第086話 適当が一番


 母上が帰った後、俺達は皆と夕食を食べた。

 そして、この日は早めに就寝し、翌日である今日も遅くまで寝ていた。

 今日は当然のように休みなのだ。


 昨日、あんなことがあって疲れているだろうし、家にいた方が良いだろうということでクランからも出ていない。

 俺達はずっと部屋にいるのだが、やることがないので本を読んでいる。


「ナタリア。お前、王子様が好きか?」


 部屋には本を貸してくれたナタリアもおり、一緒に本を読んでいた。


「別にそういうわけじゃないよ。恋愛ものってそういうのが多いだけ」


 ふーん……

 そういえば、俺の世界にもそういう本があったな。

 ドロドロというか、娘には読ませたくない感じの本。


「お前、冒険記とか持ってる?」

「持ってたけど、実家だねー。子供の頃に読んだやつだし」


 王都か……


「買ってみるかなー」

「いいんじゃない? 今度、一緒に本屋さんに行こうよ」

「そうだな。案内してくれ」


 やっぱり恋愛ものはきついわ。

 単純に興味がないのと文化が違いすぎて理解できないことが多い。


「アリスとリリーは何してんだ?」

「アリスはどこかに出かけたね。リリーは買い物」

「ふーん……」

「聞いてきたくせに興味なさげ……本当に暇なんだね」


 暇だわ。


「冬って家に籠るんだろ? 本を買い溜めしといた方が良さそうだな」

「別に外に出てもいいだけどね。去年はリリーが大はしゃぎだったよ。雪を初めて見たんだって」


 へー……子供みたい。


「アリスとアニーは一歩も外に出ずか?」

「一歩も出ないことはないけど、まあ、そんな感じ」


 あいつらはそんな感じがするもんなー。


「想像できるわ」

「想像通りだね。男の人は朝からお酒を飲んだり、カードゲームをしてるよ。混ぜてもらえば?」

「いいかもなー。さすがに冬までには帰ってくるんだろ?」

「そうだね。帰ってくると思う。ただ、実家に帰る人もいるだろうけど」


 正月みたいなものかねー?


「マスター、冬までにコタツを作りましょうよ」

「あー、いいかもな」


 そんなに難しい構造じゃないし、魔石があるこの世界では簡単に作れそうだ。


「何それ?」


 ナタリアが聞いてくる。


「温かい布団付き机」

「へー。気になる」

「できたら見せてやる。AIちゃん、材料を買いに行くか」


 暇だし、買い物にでも行くかね。


「そうですね…………あー、今度にしましょうか」


 ん?


「どうした?」

「タマちゃんからの念話です。パメラがそっちに向かってるにゃ、だそうです」


 タマちゃん、語尾が『にゃ』なの?


「昨日の件か?」

「多分、そうじゃないですかね? タマちゃんは難しいことはわからないにゃって言ってます」


 子猫だしなー……


「パメラさんが来るの? じゃあ、私は部屋に戻るよ」


 ナタリアはそう言いながら本を閉じると、立ち上がり、部屋を出ていった。


「別にいてもいいのに」

「気を遣われたんです。女性はそういうものですよ」


 いや、パーティーメンバーだろ……

 リーダーに全部、任せてないで一緒に話を聞けよ。


「まあいいや。AIちゃん、お茶」

「いい時間ですし、食事に行かれては?」


 あー、そっちがいいかもしれんな。

 もしかしたら長くなるかもしれないし。


「そうするか……」

「では、私はナタリアさんの部屋に行ってきます。今日はそのまま戻りませんのでごゆっくりー」


 AIちゃんはニヤニヤと笑いながら部屋を出ていった。


「あいつ、何がそんなに楽しいんだ?」


 よくわからないなーと思いながらもパメラを待っていると、ノックの音が部屋に響く。


「入っていいぞー」


 入室の許可を出すと、扉が開かれ、予想通り、パメラが部屋に入ってきた。


「こんにちは」


 扉を開けたパメラが笑顔で挨拶をしてくる。


「よう。仕事は終わったか?」

「これが最後。このまま直帰ね」


 それはちょうど良かった。


「昨日の話だろ?」

「ええ。それと他にもある」


 やはり長くなりそうだ。


「よし、奢ってやるから飯にでも行くか」

「いいの?」

「大丈夫、大丈夫。ほら、行くぞ」


 俺は立ち上がると、パメラと共に寮を出る。

 すると、向かいの建物の近くに置いてある木箱の上にタマちゃんが寝ころんでいるのが見えた。


「あの子、どこに行くにもついてくるんだけど……」

「猫はそんなもんだ」


 きっと心配なんだろう。


「あと、遊んであげようとすると、そっぽを向き、仕事をしようとしたら構ってほしそうにすり寄ってくる。もっと言うと、朝、寝ていると顔を踏んでくるわ」

「猫はそんなもんだ」

「まあ、可愛いからいいんだけどね」


 そうそう。


 俺とパメラが歩き始めると、タマちゃんも一定の距離を置いてついてくる。

 それを見たパメラがやれやれといった感じでため息をつくが、顔は嬉しそうだ。

 そのまま歩いていると、前の方からアリスとリリーが並んで歩いているのが見えた。


「よう、一緒だったのか?」


 向こうもこちらに気付いたようなので2人に声をかける。


「…………そこで一緒になったから帰るところ」

「ユウマは? デート? 今日は帰ってこない?」


 こいつらは本当にそういう話題が好きだな。


「昨日の話を聞くんだよ。お前らも聞くか?」

「…………遠慮しとく」

「難しいことはわかんないし、ユウマに任せる! よろしく、リーダー!」


 2人はあっさりそう言うと、寮の方に歩いていった。


「あいつら、全部、俺に任せる気らしい。さっきまでナタリアとAIちゃんがいたんだが、あいつらもだわ」

「うーん……それがリーダーの仕事と言えば、仕事なんだけど、皆さん、任せすぎな気もするわねー……まあ、大人しいし、自己主張しない人達だから仕方がないけど。でも、そっちの方が揉めなくても良いという面もあるわよ。他のところなんかたまに方針なんかで揉めてギルドや酒場でケンカしてるからね」


 さすがにそれは嫌だなー。

 あいつらが自己主張しない奴らで良かったと思おう。

 ゆるーいクランだし、ゆるーくやればいいだろ。

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