第062話 もしや愛人!?
狛ちゃんが絡んできた2人組を倒した後、俺達はすぐに町に戻ることにした。
気絶している2人を森の中に置いておくのはどうかと思ったが、周囲には他の冒険者もいたのでどうにかなるだろうと思い、放っておいた。
そして、森を抜け、町まで戻ってくると、西区のギルドに向かう。
「あれ? こんなに早くどうしたんです? まだ昼前ですよ?」
ギルドに入ると、受付にいるパメラが聞いてきた。
「パメラ、森でサイラスのパーティーメンバーだと思うが、2人組に絡まれたわ」
「…………あれはパットとリック」
アリスがあの2人組の名前を教えてくれる。
「その2人」
「あー……あの2人ですか……サイラスさんは?」
パメラも知っているらしい。
「いなかったな。2人だけだった」
「なるほど……どう絡まれたんですか?」
「どうも昨日、サイラスが西区の冒険者は南の森に来るなって言ったらしいんだわ」
「それは他の冒険者から聞いています。南区のギルドに抗議しましたね。まあ、軽く流されましたけど」
冒険者同士の軽いいざこざに過ぎないからな。
「俺らはそれを聞いていなかったんだが、とにかく、西区の冒険者は来るんじゃねーよって感じで絡まれたわけだ」
「西区の皆さんにですか?」
「いや、ウチだけ。弱そうなのが4人もいるからな」
しかも、内2人は子供にしか見えない。
「うーん……情けないとしか思えませんねー」
俺もそう思う。
まだナンパの方が男らしいと思える。
「そこまで魔力も高くなかったし、強そうには見えなかったからな」
「ハァ……それでどうしたんです?」
「俺にちょっかいをかける感じで蹴ってきたな。まあ、それくらいで怒るほど器が小さいわけではないのでそれは構わないんだが、その後にアリスに手を出そうとしたから護衛を任せていた狛ちゃんが反撃した」
「あの子がですか?」
狛ちゃんは今、ギルドの前で待っている。
「戦闘用の式神だから相手にならんかったな。とはいえ、手加減はさせたから死んではいない」
「そ、そうですか……」
「向こうが抗議してくる前に抗議しろよ。ブチギレるくらいがちょうどいい」
これ大事。
「ハァ? まあ、抗議はしますけど……」
「それとだが、このままだと西区の冒険者と南区の冒険者が争いになるぞ」
「それはわかっています。今、ジェフリーさんが南区のギルマスと協議をしているところです」
どうなるのかねー?
俺なら限定的にでも西の森を解禁させるが……
「まあ、そういうわけだから今日はロクに成果がない」
釣果もない。
「仕方がないですね……」
パメラは残念そうだ。
「マスター、地図を売ってもいいですか?」
AIちゃんが俺の服を引っ張ってきた。
「地図? 南の森か?」
「はい。描きあげましたので」
そういや、昨日の夜も部屋で黙々と描いてたな。
「パメラ、買取できるか?」
そう聞くと、AIちゃんが地図を取り出し、受付に置く。
すると、パメラがその地図を眺め、顔を上げた。
「ええ。金貨20枚でいいです?」
地図を描くのとあのスタンピードの依頼料が一緒なのが微妙に納得できんな。
「それでいい」
「では、金貨20枚になります」
パメラが金貨20枚を受付に置いたのでそれを取ると、AIちゃんの小さな手を取り、手のひらに置く。
すると、AIちゃんが見上げてきたので頭を撫でた。
「お魚さんでも買いますか?」
「そうだなー」
「あ、やっぱり釣れなかったんだ……」
やっぱり?
「釣れたぞ」
「毒魚でしょ」
「まあ……」
でも、釣れたぞ。
「御馳走になるのは今度にするよ」
パメラが笑う。
「そうか」
「それで明日以降はどうされるんです? やはり東の遺跡ですか?」
「そうなるな。まあ、明日行くかはわからんが、アニーと相談してみる」
一応、明日行くという話はしているが、アニーはあまり働かないらしいし、聞いてみないとわからない。
「わかりました。適当な依頼を見繕ってみます」
いい子だ。
「頼むわ。じゃあ、俺らは帰る」
「あ、待ってください。ユウマさんに少しお話があるんですけど……」
俺?
「なんだ?」
「ほら、スタンピードのやつです」
あー、それか。
俺だけまだ依頼料をもらっていない。
「わかった……お前ら、狛ちゃんを連れて先に帰ってくれ」
ナタリア達3人に告げる。
「うん。じゃあ、買い物して帰るよ」
「…………魚買う」
「あ、私もアニーに頼まれてたんだった」
3人娘は残っている俺達に手を振ると、ギルドから出ていった。
「それで? 話って?」
3人娘を見送ると、パメラの方を向く。
「まずですが、ユウマさんの依頼料は金貨100枚になります」
すげー!
他の人の5倍だ!
「そんなにくれんの?」
「少ないくらいですけどね。ただ、町の復興資金のこともありますし、遺族の方への援助もありますので町の資金も厳しいんです。そして、今回のユウマさんのご活躍は表に出しませんのでこの程度になってしまいました。私も粘ったんですけどねー。最終的には西区の区長がこれ以上は難しいと判断なさいました」
まあ、功績から考えたら少ない気もするが、労力的にはたいしたことはしていない。
「別にそれでいいぞ。俺は前世で何度も都の危機を救ったが、それで金をもらうことなんてない。こういうのは金じゃなくて信用や信頼、そして、上の者への心証を良くするためにすることだ」
そうやって俺達は地位を上げ、貴族となり、その後も王族などと繋がって今の如月の地位になったのだ。
金なんて後からついてくるし、卑しく飛びつくものじゃない。
「そんなものですか?」
「英雄はつまらんぞ? 一代限りだし、敵も作る」
妬みとかも多い。
いくら強かろうが、大事なのは政治だ。
「へー……あのー、貴族になるつもりです?」
「別になる気はないな。要は上の連中に恩を売る方が大事なんだ。今後のことを考えると、金貨100枚が1000枚になるより、そっちの方は大事なわけ。そういうわけで区長とやらにありがたく存じますって伝えとけ」
「あ、それなんですけど、西区の区長と会っていただけませんか? 区長が会いたがっていますし、依頼料は区長から頂いてください」
探りに来たな……
まあ、とんでもない戦力を持っている奴を野放しにはせんか。
「いいぞ。いつだ?」
「早い方が良いそうですけど、いつもでいいそうです」
いつもでいい?
暇なんか?
「ふーん……行ってみるか……さて、どんな極悪人やら……」
「いや、区長はそんな人ではないんですけど……」
「いいか、パメラ? こういう町の長っていうのは黒いもんなんだよ。賄賂だったり、何でもありだ」
「そ、そうですかね? 何度も会ってますけど、そういう人には……」
何度も会ってる?
「気を付けろよ。目を付けられているかもしれん」
「ハァ……?」
大丈夫か、こいつ?
区長の権力を舐めていないだろうか?
「まあいい。とりあえずは会ってみてだな」
「お願いします。いつ会いますか?」
「こういうのは出鼻を挫くことが大事だ。今から行ってくる」
時間をかけさせてはいけない。
すぐに行って本音を探ってやる。
「え? 今からです? 夕方になれば区長の家に案内できますけど……」
「区長の家って、市場の近くだろ? ナタリアとアリスに町を案内してもらったから知ってる」
確かでかい家だった。
「そこですけど……本当に今から行かれるんですか?」
「暇なんだよ」
午後からやることがない。
「あ、そうですか……」
「じゃあ、行ってくるわ。どんな極悪人か見極めてやろう」
「極悪人ではないと思うんですけど……」
やけに庇うな……
そんなに良い人なんだろうか?
良い人は良いことだけど、政治家はある程度、悪くないと向いてないぞ。
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