第069話 スケルトン


 遺跡はセリアの町同様に防壁に囲まれていた。

 俺達はアニーを先頭に門に近づく。

 すると、門の近くには数人の冒険者が何かの話をしていた。


「ん? よう」


 一人の男が俺達に気付くと、アニーに声をかける。


「こんにちは」


 アニーもまた軽く手を上げて応えた。

 そして、そのまま立ち止まることなく門をくぐり、中に入っていく。


「知り合いか?」


 遺跡の中に入ると、アニーが立ち止まったので聞いてみる。


「まあ、顔見知りって感じ。東区の冒険者だし、普段は挨拶をするような関係ではないわ」

「そうなのか? 西区の知り合いかと思った」

「さっきも言ったけど、ここはゾンビやスケルトンの人型の魔物が出る。だから積極的に声掛けをするようになったのよ」


 なるほど。

 魔物はしゃべらないからか。


「合理的だな」

「そうね。さすがにこんなところでナンパはないから声をかけられても安心……さて、どうするの? あんたがリーダーでいいわ」

「お前がレイラの次に偉いだろ」


 確かそうなっているはずだ。


「それとパーティーでの行動は違うわ。私、ほとんどソロだし、地図作成や例のオークの調査依頼もあるでしょ。あんたが決めなさい」


 そうするか。


「回ってみるか……何か良い道筋とかないのか?」

「だったらとりあえずは中央の噴水跡に行ってみましょうか……こっちよ」


 アニーが歩き出したのでついていく。

 遺跡を歩いていくと、周囲には朽ちた家や倒壊した家が多くある。

 だが、道自体はそういう瓦礫が端に寄せられているので歩くのに苦労することはない。

 おそらく、冒険者達がどけたのだろう。


「マスター、敵性反応です」


 地図を描いているAIちゃんが顔を上げすにそう言うので魔力感知をしてみる。


「んー? 微妙だなー……こっちか……あ」


 石造りの家の屋根にいる弓を構えているスケルトンと目が合った。

 目はないけど。


 スケルトンは弓を引くと、矢を放った。

 俺はそんな矢に指を向け、狙いを定めていたのだが、矢は俺に届く前に失速し、地面に落ちる。


「すげー。これが矢避けかー」


 絶対に俺に当たる軌道だったのに。


「私がやる」


 俺が感心していると、リリーがそう言い、弓を瞬時に引き、早打ちで矢を放った。

 すると、リリーの光の矢がスケルトンの右足に当たり、砕いた。

 片足を砕かれたスケルトンはバランスを崩すと、屋根から落ち、地面に頭から落ちる。


 スケルトンは受け身も取らずに頭から落ちたため、バラバラに砕け、動かなくなった。


「弱いな……」

「魔物ランク的にはFよ。オークの方が上。でも、脅威なのはこの矢よ。矢避けがないと本当に危ないの」


 それは今のでよくわかった。

 俺はスケルトンなんか魔力感知で簡単に見つかると思っていたのだが、スケルトンは魔力が小さすぎてAIちゃんに言われるまで気付けなかった。

 多分、魔力的にはゴブリンよりも下だ。

 非常にわかりにくい。


「ちなみにだけど、あれの成果は?」

「なし。弓なんかいらないし、矢じりも金属が少なすぎるから売り物にならない。はっきり言うと、弓を持っているスケルトンは脅威度は高いくせに成果はゼロだからハズレもいいとこ」


 やっぱりかー……

 パメラに話を聞いた時に剣や槍はともかく、弓って金になるか疑問だった。


「魔石は?」

「骨の中に小さいのがあるんだけど、取り出すのが非常に難しい。しかも、小さいから安い。スケルトンに魔石は期待しちゃダメ」


 本当に大ハズレだな。


「ゾンビか剣を持っているスケルトンが当たりか」

「剣が当たりね。安くても金貨1枚にはなる」


 それは良い儲けだわ。


「よし、次に行こう」

「ええ。こっちよ」


 俺達は倒したスケルトンを諦め、さらに奥に向かっていく。

 道中で2つのパーティーとすれ違ったが、やはり挨拶をしてきたので挨拶を返した。

 アニーが……


「皆、お前に話しかけるな……」

「まあ、お互いに知ってるからね。名前は知らないけど、顔は見たことがあるもん」


 いや、お前に声をかけるのはそのせいではなく、お前の服装のせいだ。

 だって、声をかけてきた奴は全員、男だもん。


「俺、お前がソロなのが心配になってきたわ」

「私も」

「…………うん」

「アニー、大丈夫?」


 3人娘も俺と同じことを思っていたらしい。


「大丈夫よ。私、Bランクよ? それにそんなに外に出ないし」


 Bランクでも魔法以外はその辺の町娘と一緒だろ?

 後でレイラに話しておくか……


「心配だわ…………ん? スケルトンだ」


 俺の魔力感知はわずかな魔力を捉えた。


「どこ?」

「そこを右に曲がったところに2体いるな」


 先の十字路を指差しながら言う。


「ふーん、どうする?」

「俺がやる。武器を持っていようが雑魚だろ」


 俺はアニーより前に出ると、そのまま歩いていった。

 そして、十字路を右に曲がると、剣を持った2体のスケルトンがおり、こちらを振り向く。


「おっ! 剣だ!」


 そう言った瞬間、2体のスケルトンが剣を振り被り、駆けてきた。


「遅いなー……かまいたち!」


 人差し指をスケルトンに向けると、見えない刃が1体のスケルトンの足を斬った。

 足を切られたスケルトンは前のめりで崩れ落ち、そのままバラバラとなる。


 もう1体のスケルトンは俺の近くまでやってくると、剣を振り下ろしてきた。

 だが、スケルトンが剣を振り下ろす前に上段蹴りでスケルトンの頭を蹴ると、スケルトンの頭が飛んでいく。

 飛んでいった頭は家の壁に当たり、砕けた。

 そして、頭を失くしたスケルトンはその場で崩れ落ちる。


「おー! あんたって本当に強いわね! 魔法も一流、体術も一流じゃないの!」


 あまり褒めてくれることのないアニーが称賛してきた。


「本当にすごいよねー」

「…………ウチのリーダー」

「やっぱり男の人がいると安心感が違うね。私はまずあそこまで足が届かないもん」


 3人娘も褒めてくる。


「AIちゃん、こいつらを仲間にして良かったわ」

「でしょう? 私の目に狂いはありません。やはりプライドが高い女性より素直な女性が一番ですよ。マスターの好みですね」


 そうなんだ……

 自分の女の好みを初めて知ったわ。

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