第064話 意外……


 西区の区長はパメラの親父さんらしい。


「パメラから聞いてないのかね?」


 区長が苦笑いを浮かべたまま聞いてくる。


「聞いてないな」


 なーんだ、探ろうと思ってたが、パメラの身内かい。

 下手に出て、損したわ。

 というか、若いメイドに案内させたのはパメラが言ったからだな……

 どうもAIちゃんが余計なことを言ったせいでパメラ達は俺の人間性について誤解しているように思える。


「どうも最近、冷たくてね……ハァ」


 区長がため息をついた。


「女の子なんてそんなものだ。いつまでも父親にべったりではない。俺の妹もそんな感じだった」


 妹はある日を境に父親を避けるようになった。

 なお、俺の娘がどうだったかは記憶にない。


「頭ではわかっているんだけどね」

「別に嫌っているって感じではなかったぞ。なあ?」


 AIちゃんに振る。


「そうですね。フォローされてましたし」


 庇ってたな。

 『お前、愛人か?』って聞かなくて良かった。

 間違いなく、嫌われる。


「そうかね? なら良かった」


 区長はほっと胸を撫で下ろした。


「このことは皆、知っているのか?」

「ギルドの人間は知っていると思う。冒険者は知らないんじゃないだろうか?」


 じゃあ、他の人間に言わない方がいいな。

 口止めもしていないようだし、隠しているようにも見えなかったが、言いふらすのも良くないだろう。


「ふーん、わかった。それで話というのは?」

「君はせっかちな人間なのかな? 本当は夕食でも共にしながらゆっくり話そうと思っていたのだが……」


 あー……だからパメラが夕方にでも案内するって言っていたんだ。

 仕事が終わった後、自分が家に帰るついでに一緒に行く感じ。

 まあ、そっちの方が良かった気がする。


「いや、単純に仕事が早めに終わったから暇だっただけだ」

「そうかね? まあいい。では、話をしようか。まず確認だが、君があの大蜘蛛を出したのは本当かね?」

「そうだな。俺は転生者なんだが、そういう術者と思ってくれ。このAIちゃんにしても式神だ」

「実を言うと、パメラからそういう話を聞いている。しかし、これが人ではないのか…………にわかに信じられない」


 区長がAIちゃんをじーっと見る。

 区長に見られているAIちゃんは目をぱちくりさせると、首を傾げた。

 確かに人の子供にしか見えない。


「これは特別製だ。それと転生した際にスキルを手に入れたからその影響もある」


 キツネの式神は母上に教わったやつだから他の式神とはちょっと違うのだ。


「ギフトか」

「ギフト? たまにその言葉を聞くけど、転生者が持っているスキルのことか?」

「そうだ。転生者は特別な力を授かっていると言われている」


 言われている……


「曖昧な言い方だな」

「正確に確認したわけではないからな。そういう人間がいるってことだ。そもそも転生者は色々と議論がなされている。一部の研究者はただの記憶障害で片付ける者もいる」


 まあ、俺も他人に自分は前世の記憶があるって言われたら鼻で笑っただろうし、そういうことを考える者もいるだろう。


「ふーん、俺的にはその辺はどうでもいいな。事実がどうあれ、俺のやることは変わらん」


 今世は仕事や責任に追われずに楽しく生きよう。

 まあ、暇すぎるんだけど……


「そうかね? 君のやりたいこととは?」

「今は仲間と冒険者をやりながら適当に過ごすことだな。異世界の生活は何もかも新鮮だ。文化も料理も全然違う」


 慣れてきてはいるが、いまだに驚くことは多い。


「ほう? それは興味があるね」

「お前も死んで転生してみるか?」

「それはさすがにやめておくよ」


 区長が苦笑した。


「だろうな。さて、式神だったな? 気になるのは危険性か?」

「そうだね。皆が助かったと思うと同時に今度はあの大蜘蛛が牙を剥くのを怖がっている」


 だろうな。

 ありすぎる力は疎まれる。


「正直、あの程度でビビるのは情けないとしか思えんな。大きさは脅威だが、毒もないし、魔力もそれほど高いというほどでもない」


 魔力じゃなくて霊力だが、説明がめんどくさいので魔力ということにする。


「かなりの魔力を感じたと聞いているが?」

「その程度ということだ。まあ、危険性はないぞ。式神が術者に逆らうことはないからな」


 多分ね!

 俺のスキルのせいで人格が芽生えたからわからない。

 ましてや、大蜘蛛ちゃんのあの性格はちょっと……


「うーむ……」

「実際に見せてやろう」


 そう言いながら懐の中から護符を取り出す。


「それは?」

「これは護符だな。前にジェフリーから見せてもらったことがあるが、こっちの世界にも似たようなものがあるだろ」


 昇格試験の時にジェフリーが魔法を防ぐ護符を持っていた。

 あれはちょっとすごいと思ったな。


「確かにあるな」

「式神はこの護符を使って呼び出すんだ……見てろ」


 護符に霊力を込め、テーブルの上に置くと、護符が光り出す。

 すると、護符が手のひらサイズの大蜘蛛ちゃんに変わった。


「蜘蛛……小さいな。いや、蜘蛛としたら十分に大きいんだが……」


 区長がテーブルの上でまったく動こうとしない大蜘蛛ちゃんをじーっと見ている。


「動かないな……命令を待っているのかな?」

「クッキーを見てるだけです」


 あっそ。


「大蜘蛛ちゃん、食べていいぞ」


 そう言うと、大蜘蛛ちゃんがテーブルの上にある皿のところまでかさかさと動く。

 そして、一枚のクッキーを背に乗せると、かさかさと動く。

 すると、テーブルの端に持っていき、食べだした。


「大蜘蛛ちゃん、甘いものが好きなのかな?」

「血肉より糖分って言ってますね。女の子なんで」


 お前、メスかい……

 知らんかった…… 

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