第076話 蛇女


 パメラとバイロンは俺のもとにやってくる。

 その間、魔力探知をすると、2人が曲がってきた角の先に微小ながら複数の魔力を持つ人を発見した。

 おそらく、バイロンの仲間だろう。


「ユウマさん、何をしておられるんです?」


 2人がこちらにやってくると、パメラが聞いてくる。


「客を出迎えに来たんだ。10人でいいか?」


 パメラ、バイロン、後は向こうにいる8人。


「何のことだ?」


 バイロンがしらばっくれるが、10人と言った瞬間に不機嫌そうな顔をしていたので当たりだろう。


「客じゃないならいい。それでこいつは誰だ?」


 バイロンを指差しながら聞いてみる。


「【ハッシュ】のクランリーダーであるAランク冒険者のバイロンさんです」

「そうか。例の件か?」

「ええ。【風の翼】のクランリーダーに話があるそうです。レイラさんはおられますか?」

「ああ。まあ、入れ」


 俺は玄関の扉を開け、2人を招き入れた。


「あれ? レイラさんがいませんね? まだお茶を淹れているんでしょうか?」


 クランの寮に入ると、AIちゃんがキョロキョロとエントランスを見渡す。

 俺も一緒に見渡してみるが、レイラの姿はなかった。


「そういえば、あいつってお茶を淹れられるのか?」

「見てきます」


 AIちゃんが小走りで階段の方に向かう。


「いやー、悪いな。ウチのリーダーはどんくさいんだ。こっちに来てくれ」


 2人を端にある交流スペースまで連れてくると、ソファーに座らせた。


「すぐに飲み物を持ってくるからちょっと待っててくれ」

「お前がユウマで合ってるか?」


 バイロンが確認してくる。


「そういえば、自己紹介をしてなかったな。俺は先日からこのクランで世話になっているCランクのユウマだ。よろしく」

「ああ……」


 バイロンがゆっくりと頷いた。

 すると、パイロンの目線が左を向いたので見てみると、AIちゃんとレイラがお盆にコップを乗せてやってきた。

 そして、2人はコップをテーブルに置き、俺の両隣に腰かける。


 目の前のテーブルには5つのコップが並んでいるが、パメラ、レイラ、AIちゃんの目の前にあるコップにはお茶が入っているが、俺とバイロンの前にある液体は無色透明だった。


 バイロンがそれぞれのコップをじーっと見比べる。


「悪いな。こいつが男は水でいいって言うもんだから」


 レイラが俺を指差した。


「言ってねーよ。パメラはお茶、こいつは水って言ったんだ」

「つまりそういうことだろう」


 もういいや……

 水だって美味しいし。

 …………ほら、冷たい。


「急に訪ねて悪いな」


 バイロンが冷たい水を一口飲むと、軽く頭を下げた。


「用件はわかっているし、来ると思っていた。サイラスのことだな」

「ああ。そちらとのトラブルのことだ」

「ふむ。パメラは仲介役でいいのか?」


 レイラがパメラに確認する。


「はい。御二人のやりとりの証人になります」


 ギルドはそういう役目もやっているんだろう。

 クラン同士だけで話し合いをしても後で言った、言わないの争いになるからな。


「では、そちらの言い分を聞こうか」


 レイラが再び、バイロンを見る。


「ああ。まずだが、そちらがウチのサイラス達に襲われたということで西区のギルドに訴えた。これを西区のギルドが兵士と南区のギルドに伝えた。そしてもちろん、俺の耳にも入ったため、サイラス達を聴取した」

「だろうな。それでサイラスは何て?」

「絡んだことは絡んだが、襲った覚えはないそうだ。むしろ、そちらのユウマに過剰に反撃されたと訴えている」


 そう言うと思った。

 情けねー。


「なるほどな。ウチの者の訴えと異なっている」

「ああ。だからその話し合いに来たわけだ」

「お前はどう思っているんだ?」


 レイラがバイロンの考えというか、一日考えたであろう反論を聞く。


「もちろん、サイラスの言葉を信じる。だが、サイラスがそちらの者達に昔から絡んでいるのも知っているし、この前の南の森で騒動があったことも知っている。自分のクランの者だし、庇いたい気持ちはあるが、あれが大人しく真面目な人間とは思っていない。だから多少なりともちょっかいはかけたのだろうとは思っている」

「でも、襲ったとは思っていないと?」

「そうなる。そこまでのことはしないだろう。むしろ、一昨日、南の森でそちらの従魔に襲われたとパットとリックが訴えている」


 言い方にはむしろ、こちらが悪いって感じだな。

 謝罪もない。

 こりゃ、こっちを悪くして無罪を主張しているわ。

 こっちは訴えないからそっちも訴えを取り下げろって感じだな。


「なるほど。どう思う?」


 レイラが俺を見てきた。


「どうもこうもこっちは事実をお前やギルドに伝えたし、そこに嘘はない。二度も説明する気はねーよ」

「ふむ……パメラは?」


 レイラが今度はパメラに確認する。


「ギルドとしてはお互いの意見を確認するだけです。このまま平行線の場合は兵士の調査団が調べるでしょう」


 表向きはギルドはあくまでも中立か。

 まあ、南区のギルドは【ハッシュ】を支持するし、西区のギルドは俺らを支持するだろう。

 つまり完全に五分五分だな。


「レイラ、正直なことを言おう。俺としてはこんな小事に時間を取られたくない。冒険者同士のいざこざなんてしょっちゅうだし、こんなのは水掛け論だ。お互いに悪かったということで流したい」


 完全に舐められてますわ。

 いつもはここでレイラが引き下がってたんだろうなー。


「……どうしたい?」


 レイラが俺に確認してくる。


「お前が決めろ。お前がリーダーだ。俺はそれに従う」

「いいのか?」

「別に構わん。舐められるのはお前だ。それにお前が引こうが引くまいが結果は変わらん」

「ん? どういうことだ?」


 この腑抜けはマジでどうした?


「これで水に流したとしよう。そうなるとサイラス達はまた俺達のもとに来るぞ。今度は人数なりを増やしてな。俺は仲間を守るためにそいつらを一人残らず殺す。すると、こいつらは仲間を殺され、逆上し、争いになる。そして、こいつらはこの世からおさらばするわけだ。俺は優しいし、寛容だが、敵には容赦せんからな」

「そうか…………ハァ……何故、皆、こう馬鹿なんだろうか? 何故、こんなにも無能しかいないのだろうか」


 レイラが頭を抱えて俯いた。


「レ、レイラさん……?」


 パメラが雰囲気が変わったレイラに恐る恐る声をかける。


「皆、無能だ。私の仲間にくだらない絡みをしてくるお前達も、中立と謳って日和るお前らも、絡まれたのにさっさと処分してこないお前も……みーんな、無能だ……カス共が」


 レイラが顔を上げる。

 すると、レイラの瞳が赤く染まっており、レイラから怖ろしいほどの霊力が溢れ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る