第088話 釣りに行く


 パメラと大事な話が終わった後も飲み続けると、潰れてしまったパメラを背負い、寮まで送っていった。

 寮に着くと、同じ寮に住むパメラの同僚とにゃーにゃーと鳴いているタマちゃんにパメラを任せ、帰宅する。

 そして、以前と同様に部屋にいないAIちゃんに呆れつつも就寝した。


 翌朝、二日酔いで頭が痛いのをそわそわしているナタリアに治してもらうと、部屋でゴロゴロする。

 すると、珍しくアリスが一人で訪ねてきた。


「…………ユウマ、一人?」


 床で横になっていると、アリスが聞いてくる。


「一人。AIちゃんはナタリアのところだ」

「あー……私の部屋ってナタリアの隣なんだけど、昨日、きゃーきゃーうるさかった」


 あいつらは……


「悪いな。AIちゃんもナタリアも思春期なんだ」


 AIちゃんに思春期という概念があるかは微妙だが。


「…………ナタリアは子供の頃からだよ」

「そんな感じがするわ」


 恋愛ものの本ばっかり持ってるし。


「…………でしょ。ところで何してるの?」

「何も。何も考えず、何もせずにただ休んでいる」

「…………そういうのをこっちの世界では暇と言う」


 どこの世界でもそうだろ。


「何か用か? パメラとは何もなかったぞ」


 朝食を食べている時、AIちゃんとリリーがうるさかった。

 一方でナタリアは無言だった。


「…………知ってる。ユウマは嘘をつかない」


 すまん。

 めっちゃ嘘をついてる。

 本当にごめんなー……


「そうそう。それで?」

「…………暇なら釣りに行こうよ」


 あー、そういえば、そんな話もしたな。


「川で釣れるんだっけ?」

「…………うん。南の森の湖ほど釣れないけど、毒魚はいないよ」


 毒魚がいないのか。

 それはいいな。


「ほうほう。暇だし、行くか。晩飯にしよう」

「…………そうしよう、行こっか」


 よっしゃ、暇だったし、ちょうどいいわ。

 俺、釣り好きだし。


「あー、待て。アリス、アニーを呼んでこい」


 3階は男子禁制だから俺が行くわけにはいかないのだ。


「…………アニー? アニーは絶対に釣りをしないよ?」

「狛ちゃんの散歩ということで誘ってこい」

「…………次はアニー狙い?」


 次という言葉が気になる。


「あいつ、ソロだろ? 仲間に入れてやろうと思ってな。そうすると、俺達のパーティーランクがBになるわけだ。昨日、パメラとそういう話をしてきた」

「…………なるほど。アニーは男の人に狙われやすいから危険だし、仕方がないね」


 顔立ちも整っているし、体つきも良い。

 それでいてあんな格好をしていれば、盗賊共が放っておかないわな。


「そうそう。多分、盗賊も増えているだろうしな」

「…………わかった。呼んでくる」

「交流スペースで待っているから」

「…………ん」


 アリスが頷き、出ていったので出かける準備をし、俺も部屋を出ると、交流スペースに向かった。

 交流スペースに着くと、寝ている狛ちゃんを起こす。


「お前、アニーのことが好きか?」


 そう聞くと、狛ちゃんが頷いた。


「そうか、そうか」


 狛ちゃんを撫でていると、アリスといつものように肌色面積の大きいアニーがやってくる。


「散歩って聞いたけど、このメンツ? 私一人でよくない?」


 アニーは開口一番で怪しみを含んだ聞き方をしてきた。


「同じクラン同士だし、交流を深めようじゃないか」

「交流…………あんたが言うと、ものすごい意味深に聞こえるわね」


 やっぱりこいつも俺のことを好色って思ってるわ。


「普通のだよ。アリスもいるだろうが」

「まあ、そうね…………いや、アリスがいるのが一番変なんだけど。この子が狛ちゃんの散歩に行く?」


 行きそうにないなー……


「…………ユウマが暇そうにしてたから誘っただけ。他意はない」


 アリスがいつもの無表情で否定した。


「ふーん……まあいいか。暇してたの確かだし、行きましょう」


 アニーがそう言うと、狛ちゃんが元気よく、ソファーから飛び降り、アニーにそばに駆け寄る。

 そして、上体を起こして尻尾を振りながらアニーに抱きつくようにすり寄った。


「よしよし。あんたは散歩が好きねー」


 好きなのは散歩じゃなくてお前だと思う。


「じゃあ、行くか」

「…………おー」

「まあいっか」


 アニーは怪しんでいたが、狛ちゃんと散歩に行くことにしたようなので一緒にクランを出る。

 そして、アリスを先頭に町中を歩いていった。


「昨日はどうだったの?」


 歩いていると、アニーが聞いてくる。


「パメラとは何もねーよ。潰れたから寮まで送っていって、後は同僚に任せた」

「そこはどうでもいいわよ。それじゃなくて例の件」


 魔族ね。


「公表しないそうだ」

「ハァ……やっぱりね」


 アニーがため息をついた。


「上の連中は魔族がよほど怖いらしい」

「そりゃそうでしょうねー。私達だって怖いわよ」

「そんなにか?」


 確かに強かったし、魔力も高いが、そこまでビビるほどではないと思う。

 少なくとも、昔は勝って大陸の外に追い出したんだろうし。


「そんなによ。この前だって、死ぬかと思ったわ。まあ、主に魔封じの護符のせいだけど」

「…………あれはない。ズルすぎ」


 お前らはなー……

 AIちゃんや狛ちゃんがいなかったらリリーが矢を撃つしかない。

 あ、でも、矢が出せないか。


「一応、AIちゃんが結界を破る術を覚えたから安心しな」

「…………安心する」


 アリスが頷いた。


「私は別の意味で怖くなったけどね。あんたの母親、怖すぎ。あの魔族がゴブリンやスライムに見えたわ」


 スライムというのを知らんが、あの女も醜悪な顔をしたゴブリンと同列に語られたくないだろうな。


「母上か……そういえば、AIちゃんに乗り移って助けてくれたんだったな……」

「その辺はよくわからないけど、怖かったわ。食べられるかと思った」


 いくらキツネとはいえ、人は食べないだろ。

 多分だけど。


「別に怖くないだろ。家でゴロゴロしてるだけの堕落ギツネだぞ」

「そら、息子のあんたはそう思うでしょうよ。私から見たらバケモノそのものだわ。というか、あんた人間じゃないじゃん」

「失礼な。どこをどう見ても人間だろう。俺には獣耳も尻尾もないぞ」

「なんか生えてきそうな感じがする」


 生えねーわ。

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