第063話 ごめーん


 俺とAIちゃんはギルドを出ると、区長宅を目指し、町中を歩く。


「パメラがやけに庇ってたが、区長ってどんな人なんだろうな?」

「さあ? こんなことになるんだったら先に偵察をしておけば良かったですかね?」


 小さい虫やカラスちゃんを使えばいくらでも偵察はできる。


「今回の人生ではあまり政治に関わりたくはなかったからなー」

「それが良いと思いますよ。異世界ですし、単純に政治はしんどいです。私的にはマスターに幸せになってほしいと思いますのでそういうのには関わらず過ごしてほしいです」


 面倒だもんなー。


「何も考えずに仲間と仕事をしている方が楽しいしな」

「釣れませんでしたけどね」


 うっさい。


「毒魚を釣ったわ……って、あそこか?」


 俺達の目の前には塀に囲まれたそこそこ大きい屋敷がある。


「だと思いますよ。門番の兵士さんがいますので聞いてみましょう」


 AIちゃんが言うように鉄格子みたいな門の前には兵士が立っているので近づいてみる。


「すみません。つかぬことを伺いますが、ここは区長さんのお宅でしょうか?」


 俺は門の前まで近づくと、門番に声をかけた。


「ええ、そうですよ。いかがなさいました?」


 門番はニコニコと笑いながら対応してくれる。


「私は西区の冒険者で【風の翼】というクランに所属しているユウマと申します。実はギルドより、区長さんに会うように言われたのですが、取り次いでもらえますか?」

「ギルドから……わかりました。少々お待ちください」


 門番はそう言うと、門をくぐり、屋敷に向かって走っていった。


「やけに下手に出ますね?」


 誰もいなくなると、AIちゃんが聞いてくる。


「様子見。たかが区長程度に頭を下げるのは名が落ちると思わんでもないが、どういう人物かわかっていないからな」


 傲慢な奴だと怒ったりもする。

 そうすると、面倒だし、クランに迷惑をかけてしまう。


「私はどうします? 今思うと、消した方が良くないですか?」


 うーん……もう遅い気がするしな。


「いや、そのままでいい。文句を言われたら消すか1人で帰ってくれ」

「わかりました」


 俺達がその場で待っていると、さっきの兵士がいつぞやも見たメイド服なるものを着ている若い女性と共に戻ってきた。


「ユウマ殿、確認が取れた。区長様がお会いになるそうだからこのメイドについていってくれ」


 メイド? しかも、若い。

 無礼だな……


「メイドですか? 私達は異世界から来たのですが、この世界では客人をこんな若い召使に案内させるのですか?」


 AIちゃんがちょっと怒る。


「いえ、そのようなことはないですよ。ただユウマ殿は若い女性の方が良いだろうと……」


 おい……

 誰だ、そういうことを言った奴は……?


「なるほど。それは仕方ないですね」


 おい、子ギツネ!


「まあいい。さっさと案内しろ」

「はい、こちらになります」


 メイドが頭を下げながら答えると、屋敷に向かって歩いていったので俺達も歩き始める。


「マスター、マスター! メイド服ですよ! お好きでしょ!」


 はしゃぐAIちゃんの頭を叩いた。


「別に好きじゃねーよ」

「いたた……以前、ガン見してたじゃないですか……」


 AIちゃんが叩かれた頭をさすりながら言う。


「変わった服だなと思っただけだ」


 大蜘蛛ちゃんを出してお姫様を救った際に見事な魔法を使っていた女性が着ていたのだ。

 鎧以外で初めて見た服があれだったから気になっただけ。


「へー、そうですか、ナタリアさんはメイド服が似合いそうですけどね」


 それはちょっと思う。


「逆にアリスとリリーは全然、似合いそうにないな」

「でしょうねー」


 俺とAIちゃんが話していると、メイドがとある部屋の前で立ち止まった。


「こちらになります」


 メイドが頭を下げて、そう告げると、すぐに扉の方を向き、ノックをする。


「区長、ユウマ様をお連れしました」

『ご苦労。入ってもらえ』


 中から男の声が聞こえたと思ったらメイドが入るように勧めてきたので扉を開け、部屋の中に入る。

 すると、部屋の中では机に座る金髪の男がおり、何かの書き物をしていた。


「失礼。仕事が溜まっていてね」


 男が書き物を続けながら謝罪してくる。


「いえ、あんなことがあったんですからお忙しいでしょう。わざわざ時間を作っていただき、ありがとうございます」

「本当に申し訳ないね。かけてくれ」


 男がペン先を机の前に設置されている対面式のソファーに向けたのでAIちゃんと並んで座る。

 すると、さっきのメイドがいつの間にか持っていたお茶とお茶請けのお菓子を目の前のテーブルに置いた。

 そして、一礼をすると、部屋から出ていく。


「ふう…………申し訳ない」


 男は一息つくと、立ち上がり、俺達のもとにやってくる。


「忙しいのなら日を改めますが?」

「いや、こっちも大事なことだ。まあ、好きに飲んでくれ」


 男はそう言うと、対面のソファーに腰かけた。


「では、いただきます」

「いただきまーす」


 俺とAIちゃんは目の前のお茶を飲む。


「美味しいですね」

「香りも良いです」


 ぶっちゃけ、普通だ。

 というか、俺はこの世界を知らないからお茶の良し悪しがわからない。

 でも、こう言うのが礼儀だ。


「そうか……王都から取り寄せたものだが、満足してもらえたのならば良かった」


 ほらね。

 絶対に良いやつだと思った。


「ありがとうございます。紹介が遅れましたが、私は西区の冒険者で【風の翼】というクランに所属しているユウマと申します」

「もちろん知っているよ。私はこの西区の区長をしているケネス・アストリーだ」


 ん? アストリー?

 どっかで聞いたことがあるような……


「んー?」


 AIちゃんを見る。


「アストリーはパメラさんの苗字ですね」

「そういえば……」


 最初に会った時に自己紹介をしたが、パメラ・アストリーだったような……


「パメラは私の娘だよ」


 区長が苦笑しながら頷いた。


「そうなんですか……」


 えー……

 俺、娘に父親のことを極悪人とか賄賂とかひどいことを言っちゃったぞー……


 あ、だから庇っていたのか!

 やっべー……

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