第084話 AIちゃんはどこ?


 遺跡を出て、2時間近くかけて町まで戻った俺達は西区まで戻ると、その場で解散することになった。

 まあ、先日と同じように俺とアリスとAIちゃんがギルドに行き、他の3人が買い物に行くのだ。

 それと早めにレイラに今回のことを報告したいらしい。

 報告してもふーんで終わると思うが、一応はウチのクランのトップなため、耳には入れておかないといけない。


 西区で解散した俺達はギルドに向かう。

 ギルドに入ると、まだ夕方前なこともあって、他の冒険者はいなかった。


「あれ? 早いですねー」


 ギルドに入ると、パメラが声をかけてきたので受付に向かう。


「パメラ、ちょっといいか?」

「んー? どうしました?」

「内緒話がある」

「……えーっと、こちらにどうぞ」


 パメラは立ち上がると、階段の方に向かった。

 そして、地下に降りていったので俺達も続く。


 階段を降りると、前に昇格試験を受けた訓練場にやってきた。


「誰もいないな」

「ええ……悲しいことですが」


 仕事もないから訓練をしないのか。


「こういう時だからこそ鍛えるもんだと思うけどなー」

「まったくもってその通りです。それで内緒話とは?」


 パメラが聞いてくる。


「結論から言う。東の遺跡に魔族が現れた」

「え? そ、それは本当ですか?」


 パメラが驚きながら確認してきた。


「ああ。しかも、2人」

「ふ、2人も……どうされたんです?」

「俺を襲ってきたドミクっていう男は大ムカデちゃんのエサになった。他の連中を襲った女は逃げた」


 女の方が名前がわかんねーわ。


「すみません。状況を詳しく教えてください」


 パメラにそう言われて、チラッとアリスを見る。


 言うつもりはなかったが、アリスなら問題ないか……


「俺達は東の遺跡で採取の仕事をしていた。まあ、俺とアリスは戦力外だから見張りだけどな。そうしていると、サイラス達の魔力を感じたんだ」

「サイラスさん達ですか……やっぱり行きましたか」


 パメラも予想していたようだ。


「ああ。目的はわかっているから始末するために1人でサイラス達のもとに向かったんだよ。そうすると、サイラス達がすでに死んでいて魔族の男に襲われた」


 ということにする。

 俺は何もしていない。


「その魔族がサイラスさん達を?」

「そう言っていた。しかも、北の魔物が多い区域で10人ほど殺したらしい。実際、俺達も北に向かう10人組を見ているし、間違いないと思う」


 北に行って確認しても良かったが……

 いや、やはり報告を優先すべきだろう。


「そうですか…………それでユウマさんは魔族の男を倒されたんですね?」

「そうなる。かなり強い奴だったが、大ムカデちゃんが撃退した。理由は言わないが、死体は残っていないぞ」

「あ、はい…………怖っ」


 パメラがちょっと引いている。


「俺が知っているのはそこまでだな。あとは空を飛んでいる魔族の女を見かけただけだ」

「なるほど…………そちらは?」


 パメラがアリスを見た。


「…………私達はユウマがどこかに行ってからも採取を続けていた。正直に言えば、ユウマが何しに行ったのかはわかっていた。わかっていないのはナタリアだけ」


 あ、そうなんだ。


「それでどうしたんです?」

「…………そのまま採取を続けていたらAIちゃんが魔族に気付いた。魔族の女はナイフを持っていて最初からやる気満々って感じだったね」


 ナイフか。

 剣じゃないんだ。


「戦ったんです?」

「…………魔法封じの護符を使われて何もできなくなった。そうしたらAIちゃんが前に出て、魔族を撃退した。魔族の女は空に逃げた。以上」


 アリスが簡潔に述べた。


「なるほど…………目的は何でしょうね? また、スタンピードでしょうか?」

「いや、そんな感じではなかった。女の方は知らんが、ドミクはスヴェンを退けた俺に興味があったらしくて俺を探していたっぽい。オークの目撃情報もあいつだろう。オークみたいにでかかったし」

「そういうことですか……わかりました。このことを急ぎ、ギルマスと区長に伝えます。精算は他の受付嬢に渡してくれればいいので」


 ドミクがやった冒険者のこともあるし、急ぎだわな。


「それでいい。早く報告しろ」

「すみません。またそちらに伺うと思いますので……」


 パメラはそう言って、申し訳なさそうに頭を下げると、急いで階段を昇っていった。


「帰るか」

「そうですね」

「…………疲れた」


 俺達は階段を上がり、受付に戻ると、別の受付嬢に薬草や魔石などの精算をしてもらった。

 そして、ギルドを出ると、クランの寮まで戻る。


 寮に戻り、玄関を開けると、リリーがエントランスにいた。


「あ、おかえりー、ちゃんと報告した?」


 リリーが声をかけてくる。


「ああ。精算もしたからあとで報酬を山分けしよう」

「わかったー。あ、ユウマ、レイラさんが呼んでいるよ?」


 レイラ?

 魔族の件かな?


「わかった」

「マスター、私は地図を仕上げておきますので」

「頼むわ」


 AIちゃんが部屋に戻ったのでアリスと共に3階まで行く。

 そして、3階でアリスと別れると、レイラの部屋の扉をノックした。


『入れー』


 レイラの許可を得たので扉を開ける。

 すると、レイラがソファーに腰かけていた。


「呼んだか?」


 レイラの近くに向かいながら聞く。


「ああ。魔族だって?」

「だな。魔族って強いんだな」

「まあな。とはいえ、数が少ないからな」


 少ないんだ……


「なあ、なんで魔族と争ってんだ? 俺は来たばかりでその辺のことを知らん」

「別にたいしたことじゃないぞ。人間らしい歴史だ」


 人間らしい歴史……


「差別とか戦争か?」

「そうだ。この世界は色んな種族がいるだろ?」

「そうだな。魔族もだし、この前、獣人族を見た。それにリリーはエルフだ」

「他にいるんだが、この辺はそのあたりだろう。種族は異なれば、争いは起きる」


 それはそうだ。

 国同士でも争うし、町や村が違うだけでも争う。

 種族が異なれば、当然のように争いも起きるだろう。


「要は魔族と戦争状態なわけか?」

「人族はそう思っていないがな。昔は魔族もその辺にいたらしい。だが、魔族は魔力が高いうえに凶暴で残酷なところがある。それを他種族は良しとしなかった」


 そりゃそうだ。

 普通に怖いもん。


「戦争か?」

「ああ。数が多い人族を中心に魔族を別の大陸に追いやったんだ。当然、大量の死者が出た。魔族も抵抗したが、さすがに多勢に無勢だからな……」


 戦争は基本、数が物を言うしな。


「別の大陸って魔大陸ってところか?」

「そうだ。知ってるのか?」

「今日会った魔族がそんなことを言っていた」


 スヴェンはもう魔大陸に帰ったって言っていた。


「そうか……魔大陸はロクに作物も育たない不毛な地なんだよ。だから元々、人が住んでいなかった」


 そりゃ大変だ。


「魔族はこの大陸に戻りたいわけか……」

「そういうこと。もちろん、人族を始めとする他種族は絶対に認めない」

「なるほどねー。数で負けたからスタンピードなわけだ」


 やり返したわけだな。


「だと思う。まあ、私には関係ない話だ。興味もない」

「俺、魔族に睨まれている気がするんだけど……」

「どうとでもなるだろ」


 まあ、そうだけど、めんどいんだよなー。

 なんで魔族なんかと争わないといけないのか。


「いい迷惑だわ」

「まったくだ…………ユウマ、サイラスはどうした?」


 本題はこれか……


「殺した。遺体は燃やしておいたわ。あ、女共には言うなよ」

「そうか……実は昼に【ハッシュ】の副リーダーがやってきてな。サイラス達をクビにしたそうだ」

「クビ?」

「トカゲの尻尾切りだ。わかるだろ」


 やっぱりか。

 サイラス達はクラン同士の話し合いに納得がいかなかったんだ。

 それでバイロンの命令を無視して、東の遺跡に向かった。

 だから問題を起こす前に切ったってことだろう。


「バカな奴……なんであんなに突っかかったんだろうな」

「女だろ。サイラスは随分前からアニーを勧誘していたからな」


 あー、そういうこと。

 アニーもサイラスのことを昔から知っているって感じだったしな。


「西区出身のアニーが南区に行くわけないことはわかるだろうに」

「嫉妬だよ」


 俺か……


「処分で正解だったな」

「そういうことだな。まあ、死んだのならそれでいい。【ハッシュ】とはお互い関わらないようにしようということになったからお前らも【ハッシュ】と揉め事を起こすな」


 こっちが起こすわけないだろ。


「わかった」

「話は以上だ。行っていいぞ」


 レイラがしっしと手を振る。


「お前、いつも1人で飯を食ってんのか?」

「そうだが?」

「この世界って皆で食べるのが普通って聞いたぞ」


 本当にいつも一緒に食べている。


「そうだな。お前らはお前らで仲良く食え」

「お前は? そんなに人が嫌いか?」


 冷徹蛇女はこれだから……


「いや、そんなことはないぞ。ただ、お前らと食うのは嫌だ」

「なんで?」

「好色ギツネとその女共だろ? 普通に嫌だわ」


 違うっての。


「俺は誠実なんだぞ」

「誠実だからだろ」


 え? どういうこと?


「意味わからん」

「そうか。まあ、それならそれでいいわ。とにかく、私は一人でいいから女共と食っとけ」


 レイラがまたしてもしっしと追い払うように手を振ってきたので大人しく部屋を出た。

 そして、レイラに言われた意味を考えながら部屋に戻る。

 すると、AIちゃんがキツネ耳と尻尾を出した状態でニコニコと慈愛の笑みを浮かべながら座っていた。


「どうした?」

「ユウマ。お前、こんなところで何をしておるんじゃ?」


 んー?


「何をしてるって…………あれ?」


 AIちゃんが変なのでじーっと見てみる。

 AIちゃんはやはりニコニコと笑っており、優しい笑みを浮かべていた。

 いつものAIちゃんの顔ではない。


「しかし、さっき会った女共の匂いが充満しておる部屋じゃの。しかも、それ以外もおるな…………お前は死してもなお、まだ女が欲しいのか?」


 ………………。


「母上ぇ!?」


 母上じゃん!

 AIちゃんだけど、母上じゃん!


「別に会うのは久しくはないが、若い時のお前を見るのは久しいのう……」


 マジで母上じゃん!

 なんでいるの!?


 いや、待て……

 AIちゃんはー!?





――――――――――――


ここまでが第2章となります。


これまでブックマークや評価をして頂き、ありがとうございます。

第3章も今後もよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る