第090話 冬の準備


 俺達は釣りを終えると、市場に寄り、寮に戻った。

 そして、夕方になると、俺の部屋で夕食を食べる。

 正直、6人もいると狭い。


「マスター、コタツを作るとしてもちょっと大きめのコタツにした方がいいかもしれません」


 それがいいかもしれない。

 エントランスの交流スペースもあるが、あそこは広いし、出入り口に近いから冬は寒そうだ。


「ねえねえ、そのコタツとやらが何か知らないけど、なんで私とユウマとアリスの魚だけ小さいの?」


 俺とAIちゃんが話していると、リリーが自分の小さい焼き魚を見ながら聞いてくる。


「それは特別なやつだ」

「…………私達が釣ったやつ」


 俺とアリスが頷いて答えた。


「おー、釣れたんだー! すごいね! でも、アニー達の方が大きい……」


 アニー、ナタリア、AIちゃんの魚は一回り以上大きい。


「3匹しか釣れなかったんだから仕方がないだろ」

「…………2匹は釣った私達。もう1匹は特別にリリーにあげる。親愛の魚」

「う、うん」


 自分も買ったやつが良かったって顔に書いてあるな。


「4時間も付き合わされて大変だったわ。しかも、それで3匹って……」


 アニーが買った魚を食べながらぼやく。

 アニーは何度も途中で帰ろうとしたが、そのたびに俺とアリスが引き止めたのだ。

 まあ、最後の方は狛ちゃんと遊んでたけど。


「あ、ユウマさ、明日も休みでいい? 私、用事があるし」


 休みを決める担当のナタリアが聞いてきた。


「いいぞ、俺もコタツの材料を買いに行くし」

「仕事はどうする? 明後日から?」

「そうなるな。アニーとアリスには言ったが、昨日のパメラの話だと、明後日から西の森が解禁になるそうだ」

「そうなんだ。それは良かったよ。正直、南の森も東の遺跡もあんまり行きたくないし」


 やっぱりナタリアもあんなことがあったから行きたくないようだ。


「まあ、西の森でゆっくりやればいいだろ。そういうわけで明後日の朝に行こう。リリーもそれでいいか?」

「いいよ。私は森の方が好きだし」


 エルフだもんな。


「あ、そうだ。お前、森に住んでたんだよな?」

「そうだよ」

「木材で物作りとかできるか? コタツを作りたい」


 木こりみたいなものだろ。


「そりゃ森育ちだからできるけど、コタツって何?」

「えーっと、基本、こんな感じの机だ」


 料理が置いてある目の前の机を指でトントンと叩く。


「これ? これくらいならすぐに作れるよ。木とか木材を加工したり、切ったりする魔法があるし」


 やっぱり木こりだ。


「よし、お前、明日暇だな。付き合え」

「強引……暇だからいいけど」


 さすがはリリー。

 暇だと信じていた。


「木材ってどこに売ってるんだ?」

「木材屋とか家具屋じゃない? あ、でも、ギルド裏の解体場にあるよ。余ってるのをもらえると思う」


 解体屋?

 ビッグボアを解体してもらったバートがいるところか。


「あそこか。よし、じゃあ、そこに行こう」

「いいよー」


 俺達は今後の予定を決めると、雑談をしながら夕食の魚を食べ続けた。

 夕食を食べ終えると、解散し、各々の部屋に帰っていく。

 俺とAIちゃんは風呂に入ると、本を読み、いい時間になると就寝した。

 そして、翌日、遅めに起きた俺達は朝食を食べると、リリーと共に寮を出て、ギルドの方に向かう。


「ねえねえ、昨日はどうだった?」


 歩いていると、リリーが元気よく聞いてくる。


「昨日? 3匹釣ったぞ」


 お前も食っただろ。


「釣りじゃないよー。昨日はアニーと出かけたんでしょ?」

「アリスもいたがな」

「アニーは落とせそう?」


 何を言っているんだ、この娘は……


「どういう意味だよ」

「アニーを落とすために出かけたんじゃないの?」

「落とすという言い方が気になる。普通に勧誘しただけだよ」

「一緒じゃん。どうだったの?」


 一緒か?


「空いている時だったらいいってよ」

「おー! そうなんだー。アニーがいてくれると心強いよ」


 まあ、頼りにはなるな。


「そうだな」

「ねえねえ、なんで奥さんが12人もいたの? 大変じゃなかった? よく持つね」


 よくしゃべる子だなー……


「リリーさん、その話は夜にしますからナタリアさんの部屋に来てください」


 AIちゃん、ナタリアとどういう話をしてんだよ……


「わかった!」


 俺は呆れながらも2人を連れて、ギルド裏の解体屋に向かった。

 解体屋につき、大きな建物に入ると、暇そうな職人達がぼーっとしたり、カードゲームをしているのが見える。


「うわー……西の森が閉鎖してるからここもすごいことになっている」


 リリーが言うように以前は熱気にあふれていたのに寂しくなってしまっていた。


「まあ、それも明日までだろ。バートはどこだ? 木材をわけてもらう話をしたいんだが」


 どこだろう?


「バートー!」


 リリーが大きな声を出す。

 すると、暇そうな職人達が一斉にこちらを見た。


「うるせーよ、リリー」


 奥から文句の言葉が聞こえてくると、バートがこちらにやってくる。


「あ、バート!」

「うるせーっての。リリー、帰ってきたんだな」

「うん。この前帰ってきた。スタンピードが起きたんだってねー」

「まあな。俺達が戦うことなんかないけど、魔物の処理で大変だったぜ」


 あー、そういや、倒した魔物の処理もあるんだったな。

 あの数は大変だっただろう。


「おつかれー」

「ああ。そっちの兄ちゃんはお前らのパーティーメンバーだったな。マジでリーダーになったのか?」


 バートが俺を見ながら聞く。


「そうだよ。めっちゃ強い」

「だろうなー……それで何の用だ? 魔物の解体じゃないだろ?」


 バートは挨拶もそこそこに本題に入った。


「うん。えーっと、ユウマがコタツを作りたいから木材をわけてほしいんだって」

「コタツって何だ?」

「知らない!」

「…………コタツって何だ?」


 呆れたバートが俺に聞いてくる。


「俺の世界にあった暖かい机だな。床を掘ってそこに火鉢を置き、その上に布団を被せた机を置くんだ。そうすると、暖かい」

「ふーん……床を掘るのか? それっていいのか? お前、寮に住んでいるんじゃないのか?」

「別にいいよな?」


 リリーに確認する。


「え? ダメじゃない? 借りている部屋じゃん」


 真面目だな。

 後で修繕費を払えばいいだろ。


「マスター、掘りゴタツじゃなくてもいいのでは? この世界には魔石がありますし」


 AIちゃんが提案してきた。


「暖かくなる魔石とかあるのか?」

「ありますよ。普通に魔法屋に売っていると思います。それを机に取り付ければ大丈夫だと思います」

「よし、それいこう。バート、リリーが机を作ってくれるから木材をわけてくれ」

「まあ、いいぞ。あっちに置いてあるから好きに使え」


 バートがそう言って、隅を指差すと、そこには大量の木材が置いてあるのが見える。


「どうでもいいけど、なんであんなのが大量にあるんだ?」

「森が近いから木材も大量に手に入るんだよ。それを俺らが加工して色んなところに卸すんだよ」

「それ、お前らの仕事か? 家具屋の仕事では?」

「あいつらはそれ専門の職人だから良い木を使っている。つまり高いんだよ。ウチはその辺の木だから安い。住みわけだよ」


 そんなもんかねー?


「まあいいわ。少しもらうぞ」

「勝手にしな。あそこにあるのは廃材だから金もいらんぞ」


 バートがそう言って戻っていったので俺達は大量の木材が置いてある隅に向かった。


「どんなのがいいの?」


 リリーが木材を眺めながら聞いてくる。


「俺の部屋にある机より少し大きいのがいいな。昨日、狭かっただろ」

「そうだねー。どうせ、あそこでご飯を食べるわけだし、そうした方がいいなー」


 俺が男子禁制の3階に行くわけにはいかないから自然と俺の部屋に集まるわけだ。


「適当でいいから頼むわ」

「わかった! 任せておいて! 作っておくからユウマとAIちゃんは買い物に行きなよ。魔石とかいるんでしょ?」


 それもそうだな。

 コタツ用の布団もいるし。


「じゃあ、行ってくる。頼んだぞ」

「うん!」


 俺とAIちゃんはこの場をリリーに任せ、買い物に出かけた。

 魔法屋と家具屋に行き、魔石と布団を購入し、戻ってくると、リリーが机を作るのを眺める。

 そして、出来上がった机を持って寮に戻ると、部屋に置いた。

 とはいえ、まだそこまで寒くはないので机を設置するだけで魔石と布団はAIちゃんの空間魔法に収納したままだ。


 俺達はこの日、広くなった机で夕食を皆で食べると、明日に備え、早めに就寝した。

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