第068話 遠い……
俺達はギルドを出て、東区に向かうと東門までやってきた。
「アニー、東の遺跡までどうやって行くんだ?」
「歩き」
マジか……
「前に歩いて2時間って言ってなかったか?」
「そうね。そのくらいだと思う」
「馬車は?」
「魔物が多いところに行く馬車は高いのよ」
通常料金なわけないか。
「しゃーない。歩くか」
俺達は門を抜けると、石で舗装された道を歩いていく。
「道がしっかりしているな」
「遺跡は昔の町なのよ。私はセリアの町の出身だから詳しいけど、数百年前までは東の遺跡がセリアの町だったの。でも、当時の長が王都への利便性を考えて今のセリアの町に新しい町を作ってからはどんどんとそっちが発展していって、ついには移転することになったの。それ以来、昔のセリアの町である東の遺跡は放置され、魔物が住みついているの」
「簡単に捨てるんだな……」
もっと先祖代々の家を大事にしろよ。
「簡単に言ったけど、当時は色々あったみたいよ。新しい町っていうのも最初は商人のための宿場町だったらしいけど、やっぱり水源や森が近いこととかの利便性が勝って、どんどんと民が隣の町に引っ越しっちゃったってわけ。この舗装はその時の名残ね」
「骨と腐った死体だっけ? やっぱり当時の町人の亡霊じゃないのか? その旧
セリアの町に未練があるんだろう」
「違うっての。そういう噂があって悪ガキが勝手に遺跡に行くことはあったけど、魔物は人じゃない」
肝試しか度胸試しみたいなものかね?
「お前も行ったのか?」
「行くわけないでしょ。正直、今だって行きたくないわ。スケルトンはともかく、ゾンビなんて気持ち悪いだけよ」
腐った死体だもんな……
俺も嫌だわ。
「お前ら、ゾンビは大丈夫か?」
3人娘に確認する。
「私は全然大丈夫」
「…………遠くで魔法を撃つだけだから」
「遠くで矢を射るだけだから大丈夫!」
アリスとリリーはダメっぽい。
ナタリアはグロ耐性が高いな。
普通にオークの解体もしてたし。
俺達はその後もひたすら歩き、遺跡を目指す。
上空ではカラスちゃんが飛んでおり、AIちゃんはひたすら地図を描いていた。
リリーは楽しそうに歩いており、ナタリアとアリスはいつも通りだ。
アニーは狛ちゃんの背に乗って、楽している。
「疲れたなー……」
「仕方がないよ」
優しいナタリアはそう言いながら回復魔法をかけてくれた。
「…………言っておくけど、本当に辛いのは帰り」
帰りもあるんだよな……
「遺跡の方が稼げそうなのに南の森に行っている理由はこれか?」
「うん。たまにならいいけど、いつもこれは嫌だもん」
「…………無理無理」
「実際、遺跡は不人気よ。疲れるし、敵はそこそこ強いうえにリビングデッドだもの」
クライヴ達が考慮もせずに王都に行ったのはこのせいか。
「お前らって王都に行こうとは思わないわけ?」
「女子は無理」
「…………だね」
え? なんで?
「何かマズいのか?」
「王都は確かに稼げるけど、宿代が高いもん。もちろん良いところに泊まったらさらに高い。男性陣は安宿でも良いだろうけど、女性陣はきつい。何しろ。安宿があるところは治安も悪いしね」
まあ、男は最悪、野宿でもいけるしな。
「王都に行った女性陣はどうしてんだ?」
「多分、お金を出し合って一つの部屋を借りてるんじゃない?」
それはそれで嫌だなー。
「私はそういうのが嫌なの。1人部屋がいいわ」
アニーはそんな気がする。
「お前らは実家があるじゃん」
ナタリアとアリスは王都出身だ。
「帰っても部屋がないよ。多分、弟や妹が使ってる」
「…………一日二日なら歓迎してくれるけど、三日目以降はいつ帰るのって聞いてくる」
そういや貧乏って言ってたな。
下手をすると、援助することになって赤字だ。
「なるほどなー。王都に行く際はその辺を区長に要求してみるか……」
王様の客をみすぼらしい宿屋には泊まらせないだろう。
「マスター、遺跡が見えてきましたよ」
AIちゃんが言うように前方に町らしきものが見えていた。
すると、カラスちゃんが我先に遺跡の方に飛んでいったので視界をリンクする。
「遺跡……というか、廃墟だな」
上空から見下ろしているが、石造りの建物が並んでおり、町だったことは窺える。
だが、朽ちていたり、壊れたりしているのでどう見ても人は住んでいないだろう。
というか、今、武器を持った骸骨がいたような……
「上から見ても雰囲気あるな……」
「あ、ゾンビがいました」
AIちゃんも発見したし、ここには魔物がそこそこいるようだ。
「ユウマ、遺跡での注意点を言っておく」
町を見下ろしていると、アニーが俺の肩をトントンと叩いた。
「なんだ?」
「まず、ここに出てくる魔物は人型でちょっと怖い。でも、だからといって、慌てて攻撃したらダメ。他の冒険者を間違って攻撃してしまうっていう事故が結構あるの」
廃墟とはいえ、町中だし、死角が多いだろう。
そういうことも十分にありえる。
「わかった。そこは留意しよう」
逆を言うと、攻撃されるかもしれないということだ。
「それとスケルトンは武器を持っている。槍や剣はまだしも弓が脅威なの」
「だろうな。お前らに当たったら致命傷だ」
「そういうわけで矢避けの魔法をかけるわ」
矢避け……
「そんなんがあるのか?」
「ええ。これがないと私達魔法使いはここに来れないのよ」
確かになー……
「お前ら、使える?」
ナタリアとアリスに聞く。
「使えないよ」
「…………矢避けは軍が買っていくからなかなか買えないし、高い」
欲しいのは戦争をする軍だわな。
「お前、よく買えたな」
「私はレイラさんにBランクになったお祝いでもらったの」
あいつ、そんなことをしてんの?
絶対に槐の時はしてなかっただろ。
「ふーん……お前は何をもらったんだ?」
同じBランクのアリスに聞いてみる。
「…………この杖をもらった。結構いいやつ」
アリスが自慢げに杖を掲げた。
「へー……」
俺にも何かくれるのかね?
「そういうわけでは矢避けをかけるわ。ただ魔法は防げないから注意ね。パニックになった若いのや経験の浅い魔法使いが撃ってくることがあるから」
「魔法は防げるから大丈夫だ」
「じゃあ、頼んだわ…………はい、終わり」
アニーが杖を掲げると、杖の先が少し光った。
どうやら矢避けの魔法をかけてくれたらしい。
「どうも。じゃあ、行ってみるか」
俺達は準備を終えると、遠くに見える遺跡へと向かった。
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