第079話 本当は虎にしようと思ったが、AIちゃんに却下された
【ハッシュ】のバイロンと話を付けた翌日は休みのため、特にやることもなく、部屋でゴロゴロと過ごした。
翌日。
この日は東の遺跡に行く日であるため、眠い中、何とか起きる。
そして、皆で朝食を食べ、準備をすると、ギルドに向かった。
ギルドに着くと、やはり冒険者の数は少なく、いつぞやの熱気が薄れているので少し寂しく感じる。
俺達は掲示板を見ている冒険者達を尻目に受付にいるパメラのもとに向かった。
「よう。一つ聞きたいんだが、お前、いつ休んでんだ?」
俺達が来る時はいつもいる気がする。
「おはようございます。ユウマさん達が休みの時に適当に休んでいますよ。だからいつも次はいつ来るか聞いているんです」
俺達的にはありがたいが、何か悪いな。
「明日、明後日は休みだと思うぞ」
俺がそう言うと、休みを決める担当のナタリアがうんうんと頷いた。
「そうですか。じゃあ、明後日は休みにします」
「休め、休め。俺はずっと働きっぱなしだったが、最近は休んでいるぞ。意外と楽しい」
「休みが楽しいのは皆、知ってますよ」
あ、そうなんだ。
「また奢ってやるぞー。最近は儲かっているんだ」
「ありがとうございます。その際はぜひ…………ところで、一つ聞いてもいいかしら?」
パメラが仕事口調ではなく、素で聞いてくる。
「なんだ?」
「あれを見てくれる?」
パメラがそう言って、受付の端を指差した。
そこには布が敷かれた底の浅いカゴが置いてあり、カゴの中には窓から入ってくる日差しを浴びながらすやすやと眠る小さな子猫がいた。
まあ、ギルドに入った時から気付いてはいたが……
「わあ、かわいい!」
リリーが寝ている子猫を見て、興奮する。
「猫だな。飼ってんのか?」
良かったな、タマちゃん。
「飼ってるって言うのかしら? 一昨日の夕方に現れたんだけど、ギルドから離れようとしなかったわ。そして、私達が仕事を終えて寮に帰ろうとすると、ついてきたわね」
「気に入られたんじゃないか?」
「いいなー……」
リリーが羨ましそうにつぶやいた。
「普通に寮まで入ってきたわ。出ていこうとしないし、寮で飼うことになったわね」
ん?
飼ってんじゃん。
「それは良かったな。かわいいし、仕事の疲れを癒してくれるぞ」
「そうね。本当にかわいいわ。問題は朝、部屋で留守番させていたのにいつの間にかついてきて、しかも、離れようとしないこと。窓も扉も鍵を閉めていたのにね……帰ろうともしないし、結局、そこにベッドを作ってあげたわ」
パメラが一向に起きようとしないタマちゃんを指差す。
「猫はどこでも侵入できるし、脱出できるだろ」
「そうかしら? あと、極めつけなことがあってね」
「なんだ?」
「私達でエレオノーレって名前を付けたの」
すげー名前。
「長いなー」
「そうね。猫ちゃんも気に入らなかったらしく、ものすごく首を振って嫌がったわ」
「人間みたいだね」
リリーが無邪気な反応を示した。
「本当にね。しかも、床に爪で【タマ】って書いて、前足でバンバン叩きながらにゃーにゃーと主張してくるのよ」
名前を付けたのは失敗だったな。
「エレオノーレー」
俺は寝ているタマちゃんに声をかける。
すると、タマちゃんは目を閉じたまま、プイッと向こうを向いた。
「タマちゃーん」
「にゃー」
AIちゃんがタマちゃんの名を呼ぶと、一鳴きし、こちらを向く。
そして、また丸まって寝だした。
「タマちゃんって呼んでやれよ」
あれはタマちゃんだ(命名:AIちゃん)。
「ええ、そうね。結局、皆、そう呼ぶことにしたわ。何しろ、別の名前で呼ぶとこれでもかっていうくらいに無視するからね」
「かわいがってやれ」
まだ子猫じゃないか。
「いや、あれ、式神でしょ。狛ちゃんと同じようにユウマさんが出したやつでしょ。だって、タマちゃんが現れてからカラスちゃんが上空に現れなくなったし」
カラスちゃんはクランの寮の屋上に巣を作り始めたな。
その下には冷酷な蛇がいるけど。
「何のことだ? あれは野良猫だろ」
どう見てもその辺にいる三毛猫だ。
この世界に三毛猫がいるかは知らんが。
「そうですね。野良猫ですよ。ねー、タマちゃん」
「にゃー」
「ほらー」
AIちゃんが頷く。
「…………まあ、かわいいからいいけど」
そうそう。
もっとも、そいつの正体は人食い猫又だけどな。
パメラに危機が訪れると、体長1メートルを超える化け猫になり、敵をペロリ。
『アニーさんもですけど、パメラさんはマスターが式神と視界をリンクできることを知ったらどうするんですかね?』
『いや、しねーよ。俺の名と如月の名が汚れるわ。でも、それは言うなよ……』
めっちゃ怒ると思う。
『毒虫を毎晩食べさせている件といい、墓場まで持っていくことが多いですね』
『しっ! 黙ってなさい!』
本当に墓場まで持っていくんだから。
「かわいがってくれ。それでパメラ、今日も言っていた通り、東の遺跡に行くわ。多分、今日で地図も描き終えると思う」
「ハァ……わかりました。オークの調査の方もお願いしますね」
パメラは諦めたようにため息をついたが、すぐに笑顔に戻った。
「わかった。じゃあ、行ってくるわ」
「はい。お気をつけて」
俺達は笑顔のパメラに見送られると、ギルドを出て、東区に向かった。
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