第070話 ゾンビ嫌い
俺達はその後も何体かのスケルトンを倒しつつ、奥に進んでいくと、広場に出た。
広場の中央にはセリアの町にもある噴水があった。
もちろん、水はもう出ていない。
俺達は噴水まで行くと、立ち止まる。
「ここが町の中央よ。ここを拠点として探索するのがセオリーね」
この広場は開けているし、敵が近づいてきてもすぐにわかる。
確かにここを拠点とする意味も頷ける。
「AIちゃん、地図はどうだ?」
「現在、五分の一って感じですね。今日中には無理かもしれません」
「今日中じゃなくてもいいぞ。帰りのこともあるし、早めに帰った方が良いだろ」
体力のなさそうなメンツだしな。
「わかりました。ちなみに、今のところはオークの影はありません。確認したのは冒険者、スケルトン、ゾンビです」
「わかった。引き続き頼むわ」
「了解です」
頑張っているのはわかるが、顔を上げてほしいなー……
おじいちゃん、悲しい。
「さて、どうするか……ここは4つの区に分かれているってことはないんだろ?」
「さすがにね。でも、私達はだいたい4つのエリアに区分しているわ。私達が来た方向が西ね。西と南のエリアは特に何もないけど、ここから北に行けば魔物が多いエリア。東は薬草なんかの素材が多いエリアね。おすすめは東」
東か……
「じゃあ、東に行ってみるか」
「そうしましょう。こっちね」
アニーが東に向かって歩いていったので俺達も続く。
そのまま歩いていくと、今まで感じたことのない魔力を察知した。
「んー?」
気になったので魔力を感じる廃屋の中を覗いてみる。
すると、後ろ向きで立っている男が見えた。
「こんにちは」
声をかけると、男がゆっくりと振り向く。
男は顔の皮がなく、ただれており、どう見ても生きているようには見えなかった。
「ゾンビ?」
「…………ゾンビ」
ついてきていたアリスに確認したが、ゾンビらしい。
ゾンビはゆっくりと俺達のもとに歩いてくる。
「遅いな」
「…………ゾンビは走らない。でも、その分、生命力がすさまじく、首を落としても死なない」
「すでに死んでるもんな。しかし、腐臭はしないな」
「…………本当の死体じゃなくて魔物だからね。魔法を撃ってもいい?」
アリスがゾンビに杖を向けながら聞いてきた。
「撃ってみ?」
「…………うん。炎よ」
アリスは相変わらずの小さな声で魔法を放つと、杖から出た炎がゾンビに向かっていく。
動きの遅いゾンビはそれを躱すことができずに一気に燃え上がるが、足を止めることはない。
しかし、そのまま数歩歩いたが、徐々に動きが遅くなると、前のめりに倒れた。
「死んだか?」
「…………もうちょっと。まだ微妙に動いているでしょ」
確かにまだ動いており、腕を使ってこちらに来ようとしている。
「本当に生命力はすごいな」
「…………でしょ。あれで近づかれて噛まれたら死んじゃう。だから距離を取ろうとして慌てて逃げるんだけど、そうすると、他のスケルトンやゾンビに襲われてさようなら。これがここでの魔法使いが死ぬパターンその2」
ここって、魔法使いは向いていない場所だな。
金属鎧でガチガチ固めた戦士が活躍しそうだ。
そりゃ、ウチのクランの人間は来ないわけだわな。
「終わった?」
外にいるナタリアが聞いてくる。
「もう大丈夫だ」
アリスの炎は消えているが、ゾンビはピクリとも動いていない。
「じゃあ、魔石を採取するね」
ナタリアはそう言って家に入ってくると、ゾンビのもとまで行き、腰を下ろした。
そして、ナイフを取り出し、解体しだす。
なお、その光景を見たアリスが家から出ていってしまった。
「お前、よくゾンビを解体できるな」
「たいしたことじゃなくない?」
「アリスは逃げたし、アニーとリリーは近づいても来ないぞ」
すげー嫌がっている。
「私は気にならないなー」
「お前、肝が据わっているのか、据っていないのかどっちだよ」
すぐに泣き叫ぶくせに。
「いや、私、弱いもん。死んだ魔物ならどうとでもできるけど、生きている魔物は怖いよ」
そんなものかねー?
「ふーん……」
まあ、こういうのは男より女の方が耐性があるのは確かだ。
「よし、魔石が取れた! はい、これ」
ナタリアが魔石を渡してきたので受け取る。
「終わった? 行くわよ」
アニーが覗き込み、急かしてきたので俺とナタリアは廃屋を出ると、再び、進みだした。
そのまま進んでいると、スケルトンやゾンビと遭遇するが、苦も無く倒していく。
ただ、ゾンビを見かけると、ナタリア以外は明らかに嫌そうな顔をしていた。
俺達が東に向かっていくと、廃屋となっている家の質が変わり、今までの狭い家から庭付きの大きな家が立ち並ぶような区画にやってきた。
「ここはお金持ちが住んでいたエリアね」
区長の家みたいなのが多く並んでいるし、そうだろうな。
「金持ちゾンビが出てくるのか?」
「亡霊じゃないっての。まずはここね」
アニーがとある屋敷を指差す。
屋敷は塀に囲まれており、鉄格子の門があるが、すでに朽ちており、地面に倒れていた。
俺達がそんな屋敷の敷地に入ると、屋敷の方には行かず、庭の端にある大きな木の方に向かう。
「ほら、見て。薬草がこんなにある」
アニーがそう言って、木の周りを指差すが、雑草にしか見えない。
「これが薬草か?」
「そうよ。これが毒消し草。あんたも南の森で見たでしょ。それでこれが打ち身に聞く薬草、こっちが火傷に効く薬草ね」
アニーが地面の草を指差し、教えてくれる。
「そうか……」
草だな。
「クライヴ以上に説明しがいがないわね……あいつはまだ料理に使えるかどうかくらいは聞いてきたのに」
「すまん。まったく見分けがつかない」
「お貴族様はそうでしょうね」
いや、俺だって子供の頃はよく虫取りで山とかに行っていた。
でも、草花はまったく興味がなかったのだ。
「なあ、この世界って回復魔法があるんだろ? 薬草なんかいらなくないか?」
「皆が皆、回復魔法を使えるわけじゃないし、魔法使いに頼むと高いのよ。まだ薬草を加工したポーションの方が安いわ。それに緊急の時に近くに魔法使いがいるとは限らないしね」
俺も回復魔法は使えないからなー。
ナタリアがいるから別にいいけど。
「それで薬草採取の仕事が多いわけか」
「そういうこと。私は自分でポーションを作れるし、ウハウハよ。そういうわけで採取をするから見張りをよろしく」
「よろしくね」
「よろしくー」
アニーが腰を下ろすと、ナタリア、リリーも採取をし始めた。
「…………見張り」
残されたアリスがポツリとつぶやく。
「釣竿はあるか?」
「…………あるけど、湖も川もないよ」
ないね……
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