第075話 この人、ストーカーかな……


 レイラと話をし、明日、南区にある【ハッシュ】に行って話し合いをすることに決めると、レイラは自室に戻っていった。

 その後、ナタリア達がご飯を作って持ってきてくれたので一緒に食べ、就寝した。


 そして、翌日。

 この日は【ハッシュ】のリーダーと話に行く予定の日だが、行くのは午後からということにしていたので遅くに起きた。

 俺はAIちゃんと共に部屋でゴロゴロしながら待つ。


「あのー……マスター、ちょっといいですか?」


 本を読んでいたAIちゃんが顔を上げた。


「何だよ?」

「今朝から見張りのためにカラスちゃんを町中に飛ばしているんですけど、西区のギルド近くでマスターの奥様が知らない男と歩いているという報告が……」


 奥様って誰だよ……


「意味わからん」

「えーっと、リンクしてみますので少々、お待ちを…………あー、パメラさんですね」


 パメラは俺の奥様だったらしい。


「なんでパメラが奥様なんだよ」

「カラスちゃんはそういう認識をしているようです」


 鳥頭め。


「それで知らない男っていうのは?」

「うーん、私も知らない人ですね……多分、雰囲気的に冒険者だとは思います。剣を持っていますし」

「いや、仕事だろ」


 ギルドの受付嬢なんだからそういうこともある。

 ましてや、今の時間はパメラも働いているし。


「そうかもしれませんね……でも、気になるのは歩いている方向がウチなんですよ」


 ここ?

 パメラとその冒険者が?


「向こうから来たか……」

「多分、そうでしょうね。昨日、パメラさんが来るって言ってましたし、そういうことでしょう」


 まあ、行く手間が省けたと思うかね。


「1人か?」

「パメラさんと歩いているのは1人ですね。ただし、後ろには不自然な人間が数人います」


 わかりやすい奴ら。


「AIちゃん、急いでレイラを呼んでこい。それと女共に外に出るなとも伝えろ」

「わかりましたー」


 AIちゃんが立ち上がり、急いで部屋を出ていく。

 そして、俺も部屋を出ると、エントランスの交流スペースに向かった。


「狛ちゃん、狛ちゃん……」


 交流スペースにある定位置となっているソファーで寝ている式神とは思えない狛ちゃんを揺り起こす。

 すると、狛ちゃんの目が開き、俺の顔を覗き込んできた。


「3階に行って、女共に遊んでもらってこい。ないと思うが、誰かが襲ってきたら殺せ」


 3階だし、まずないが、一応、警護しておこう。


 狛ちゃんは素直に頷くと、ソファーから降り、階段に向かって走っていく。

 そして、そんな狛ちゃんと入れ替わるようにレイラが降りてきた。


「ウチはいつからペットを飼うようになったのやら……」


 レイラが苦笑しながらそう言い、こちらにやってくる。


「女共が気に入ってんだよ。アニーなんかぞっこんだ」


 あいつはよく骨を投げてる。


「まあ、別にいいけどな。それにしてもなんだあの式神は? お前、女欲しさにあんなあざとい式神を作ったのか?」


 ひでー言い草。


「覚えてないけど、俺の狛犬の式神は可愛くないって誰かに言われて変えたんだと。多分、嫁か娘だろ」

「ふーん、仲が良さそうでいいな」


 お前と比べたらどこの家庭も仲良いわ。


「そんなことより、多分、客が来るぞ」

「子ギツネに聞いた。バイロンだろう」


 バイロン?


「誰?」

「【ハッシュ】のクランリーダーだよ」

「ふーん、向こうから来たな?」

「私はそう予想していた。だから昼から行こうって言ったんだ。南区に行くのも面倒だし、向こうから出向いてくれないかなーっと」


 言えよ……

 俺、下手したら寝てたぞ。


「パメラとこちらに向かっている。あと、後ろには不自然な数人だとさ」

「どうでもいい。数人だろうが100人だろうが変わらん」


 まあ、そうなんだけど、こういう言い方を身内にもしていたんだろうなーと予想できる。


「パメラを迎えにいってくるからお前はそこで待ってろ」


 そう言いながら交流スペースを指差す。


「ウチにも応接室があるぞ」

「事前連絡もなく来るような奴にそこまで礼を尽くすことはない。せいぜい水でも出しとけ」

「水かー……取ってくるか」

「あ、パメラにはお茶を出せよ」


 あいつはギルド職員で仲介役だろう。


「……そういうところが女好きって言われる原因だろ」


 レイラがそう言って、階段の方に歩いていった。

 そして、代わりにAIちゃんがやってくる。


「どうしました、マスター?」


 トコトコと歩いてきたAIちゃんが首を傾げた。


「俺ってさー、12人も嫁さんがいたんだろ?」

「ええ。おられましたね」


 AIちゃんが力強く頷く。


「周りの反応はどうだったんだ?」

「マスターの想像通りだと思われます。しいて言うなら皇后陛下から苦言というか忠告を受けたレベルですね」


 想像以上だったよ。


「さて、パメラを迎えにいくか」

「まだあるんですけど……」


 しいてじゃないじゃん。


「もういい。ほら、行くぞ」


 AIちゃんの背中を押し、クランの寮を出る。

 そして、カラスちゃんと視界をリンクさせると、パメラとバイロンとやらがすぐ近くまで来ていることがわかった。


 そのまま待っていると、パメラと共に長身で長髪の男が角から曲がってきて、姿を現す。

 そんな2人は角を曲がったところで玄関先で待っている俺を見て立ち止まった。

 バイロンは少し驚いた顔をしており、パメラは上空を見上げ、カラスちゃんを発見すると、呆れた顔をして俺を見てくる。


「この人、一歩間違えればストーカーだなって思っている顔ですよ」

「いや、あれはカラスちゃんって便利だなっていう顔だよ」


 きっとそう。

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