第066話 もう遅い
区長との話を終えると、屋敷を出て、自宅となっているクランの寮に戻った。
寮に入り、横を見てみると、狛ちゃんが交流スペースのソファーで寝ていたため、他の3人も帰っていることがわかった。
俺はAIちゃんと共に自室に戻ると、ゆっくりと過ごす。
「この暇さも慣れてきたな……何もせず、頭を悩まさない生活っていうのも良いもんだな」
「マスターはずっと働いてましたもんね。このまま適当に仕事をしながらだらだらと過ごしましょうよ」
老後の生活みたいだ。
まあ、俺の老後はもう終わって、人生の2周目に入っているんだけどな。
俺が自室でゆっくりと過ごし、夕方くらいになると、AIちゃんがナタリアの手伝いをしにいくということで部屋を出ていった。
そのまま一人で待っていると、部屋にノックの音が響く。
んー?
夕食にしては早いし、AIちゃんはノックなんてしない。
「誰だー?」
『私、私』
あ、パメラだ。
「どうぞー」
入室の許可を出すと、パメラが部屋に入ってきた。
「毒魚じゃない魚を御馳走してくれるって聞いたんだけど」
「釣ったということで市場で買うらしい」
「あ、そういうこと……」
「夕食はまだだけど、まあ、座れ」
そう言うと、パメラが靴を脱ぎ、部屋に上がる。
そして、俺の対面に腰を下ろした。
「区長に会ってきました?」
「会ってきた。立派な男だったな。あれはあくどいことはしていないだろうし、きっと誠実だろう」
「どうも……」
パメラが微妙な表情を浮かべる。
「いや、すまん。お前の父親とは思わんかった」
「いいんですけどね。私もあえて言いませんでしたし、実際、悪いこともしているでしょうから」
何も言えない……
「まあまあ。それより夕食に誘ったけど大丈夫だったのか?」
「まあ、1人ですしね」
あれ?
「1人なのか? 両親とかは?」
「いや、私はとっくの前にあの家を出て、ギルドの寮で暮らしていますよ。この前、送ってくださったじゃないですか」
そういえば、2人で食事に行った時に遅かったから送り届けたな。
あれ、寮だったのか。
「そうなんだ。親父さんに伝言を頼んだけど、失敗だったわ」
「普通にギルドに来てましたよ。ジェフリーさんと協議をする予定だったんで」
ついでだったわけね。
「色々と話したが、お前に話したことばっかりだったな」
「まあ、確認とユウマさんがどういう人間かの見極めですよ」
どう思われたかね?
「ふーん……」
「そういえば、ちっちゃい大蜘蛛ちゃんを見せてもらったって聞きましたよ。クッキーを食べるのがかわいかったそうです」
「見るか?」
「ごめんなさい。結構です」
女はすぐに虫を嫌うんだよなー。
「可哀想な大蜘蛛ちゃん」
「普通に怖いですよ。でも、大きさを変えられるんですね? AIちゃんも巨人になるんです?」
「なんない。成長することはできるけど」
「大人な女性の方が良くないです?」
やっぱりこいつ、俺のことを好色だと思っているな……
「あれ、母親のアバターだぜ? 絶対に嫌だわ」
さすがに言動が全然違うから幼女の姿には慣れたが、あれが大きくなったら嫌だ。
「AIちゃん、かわいいと思うけどなー」
そら、かわいいよ。
俺とパメラが話をしていると、ガチャッと扉が開き、そのAIちゃんが顔を覗かせる。
「マスター、パメラさん、ご飯ができましたけど、どうします?」
「交流スペースでいいだろ。そこに持ってきて」
「はーい」
AIちゃんが返事をして出ていったので俺とパメラも部屋を出ると、エントランスの交流スペースに向かう。
交流スペースに向かうと、2人でソファーに腰かけたが、誰もいなかった。
「狛ちゃんもいないな」
「そういえば、私が来た時にもいなかったわね」
あの番犬、3階にいやがるな……
多分、アニーのところだろう。
「まあいいわ。すぐに戻ってくるだろうし」
「あなた達のクランって楽しそうね」
「人がいなさすぎるけどな。いまだに半分くらいは会ってないわ」
冬になったら会えるのかねー?
そのまま2人で話しながら待っていると、AIちゃんがナタリアとアリスをつれてやってきた。
そして、遅れてリリーが狛ちゃんを連れたアニーと一緒にやってきたので夕食を食べ始める。
「魚ね……」
アニーが魚を食べながらポツリと言う。
「毒魚じゃないぞ」
「見たらわかるわよ。どうしたの、これ?」
「…………釣った」
アリスが嘘をつく。
「海で獲れるやつじゃないの。買ったんでしょ」
「……………魚を釣ったのは本当」
「毒魚を釣って、この魚は買ったわけね。はいはい」
すぐにバレたようだ。
「ユウマ、区長さんとの話はどうだった?」
ナタリアが聞いてくる。
「ただの説明だな。それと依頼料をもらった」
「いくらだった?」
「金貨100枚」
「おー! すごいね! 少ないような気がするけど、大金だよ」
まあ、大金だ。
これで当分は生活に困ることはない。
「まあな。それとだが、王様から呼び出しがあるだろうって」
「え!? なんで!?」
「ユウマ、さようなら……」
ナタリアが驚き、リリーが合掌した。
「そんなんじゃねーよ。実は俺がこの世界に来た時にオークに馬車が襲われているのに遭遇してな。それを俺というか、大蜘蛛ちゃんが助けたわけだ。それの馬車に乗っていたのがお姫様だったらしい」
「おー! すごい! え? あれを出したの?」
ナタリアが驚いた顔をする。
「一目見て、高貴な人間が乗っている馬車とわかったから関わらないようにするために大蜘蛛ちゃんを出したんだ。それで今回のスタンピードのことも王家に伝わって、招集だ。区長いわく、スタンピードとお姫様を救ったことで褒美をもらえるんだろうってさ」
「へー……だったら良かったね。結構、貰えるんじゃない?」
実はあまり期待していない。
王族っていうのはあまり金を出さないのだ。
代わりに名誉ある品物をくれたりする。
俺も色々もらったし、何代か前の陛下からもらった宝剣はウチの家宝だったりする。
「そうかもな。そういうわけで招集命令が来たら王都に行く。お前らも行くか? 区長が馬車を出してくれるそうだ」
「おー! 行く行く!」
「…………私も行く。王都を案内してあげるよ」
それはありがたい。
「頼むわ。リリーも来るか?」
「うーん、王都には行ったばかりだけど、皆が行くなら行こうかな……」
そういや、リリーは王都に寄ってから戻ってきたんだったな。
でも、ついてくるらしい。
「アニーはどうする? それまでに人が戻ってくるかはわからないが、1人になるぞ」
「その時の気分ね。暇だったら私も行くわ。服とか買いたいし」
エロい服だな。
今も肌色面積が広い服を着ている。
「じゃあ、ついてこい。報酬次第では買ってやろう」
「どうも……文化の違いを感じるなー」
ん?
『服は身内というか、奥さんや娘さんみたいな家族にしか贈りませんよ』
そうなんだ。
まあ、どうでもいいな。
「アニー、それと今日、南の森に行ったが、サイラス一味に絡まれたわ」
「あー、聞いた、聞いた。パットとリックでしょ? サイラスの腰ぎんちゃくの雑魚」
そんな感じはした。
「もう南の森は無理だわ。そういうわけで東の遺跡に行こうと思うんだけど、お前、いつがいい?」
「いつでもいいわよ。毒消し草の調合も終わったしね」
アニーは問題なさそうだ。
「わかった。いつ行くかはナタリアが決めろ」
休みを決めるのはナタリアに任せてある。
「明日でいいんじゃない? 昨日も今日も仕事をしたけど、何もしてないし」
「私は賛成!」
「…………私も」
3人娘は明日でいいらしい。
「じゃあ、明日な。アニー、いいか?」
「いいわよ。先に言っとくけど、私は近接戦闘がてんでダメだからね」
見りゃわかるよ。
ただでさえ貧弱そうな身体なくせに色んな意味で防御力ゼロの服じゃね-か。
「狛ちゃんが守ってくれるから大丈夫」
「頼むわよ」
アニーが狛ちゃんの頭を撫でる。
「パメラ、そういうわけで明日は東の遺跡に行くわ」
「わかったわ。一応、ギルドに来てね。依頼を紹介するから」
「はいよ」
俺達はその後、話しながら夕食を食べ、いい時間になると解散した。
そして、部屋に戻ると、風呂に入り、AIちゃんと共に布団に入る。
「俺、女としか飯を食ってないな」
「いつものことじゃないですか。息子さんを除けば女性しかいませんでしたよ」
あとは嫁と娘なんだからそりゃそうだろ。
……あ、数のことね。
昔は12人の嫁と娘達。
今は5人とAIちゃん。
うーん……クライヴ達、帰ってこないかなー?
このままだと本当に好色男と思われてしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます