第083話 帰る ★
私は上空に逃れ、あの化けギツネから距離を取っていた。
なんだ、あのバケモノは!?
ほ、本当に食べる気だったぞ!
じょ、冗談じゃない……
ふ、震えが……
「クソッ! あの大蜘蛛がかわいく見えます……」
それほどまでにバケモノだった。
命があったのは奇跡だろう。
「こうなったらドミクを始末し、さっさと帰ろ、う……え?」
私が上空を飛んでドミクを探していると、とある男と目が合った。
その男は私をじーっと見ており、首を傾げている。
すると、男が軽く会釈をしてきたので反射的に会釈を返してしまった。
いや!
いやいやいや!
あれはユウマとかいうスヴェン様を倒した男だろう。
あれ?
ドミクはどこだろう?
「え?」
よく見ると、ユウマの足元には何かがうごめいている。
私はそれをよく見てみる。
「ひっ!」
思わず悲鳴が出た。
それは何かを巻き付けて、食べているムカデだったのだ。
な、何あれ……?
気持ち悪い……
あの男、あんな従魔までいるんだ……
じょ、冗談じゃない!
あんなのと戦って負けたらあんな感じで食われるの!?
絶対にごめんだ!
「ん?」
あれ?
戦う?
ド、ドミクは……?
嫌な予感がしたので気持ち悪いなと思いつつもムカデを観察してみる。
すると、巻き付いているムカデのわずかな隙間から魔族特有の青白い肌が見えた。
ド、ドミク……
あ、あのドミクがムカデに食われている……
バカで粗暴だが、実力はあるドミクですら……
き、気持ち悪い……!
い、いやだ……嫌だ、嫌だ!
あんな死に方、絶対に嫌だ!
あいつの従魔は人食いばかりじゃないか!
スヴェン様には悪いが、私はもう関わりたくない。
私はもう軍を辞めようと決意し、さっさと逃げだした。
◆◇◆
「なんだ、あれ?」
空に人が飛んでいるから不思議だなーっと思って見ていたら目が合ったので会釈をした。
飛んでいた女もすぐに会釈を返してくれたが、慌てて逃げてしまった。
「魔族だったと思うが……」
なんだろう?
『マスター、すみませーん……やられちゃいましたぁー』
脳内にAIちゃんの声が響く。
『どうした? さっき魔族の女が飛んでいったが、それと関係あるのか?』
『はい。マスターがいなくなった後に襲ってきたんです。私の眠れる力を使って撃退しましたが、ナイフが心臓に刺さっちゃって死んじゃいました。また出してくださーい』
さっき感じたAIちゃんの妖力はそういうことだったらしい。
まあ、式神の能力から考えたらあれくらいの妖力は出せるからな。
俺は納得しつつも護符を出し、投げた。
すると、AIちゃんが現れる。
「ふぅ……復活です! ところで、これは何ですか?」
AIちゃんが大ムカデちゃんを見ながら聞いてくる。
「知らん。スヴェンの友達らしいが、大ムカデちゃんの敵ではなかった」
鉄壁な身体に自信があったんだろうが、大ムカデちゃんの鉄をも溶かす酸を避けずに浴びていた。
アホだと思う。
「魔族ですか……何が目的でしょう?」
「俺と戦いたいって感じだったな。脳筋のバカだろう。士族にもそういうのはいたが、ここまでバカはいなかったな」
「なるほど。こちらは?」
AIちゃんが今度はサイラス達を見る。
「女共に手を出そうとしたから処分した」
「それは処分ですね。マスターの奥様候補に手を出そうとするとは……」
奥様候補は置いておくとしても許さんわ。
「サイラス達はどうでもいいが、この魔族は広場にいた例の10人組の冒険者をやったらしい」
「それは…………いかがいたします?」
「パメラに報告だな」
「それが良いと思います。ですが、サイラスさん達は燃やしてください。面倒なことになります」
【ハッシュ】か……
「わかった。それで女共はどうした?」
「マスターの女共は狛ちゃんが守っていますのでご安心を」
いちいち、言い直すなよ。
「ならいい。さっさと処理して戻ろう」
「そうですね。ほら、大ムカデちゃん、早く食べて…………いや、早食いは太るって何を言ってんですか!」
本当に何を言っているんだろう?
俺はサイラス達の遺体を狐火で灰にし、ドミクを処理した大ムカデちゃんを消すと、AIちゃんと共にナタリア達のもとに戻ることにした。
薬草採取をしていた廃墟の敷地まで戻ると、4人は採取をしておらず、顔を合わせて何かを話していた。
「あ、ユウマ」
リリーが俺を見つけ、声を出す。
すると、他の3人も俺達を見てきたで4人のもとに向かった。
「お前ら、魔族に襲われたんだって?」
「そうそう。いきなりだったからびっくりした。しかも、魔法封じの結界を張られて私達、何もできなくなった」
そんなのがあるのか……
厄介すぎるな。
「あ、AIちゃんが復活してる」
ナタリアがAIちゃんを見る。
「式神はいつでも戻れますからね。それよりも皆さんにお怪我ありませんか?」
「大丈夫だよ。ただ見てただけだし」
怪我がないなら問題ないな。
「ユウマ、さっきの魔族のことはどうする気?」
アニーが聞いてきた。
「実は俺も魔族に襲われたんだよ」
「マジ? 魔族が2人もいたの?」
「みたいだな。俺の方は倒したが、お前らを襲った女は空を飛んでどっかに行ったな」
撃墜しとけばよかったかな?
でも、会釈を返してきたし、友好的にも見えたんだよなー。
「そう……ギルドには報告した方が良さそうね」
「ああ。北に行った10人を殺したらしいし、早めに報告しよう」
「あの10人を……わかった、今日は帰りましょう」
「だな」
俺達は帰ることに決め、早々とこの場をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます