第087話 タマちゃんは外で待ってる


 俺とパメラは日が沈み始めて茜色に染まり出した町中を歩いていく。

 すると、パメラがとある建物の前で立ち止まった。


「ここでもいい?」


 そう言われたので建物に立てかけられた看板を見上げる。


「この前とは違うんだな」


 以前来たところは大衆用の飲食店って感じだったが、ここは少し高級そうだ。


「ここは個室があるの。ちょっとあまり人がいるところではね……お金は私も出すから」


 魔族のことだからか。


「この前は普通に話していただろ」

「それを反省してね。というか、ジェフリーさんに怒られちゃった。内緒話をするなら場所を選べ、だって」


 まあ、わからんでもない。


「ふーん、まあ、ここでいいぞ。金も俺が出す」

「ちょっと高いよ?」

「構わん。金はあるし、俺が誘ったなら俺が出す」


 いっぱいあるし。


「そう? ありがと」


 俺達は店に入ると、店員に案内され、個室に通された。

 そして、適当な食べ物と食事を頼むと、乾杯をする。


「お前って寮だろ? 食事はどうしてんだ?」

「寮にキッチンがあるから作ってるわね。ただ、やっぱり外食の方が多いけど」


 ふーん……


「作ってやろうか?」

「いやー、せっかくだけど、寮は男子禁制なの。本当に残念」


 全然、残念そうじゃない笑顔だ。

 多分、誰かが告口をしたな……


「そうか。練習して上手くなったら皆をあっと言わせようと思ったんだが……」

「練習で私を焼死させないで」


 焼死せんわ。


「まあいい。それで昨日の件はどうなったんだ?」


 そろそろ本題に入ろう。


「ええ。まずだけど、魔族の件をギルド、区長、王家に伝えてあります。それでなんですけど、当然、公表はしません」


 だろうな。

 ここでするんだったらスタンピードの時も公表してる。


「それはわかるが、サイラス達や10人の冒険者はどうするんだ?」

「サイラスさんは【ハッシュ】も切り捨てましたし、事情が事情なんで問題にすらなりませんね。ただ、その10人の冒険者がマズいです。東区の冒険者なんですけど、有望なクランだったんですよ」

「東区のギルマスや区長は何て?」

「本当に魔族かを疑っていましたが、遺体を見せたら黙りました。バラバラでぐちゃぐちゃだったんですって」


 あいつの怪力か……

 かなりの力だった。


「強かったしなー」

「それでなんですけど、その魔族の男の死体がないって言ってましたよね? 聞きたくないですけど、聞いてこいって言われたんで聞きます。なんで死体がないんですか?」


 食事中に言いたくないなー。


「自分で鉄壁って言うくらいには堅くてな。俺の打撃や剣ではどうしようもなかったんで式神を出したんだ」

「大蜘蛛ちゃんです?」

「いや、大ムカデちゃん。大ムカデちゃんは鉄をも溶かす酸を出すことができるんだが、それで溶かして、食べちゃったな」


 やめなさいって言ったのに聞きやしない。

 まあ、ムカデはそんなものかもしれんが。


「…………はーい。もういいでーす」


 パメラはフォークを置くと、グラスのワインを一気飲みする。


「だから言わなかったのに……」

「私だって聞きたくなかったですよ。でも、聞いてこいって言われたんです」


 書面にでもして渡してやれば良かったな。


「敵が思ったより強くてなー……悪い」

「いえ、いいんです。魔族を撃退してくれたことは感謝ですしね。あ、褒賞金が出るそうです」


 マジ?


「いくら?」

「未定です。また区長から呼びだしがあると思いますのでその時はお願いします」


 お前の親父な。


「わかった。あの遺跡は立入禁止になるのか?」

「いえ、それが無理なんです。さすがに西の森の閉鎖で冒険者からの苦情、さらには流出……想像以上に問題が起きましてね。まだそこまで問題が大きくなっているわけではありませんが、これ以上は下手をすると、町の存続自体が危ぶまれる可能性があると予想したようです。なので封鎖は無理という結論に至りましたね。さらには西の森も解禁です」


 やはりその結論に至ったか。

 思ってたより早かったな。


「いつからだ?」

「西の森の解禁は3日後です」


 それまでは休みかなー……

 あいつらもあんな目に遭ったのなら東の遺跡は当分、行きたくないだろうし。


「王都に行った連中はどうするんだろ?」

「どうですかねー? 戻ってきてほしいんですけど」


 王都に行く時にでも声をかけてみるか。

 いつ呼び出しが来るかは知らんが。


「どうせもうすぐ冬なんだろ?」

「だからですよ。冬は稼ぎが落ちますから貯めておかないといけないんです」


 ギルドもか……


「まあ、頑張るわ」

「お願いします。それでなんですけど、ユウマさんをBランクにすることが決定しました。次にギルドに来られた時にお知らせする予定だったんですけど、早めに知らせておきます」


 ついに俺もBランクか。

 Aランクまであと少しだ。

 だから何だって話だけど。


「どうも。パーティーランクは?」

「それはCのままですよ。ナタリアさんとリリーさんがCランクでユウマさんとアリスさんがBランクですからパーティーランクをBランクにしても変ではないですが、パーティーのバランス、経験等を考えると、Bランクは難しいですね」


 真面目に評価しているなー。

 でもまあ、経験の浅い俺とリリー、魔法以外は戦うすべを持たないナタリアとアリスのパーティーだし、ギルドがそう判断するのもわからないでもない。


「もう1人Bランクを入れたらどうなる? 経験も豊富」

「アニーさんです?」

「わかるか?」

「まあ、その人しかいないですしね。ソロですし、【風の翼】で残っているBランクの女性はアニーさんだけです」


 言っていることはわかるんだが、何故、女性に限定した?

 クライヴかもしれんだろ。


「アニーで正解だ。アニーを入れたらBランクになれるか? まあ、バランスは相変わらず悪いが……」


 あいつも近接戦闘はダメ。


「うーん、でもまあ、経験はありますしねー……それにあの人は慎重で頭も良いですから。だからあの若さであなた方のクランの副リーダーなんですよ」


 へー……

 まあ、頭が良いのはわかる。

 こう言ったら悪いけど、リリーとは全然違うし。


「いける?」

「まあ……バランスは確かに悪いですが、狛ちゃんとかもいるし、いいんじゃないですかね? 申請はできますよ。最終的な判断をするのはジェフリーさんですけど」


 あいつか……

 まあ、ギルマスだしな。


「じゃあ、アニーの勧誘が上手くいったら頼むわ」

「いけそうです?」

「大丈夫。断りはせんだろ」


 別に1人が好きというわけでもないし、クライヴ達とは主に服装の感性で合わなかっただけだ。

 その点、ウチのパーティーは女ばっかりだから問題ない。


「ですかねー? まあ、わかりました。申請しときます」

「頼むわ。さて、飲むか」

「ええ。実は明日は休みなんです。飲むぞー」


 そうか……

 飲んで日頃の疲れを癒すといいぞ。

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