっさり頷いたな。
「いいのか?」
「別に好きでソロなわけじゃないし、同じクランじゃないの。これが他の冒険者なら断るけど、同じクランなら別にね……他のパーティーと一緒に行くこともあるし」
「そういや、なんでソロのままなんだ? 他のパーティーには入らないのか? 女が多いクランなんだろ?」
他の女から嫌われてんの?
「私、Bランクでこのクランの副リーダーよ? 普通に考えれば私がパーティーに入ったら私がリーダーになる。でも、そんなリーダーがあまり働かなかったらパーティーメンバーが困るでしょ」
それもそうだな。
アニーはそれでも稼げるけど、他のパーティーメンバーは困る。
だからといって、ただでさえ、責任しかないリーダーなんてやりたくないのに自分達より格上を差し置いてリーダーにはなりたくないか。
「なるほどな。そういうことなら安心だぞ。俺は気にしないから」
「でしょうね。だから別にいいって言ってるの。近接戦闘が不得手な私にとっても都合がいいからね」
アニーはそう言いながら狛ちゃんを撫でた。
「…………リーダーをやってくれる、面倒な交渉事もやってくれる、受付嬢とべったり、強い、守ってくれる、実に良いリーダー」
アリスが称賛してくれるが、一つ変なのが混じっている。
「それで今後はどうするの? また東の遺跡? 正直、行きたくないんだけど……というか、あんなことがあったのに行けるの?」
正式に仲間に加わったアニーが今後のことを聞いてきた。
「魔族の件は非公表だし、東の遺跡を立入禁止にはできないんだと。西の森の件が相当、問題になっているっぽい」
「まあねー。実際、ウチもほとんどいなくなっちゃったし」
「それで西の森も解禁になるらしい。夕食時にでも話そうと思っていたが、東の遺跡はもうやめて、西の森に行こうかなって思っている」
あそこ、遠いし。
歩くのが地味にめんどい。
「おー、解禁か。思ったより早かったけど、良かったわ。あそこなら冒険者同士のトラブルはほぼないからね」
西区の冒険者しか来ないからな。
「まあ、夕食時に話そう」
「そうね…………早く釣りなさいよ。まだ1匹も釣れてないじゃないの」
アニーがジト目になる。
「釣りはそんなもんだ」
「…………焦らない、焦らない」
「ハァ……今日も市場に寄るわけね」
ちゃんと釣るわい。
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