第078話 揉め事終了……


「いやー、レイラさん、怖かったですね」


 バイロンが帰ると、パメラがハンカチで額を拭く。


「あれがあいつの素だ。自分以外は無能としか思っていない」

「前に聞きましたが、本当ですね。あれは人を人と見てない目ですよ」


 式神の蛇もパメラ達をエサとしか見ていない感じだったな。


「実際、そうなんだろうよ。まあ、今は平穏を望んでいるようだからほっとけ」

「そうですね。あまり関わらないようにして、そっとしておくのが一番な気がします」


 文字通り、藪蛇だしな。


「あいつのことは置いておいて、ひとまずはこれでクラン同士のいざこざはなくなったと思っていいな?」

「そうですね。サイラスさん達が逆ギレしそうな気もしますが、バイロンさんが責任を持って対処するでしょう。被害届は取り消しでいいですね?」

「ああ。それでいい」


 次に来たら殺すだけだ。

 あいつが次に何かをしようと思った時に何をするかは安易に想像ができる。

 まず、俺のところには来ない。

 やるならウチの女共にだろう。


 もうあいつらの魔力は覚えたし、近づいてきたら適当に対処するしかない。


「次はいつ仕事をしますか?」

「それだけど、明日も休みだ。アニーが薬草を加工したいんだってさ」

「あー、アニーさんは自分で加工して売りますもんね。ウチ的にはこっちに卸してほしいんですけど、自分で加工した方が高値が付くので無理でしょうね」


 だろうな。

 誰だって、高い方にする。


「そういうわけで明後日に東の遺跡に行こうっていうことになってる。多分、昨日と同じように朝に行くわ」

「わかりました。では、お待ちしております」


 パメラがそう言って立ち上がると、ニコリと笑って帰っていった。


「AIちゃん、外は?」

「バイロンさんと一緒に引き上げたみたいです」


 帰ったか……


「一応、パメラにカラスちゃんをつけとけ」

「はい…………あのー、パメラさんがすごい見てますけど……」


 AIちゃんにそう言われたのでカラスちゃんの視界とリンクすると、パメラがジト目で上空を見ており、目が合った。


「カラスちゃん、隠れろ」


 そう言うと、カラスちゃんが飛び立ち、どこかに行く。

 だが、すぐに引き返し、とある建物の屋上にとまり、パメラを見下ろした。

 すると、またもや上空を見上げたジト目のパメラと目が合う。


「マスター、素直に送っていった方が良かった気がします……」


 だな……

 カラスちゃんはこの世界にいない鳥だからちょっと目立ちすぎるわ。


「素知らぬ顔で見張っとけ。バイロン達が他所の区とはいえ、ギルド職員、しかも、区長の娘をどうこうするとは思えんが、念のためだ」

「わかりました……新しい式神でも作ります?」

「猫の式神を作って、野良猫にするか……」


 パメラの周りをうろつかせておけばいいだろ。


「良いと思います。かわいいのを作りましょう」


 俺とAIちゃんは部屋に戻ると、猫の式神を作り始める。

 昼になると、昼食を皆で食べ、午後からもどういう猫にするかをAIちゃんと議論を重ねた。

 そして、夕方になってようやく完成した猫の式神である三毛猫のタマちゃんを抱いて部屋を出ると、玄関まで行く。


 俺とAIちゃんが玄関を開けると、目の前には紙袋に入った食材を抱いたアニーとナタリアがいた。


「ん? おかえり。買い物か?」

「うん、そうだよ。夕食の食材の買い出し。今から作るからちょっと待っててね」


 ナタリアが笑顔で答える。


「わかった」

「ねえ、その子猫は何?」


 アニーが俺の腕の中にいるタマちゃんを見ながら聞いてきた。


「野良猫。今から逃がすところ」


 そう言って、タマちゃんを地面に放す。

 だが、タマちゃんは俺を見上げるだけで動こうとしない。


「ほら、野良猫。あっちだぞ」


 ギルドの方を指差す。


「にゃー」


 タマちゃんは一鳴きすると、走ってギルドの方に向かっていった。

 そんなタマちゃんをナタリアとアニーがじーっと見る。


「野良猫……?」

「ギルドの方に行ったわね……」


 勘ぐるんじゃない。


「紛れ込んだんだよ。きっと良い人に拾われるだろう」


 金髪の美人とか。


「ですね。さて、マスター、夕食を待ちましょう」

「そうだな。ほら、お前らもいつまでもそこにいないで入れよ」


 2人は顔を見合わせると、クランの寮に入り、階段を昇っていく。

 俺とAIちゃんは部屋に戻ると、夕食ができるのを待つことにした。

 そして、しばらくすると、ナタリアが呼びに来たので部屋を出て、交流スペースに向かう。


 交流スペースにはすでにアリスとリリーもおり、この日の夕食も皆で食べ始めた。


「【ハッシュ】との話はついたの?」


 夕食を食べ始めると、アニーが聞いてくる。


「ついたぞ。サイラス達は接近禁止。その代わりに被害届は取り消しだな」

「ふーん……随分と緩く感じるけど、脅したの?」

「なんでそう思う?」

「午前中、上で作業してたけど、とんでもない魔力を感じたわよ」


 レイラの霊力か。


「あ、私も感じた」


 ナタリアも感じ取ったらしい。

 まあ、かなりの霊力だったからな


「…………私も」


 アリスもらしい。


「私も感じた。ちょうどトイレにいて良かったよ」


 良かったな……


「あれはレイラだ。バイロンが舐めたことを言っていたから脅してた」

「へー……あの人がそんなことをするなんて珍しいわね」


 ホント、何もしていないんだな……

 クランリーダーのくせに。


「腑抜けてたからちゃんとしろって言ったんだよ。とにかく、もう大丈夫だと思う」

「そうかしら? まあ、あんたがそう言うならそうかもね」


 そうそう。


「お前らに近づくことはないから安心しろ」


 その前に俺が対処する。


「じゃあ、明日は休みで明後日からまた遺跡ね。あんたらはつまんないでしょうけど……」


 アニーが俺とアリスを見た。


「…………逆に聞きたいけど、アニー達は草むしりが楽しいの?」


 アリスが不思議そうな顔で聞く。


「楽しいわよ」

「うん。楽しい」

「綺麗に採れたらすごい興奮するよねー」


 3人の言葉を聞いたアリスが無言で俺を見てきた。


 うん、気持ちは一緒だ。

 3人が何を言っているのかさっぱりわからない。

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