第081話 長いトイレ
アニー、ナタリア、リリーが採取をし、AIちゃんが地図を描いている中、俺とアリスはぼーっと待ち続け、時折り出てくる魔物を倒していた。
そして、昼食を食べ終え、午後からも暇だなーと思いながらアリスとくだらない会話をしていると、ふいにとある魔力を感じた。
「アリス、ちょっとトイレに行ってくるから一人で見張っててくれ」
俺は塀に背中を預けていたが、塀から離れ、アリスに告げる。
「…………トイレ? 1人で大丈夫?」
「問題ない。すぐに戻るわ」
そう言うと、この場を離れ、敷地から出た。
敷地を出る際、結界の護符を塀に貼り、ここに誰も侵入できないようにする。
そして、魔力を感じる方に歩いていった。
すると、正面からサイラス一味3人が歩いてくる。
「よう、サイラス。どうした?」
「うるせー……」
もう話もできんな。
「一応、聞く。何がしたい?」
「てめーらは許さねー……死ね」
ら?
俺だけじゃなく、ウチの女共も含めたか……
「そうか……槐の言葉ではないが、無能はどうしようもないな……」
「ハァ!?」
いや、無能云々ではない。
餓鬼道に堕ちた者は人ではない。
「愚かな……サイラス、俺は非常に寛容だ。何故なら、いちいちお前ら庶民を相手にしないからな」
貴族はこんな賊を相手にしない。
陰陽師ならなおさらである。
こういうのは兵士の仕事だ。
「ケンカ売ってんのか?」
「ケンカを売る? 俺が? お前らにか? もういい……」
人の仲間に手を出す賊と話すのは時間の無駄だ。
「舐めてんのか?」
「それはお前だ。もういいから消え失せろ」
そう言いながら指を立てる。
すると、サイラスの左右にいるパットとリックの胴体が分かれ、地に沈んだ。
かまいたちで両断したのだ。
「は?」
サイラスが言葉すら発せずに死んだ2人を見て、呆けた声を出す。
「俺は仲間を害しようとする者を許さない。辞世の句はあるか? 一応、聞いてやるぞ?」
「ふざけんな!」
サイラスが腰の剣に手を伸ばしたので指を向ける。
そして、狐火を放ち、サイラスを燃やした。
「ぐっ! 熱いっ! なんだこれ!? がはぁっ!」
サイラスは膝をつき、倒れる。
「ハァ……何度も許してやったというのに……」
心が貧しい者は人の恩情すら感じられないか……
「さて……これはバイロンが命じたことかな?」
その場合はバイロンも殺さないといけないが……
いや、それはないか。
昨日、レイラは無能と断言していたが、バイロンは話した限り、無能じゃない。
むしろ、Aランクなだけあって、引き際を知っている優秀で頭の良い男だった。
そんな男がこんなアホなことはしないだろう。
「となると、バイロンに切られたか……」
それで逆恨みってところだな。
そう判断すると、3人の遺体に手を向ける。
後々面倒なことになりそうだから灰にしておく必要があるからだ。
すると、わずかだが、奇妙な魔力を感じた
「チッ!」
俺はとっさに右に避けた。
すると、丸太のように太い腕がさっきまで俺がいたところを勢いよく通る。
「ハッ! これを躱すか」
体勢を整え、声がした方を見ると、そこには2メートルを超えるような大男が笑って立っていた。
「誰だ?」
「あー、ハズレだったらすまん。お前、ユウマか?」
ん?
知り合いか?
「確かに俺の名はユウマだが、会ったことがあるか? 記憶にないんだが……」
もしかして、前世の知り合いだろうか?
いや、こんなでかい男はそう簡単には忘れないと思う。
「あー、知り合いじゃねーよ。こっちが一方的に知っているだけだ。お前、スヴェンを知ってるか?」
スヴェン……
魔族か。
そういえば、こいつの肌も青白くどこか不健康そうな色をしている。
「なんだ、スヴェンの友達か」
「友達ではねーよ。スヴェンに勝ったという男に会いたくてな」
男がニヤリと笑った。
「ふーん、ちなみに聞くが、特徴とか聞かなかったのか?」
「ああ。名前しか聞いていない」
アホか。
「ここに何人の人間がいると思ってんだ? 聞きに帰れよ」
「スヴェンはもう魔大陸に帰っちまったんだよ。それで仕方がないから町の周辺を探っていた。ここに来たのは2度目だが、ようやくだぜ」
2度目……
オークの目撃情報ってこいつじゃないか?
でかいし、遠目で見たらオークに見えないこともない。
「そうかい。会えて良かったな」
「ホントだぜ。朝から探していたんだが、おかげで何人もやっちまった」
何人も……
他の冒険者か。
「確認しろよな。手間すぎるだろ」
「そうでもないぜ。さっきも10人の人間をやったが、歯ごたえがあって楽しかったぜ」
10人……
噴水跡で見たあいつらか。
「そうか……それで? 俺に会ってどうしたいんだ?」
「もちろん、どんなもんか知りたいんだ、よっ!」
男はそう言いながら殴りかかってくる。
男の拳は大きく、それでいて速い。
とはいえ、躱せないほどでもないので軽く右に動き、躱した。
「チッ! 動きはたいしたものだな。スヴェンに勝ったというのもあながち間違いでもないらしい」
「一つ聞いてもいいか?」
気になっていたことを確認しておきたい。
「何だ? 冥土の土産に答えてやる」
「お前からほとんど魔力を感じないんだが、どうなってんだ?」
俺は今までこいつの魔力をまったく感知できなかった。
北で10人をやったという時もわからなかったし、さっきも攻撃されるまでまったくわからなかったのだ。
「ああ、それか。俺は魔力を身体に内包しているんだよ。だから外に漏れることはないんだ。もっとも、そのせいで魔法を使えないがな」
見た目通りの脳筋だな。
自分の弱点をバラしやがった。
「なるほどな。すまんが、もう一つ聞きたい」
「ハァ!? 調子に乗るなよ!」
男が怒った。
「いや、すまん。だが、とても大事なことだ」
「チッ! 何だよ?」
「名前を言え。死にゆく者の名前くらいは聞いておきたい」
自己紹介くらいしろよ。
「はっ! ははは! そうだな! その通りだ! 俺はドミク! 魔族のドミクだ! お前を殺す男だっ!」
ドミクは笑いながら突っ込んでくる。
その勢いは先ほどとは比べ物にならないくらいだが、まっすぐ突っ込んでくる猪を躱すのは簡単なのでまたもや右に避けた。
そして、避けると同時に身体をひねると、勢いよく突っ込んでいったドミクの後ろを取る。
「狐火!」
俺に背を向け、がら空きなドミクに向かって狐火を放った。
「があっ!!」
狐火はドミクに向かっていったのだが、ドミクは振り向きざまに裏拳を放ち、狐火をかき消す。
「すごっ……」
俺の術を拳で消しやがった。
「言っただろ。俺は魔力を内包しているんだ。この身体は鉄壁だ。そして、最強の矛でもある! 死ねっ!」
ドミクが今度はフックで殴ってきたため、腰を下ろして躱す。
そして、そのまま腰を下ろした勢いで飛び上がると、ドミクの顎に掌底を当てた。
顎を打ち抜かれたドミクは数歩ほど後ろに下がったが、すぐに顔をこちらに向け、ニヤリと笑う。
「掌底にも魔力を込めているのか……たいしたもんだな。だが、その程度では無理だ」
確かに効いていないっぽい……
どうする?
いや、こういう相手にこそ、式神の出番だろう。
「鉄壁か……では、こいつに勝てるかな?」
そう言いながら護符を取り出すと、霊力を込め、地面に落とした。
「ん? なんだ?」
ドミクが首を傾げる。
「さあ、女共がいない今が出番だぞ、大ムカデちゃん!」
地面に落とした護符は体長数メートルはある巨大なムカデに姿を変える。
大ムカデちゃんはたくさんの足を動かし、ドミクに向かっていった。
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