第065話 増える面倒事
大蜘蛛ちゃんはクッキーを美味しそうに(?)食べている。
「式神というのは大きさを変えられるのかね?」
大蜘蛛ちゃんを見ていた区長が顔を上げて聞いてきた。
「変えられるぞ。この場に大きいのは出せないから小さいのにしたんだ」
パメラがもう出すなって言ってたし。
「なるほど……これがあの数の魔物を蹂躙した化け蜘蛛か……」
『お前もやってやろうか? って言ってます』
やめーや。
パメラの親父さんだぞ。
「数は多かったが、オークとゴブリンだからな。大蜘蛛ちゃんの相手にはならん」
「そうかね……まあ、わかった。次にだが、魔族のことを聞きたい」
「たいした話はできんぞ? 前にパメラに言ったのが全部だ」
そもそも魔族の知識がないからわからない。
「もちろんパメラから話は聞いているが、もっと具体的な話を聞きたい。君の目から見てどのくらいの強さだった?」
「そこそこ。大蜘蛛ちゃんよりかは上のような気がするが、そこまでじゃない。ただあの黒い炎はすごかったな」
俺には効かないけど。
「うーむ、悪いが、まったく参考にならん」
でしょうね。
俺だって伝えるのが難しいんだよ。
「相手はすぐに逃げたからな……魔力くらいしかわからなかった」
「魔族の目的は聞いてないかね?」
「聞いてないが、町を滅ぼすのが目的だろう。動機は知らないし、なんでスタンピードなのかもわからない。町の中で魔物を呼び出せばいいのに」
「それはこちらも調査中だ。一応、可能性として一番高いのは町中では早急に対処されると思ったのではないか、ということだな」
冒険者や兵士がいるもんな。
逆に森だと誰もいないし、鏡を壊すには魔物の大軍を突破しないといけない。
「ふーん、まあ、それかもな」
「しかし、情報があまりないな……」
「別に情報を得に行ったわけではないからな」
「いや、それはもちろんだ。責めているわけではないし、町を治める区長として礼を言おう。それと少なくて申し訳ないが、これが依頼料となる」
区長はそう言うと、どこからともなく布の袋を取り出し、目の前にテーブルに置く。
「どうも」
袋を取り、中を覗くと大量の金貨が入っていたのでAIちゃんに渡す。
AIちゃんはその金貨の袋を受け取ると、すぐに空間魔法を使って収納した。
『確かに金貨が100枚入っています』
どうやらわかるらしい。
「今は資金がないのもあるんだが、魔族撃退を疑う者もいてね……もっと言えば、君自身を魔族ではないかと疑う者もいる」
俺はあんな不健康そうじゃないぞ。
「どうでもいいな。金もこれで十分だ。それよりも西の森の解禁を早くした方が良いぞ」
「それはわかっている。だが、王都からの調査隊は本腰を入れて調査をするようで時間がかかりそうなんだ」
まあ、気持ちはわからんでもないが、冒険者的には迷惑だなー。
「部分的にでもいいから解禁するように交渉しろよ。南区の冒険者と西区の冒険者がぶつかるぞ。あの民度なら刃傷沙汰もあり得る」
ぶっちゃけ、輩ばっかりだ。
品がない。
「ハァ……検討してみるよ……それとなんだが、もう少ししたら王都から召喚がかかると思う」
王都?
「何の用だ? 王都の人間も俺を魔族と疑っているのか?」
「いや、それはない。君のところのレイラが説明しているしね。君を魔族と疑っていると言ったが、正直に言えば、他地区の連中のやっかみだ」
仲悪いのをどうにかしろよ、ホント……
「そうなると、感謝状でもくれるのか?」
「そうなると思う。というか、呼び出しているのは陛下らしい。それを中央のギルド経由で聞いた」
王様?
仕官は嫌だなー。
「王様はなんで?」
「スタンピードが起きる数日前に大蜘蛛の目撃情報があってね……」
あ、お姫様……
すっかり忘れてたわ。
「それがあったなー……」
「多分、そのことと今回のことでの褒美がもらえると思う。報酬はそちらで期待してくれ」
仕官を強要されたら面倒だなー……
まあ、丁重に断るか。
死んで別世界に来たとはいえ、あれだけよくしてもらった陛下や祖国を裏切ることはできない。
忠義の臣は二君に仕えないのだ。
「先に話を通しておいてくれるか? 俺は前世では王族の末裔で国では五指に入る貴族の当主だった。絶対に他国に仕える気はない」
「わかった。その話は通しておこう。でも、王都には行ってくれるか? 正直、断られると困る」
だろうな。
「それは行く。異世界だが、一国の王に招かれるのは名誉なことだし、断るのは礼を失する。あと、王都には行ってみたいと思っていたから呼ばれればすぐにでも行こう」
「ありがたい。何にせよ、調査を終えてからになるだろうから話が来たらすぐに伝えよう。馬車はウチが出す」
「わかった。もしかしたら他の連中も連れていくかもしれないがいいか? ナタリアとアリスは王都出身だし、実家に帰るかもしれない」
「それは構わないよ」
区長は快く、頷いた。
極悪人とかひどいことを言って申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「頼むわ」
「ああ。さて、話は以上だ。本当なら夕食を共にしたいと思っていたのだが、どうするかね?」
夕食ねー……
「今日は帰る。魚を釣ったから魚を食べるんだ」
『釣った(笑)』
嘘はついてねーよ。
釣ったのは毒魚だが、市場で買った魚を食べるのは本当だ。
「そうかね。まあ、仲間と一緒の方が良いだろう」
「お前もその地位を何十年もやればわかるぞ。どんなに貧相だろうが、気の合う仲間や愛する家族と食べる食事が一番美味い」
貴族の会食はマジでつまらんからな。
「それはさすがに知っているよ」
区長が何度目かもわからない苦笑いを浮かべる。
「あ、パメラは帰ってきたら毒魚じゃない魚をナタリアが御馳走してやるから来いって伝えてくれ」
どうせだから誘おう。
極悪人発言を謝りたいし。
「…………伝えよう」
区長は俺の顔をじーっと見た後に頷いた。
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