第080話 誠実を絵に描いたような男なのに


 東区に行き、東門を出た俺達は遺跡を目指して歩き出した。


「やっぱりあの子猫は式神じゃないの」

「まあ、それ以外考えられないわよね」


 昨日、タマちゃんを見ているナタリアとパメラが呆れたように言う。


「パメラは俺達に近すぎる。サイラスのことを考えると護衛をつけた方が良いだろ」


 パメラは明らかに俺達を贔屓しているし、俺に至っては2人で食事にまで行っているのだ。


「まあねー。でも、あの子猫って護衛になるの?」


 ナタリアが聞いてくる。


「なるよ。俺が作った式神が弱いわけがない。あれを作るのにめっちゃ苦労したんだぞ」


 主に造形だけどな。

 AIちゃんがかわいくするべきって主張するから……


「ユウマって前から思ってたけど、やることないの?」

「ないぞ。お前の本を読むか、精神統一のために写経をするだけだ」

「えー……」


 え?

 そこまで引く?


「…………ユウマ、私が釣りに連れていってあげるよ。町を流れる川で釣れるから」


 アリスが声量は小さいが、優しい声色で誘ってくれる。


「私も編み物を…………無理か」


 リリーは最後まで言う前にやめた。

 でも、編み物はしたくないので正解だ。


「採取の仕事が面白くないとか言ってたけど、写経は面白いの? 苦行としか思えないんだけど……」


 アニーが呆れるように言う。


「字を書いていると、心が落ち着くだろ」

「そう……」


 あれー?

 そんなにつまんないかな……


「マスター、明日はお休みでしょうし、一緒にお出かけしましょうか」


 AIちゃんにまで気を遣われているし……


 俺は趣味を見つけようと思いながらも遺跡に向かって歩き続けた。




 ◆◇◆




 以前と同じように2時間近く歩くと、東の遺跡に到着した。

 この日も遺跡の前で相談している冒険者パーティーがおり、アニーが挨拶をすると、遺跡の中に入る。


 遺跡の中の道を歩いていると、何人かの冒険者達とすれ違うが、それ以上にスケルトンやゾンビと遭遇する方が多かった。

 そして、遺跡の中央にある噴水跡に着くと、10人以上の冒険者が集まっていた。


「何あれ?」

「合同で魔物が多い北に行く連中ね。北はあの人数で行っても十分に儲けられるからああやってるのよ」


 アニーが教えてくれる。


「へー……安全策なわけだ」

「そういうこと。多分、どっかのクランでしょ。それよりも私達はこの前と同じ東でいい?」

「そうだな。採取の方が儲かるだろ」


 それに安全面でもそっちの方がいい。

 このパーティーは近接戦闘ができる人間が俺しかいないし、バランスが悪すぎるのだ。


「じゃあ、こっちね」


 俺達はこの前と同様に薬草が多くある東に行くことにし、歩いていく。

 やはり歩いていると、スケルトンやゾンビと多く遭遇し、主に俺とアリスが倒していった。

 そして、そのまま進んでいくと、住宅街にやってきたため、アニーの案内のもと、とある屋敷の敷地に入る。

 そこはこの前来た屋敷の敷地よりも広かった。


「今日はここ。あんたらは遊んでなさい」


 アニーがそう言って、採取を始めると、ナタリア、リリーも腰を下ろして採取を始める。

 AIちゃんは遺跡に入った時からずっと地図を描いており、俺とアリスはポツンと立ち尽くしていた。


「…………ユウマ、やることがない」


 アリスがボソッとつぶやく。


「そうだなー……」


 本でも持ってこようかなとも思ったが、俺とアリスの役目は見張りなため、読書をするわけにはいかないのだ。


「…………なんかやることない?」

「しりとりでもするか?」

「…………何それ?」


 この世界にはしりとりがないらしい。


「そのまんま。言葉のしりをとっていく遊びだ。例えば、俺がアリスと答えたらお前は『す』で始まる言葉を言うわけだ。そうやって続けていき、同じ言葉や『ん』が付いたら負け」

「…………なるほど。やってみよう。ユウマからどうぞ」


 俺からか……


「じゃあ、ナタリア」

「…………ナタリアということは『あ』か。じゃあ、アホ」

「アリス?」


 ナタリアが顔を上げてニッコリと笑う。


「…………遊びだから。他意はない」

「『ほ』だな。じゃあ、包容力がある」


 こんな感じで良いことを言えよ。


「ユウマ……」


 ナタリアが複雑な表情を浮かべる。


「マスターってああいうところがあるんですよね」

「奥さんが12人もいただけはあるわね」

「あの人、すごいよね」


 なんでフォローしたのにこれなんだろう……


「…………『る』か。ルーズ」

「いや、アリスのことじゃん」


 ナタリアが呆れた。


「ずば抜けた優しさ」

「…………竿」

「おしとやか」

「…………ユウマ、しりとりはやめようか」


 もう飽きたん?


「あいつ、きっと全部の言葉で褒め言葉を言えるわよ」

「そうやって奥さんを増やしたんだろうね」

「趣味がないって言ってたけど、女の人を集めるのが趣味でしょ」


 ひっでー扱い……


「マスター、まだ5人しか集まってませんよ」


 集めた覚えはないわ。


「ねえ、ユウマ、なんでそんなに女の人が好きなの? 」


 リリーが聞いてくる。


「ひどい誤解だ。単純に優しいだけ」

「男の人に優しくしてるところを見たことがないんだけど?」


 そりゃ、お前の前で男と絡んだのはサイラス一味だけだからな。


「弟にも優しかったぞ。いつもあいつが好きな人参を譲っていた」

「自分が嫌いなだけじゃないの?」

「じゃあ、逆に聞くが、リーダーが優しくない方がいいか? そうなると、休みがなくなるぞ」


 俺はそれでも構わない。


「えー……それは嫌だなー……ちなみに、ナタリアとパメラだとどっちが好き?」

「女に優劣はつけない」


 皆、それぞれ良いところがあるもんだ。


「あ、本物だ……」


 何が?


『マスター、パメラさん、ナタリアさんはいつでもいけます。アリスさんもすぐです。アニーさんとリリーさんはもう少しですね』


 だから何が!?

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