第061話 程度の低い冒険者


 AIちゃんに怒られたリリーが素直に木から降りてくると、カラスちゃんも戻ってきて、羽ばたきながら降下し、AIちゃんの肩にとまった。


「えーっと、その鳥も式神なの?」


 リリーがカラスちゃんを指差しながら聞く。


「そうですよ! 魔力感知ができるならわかるでしょ!」

「カー」

「うん、まあ……この距離ならわかるけど、さすがにあそこまで高く飛んでいる鳥はわかんないよ」


 確かにかなり高く飛んでいた。

 すごいのはそんな鳥を弓矢で落とそうとしたところだ。

 相当、自信と実力があるのだろう。


「謝って! カラスちゃんに謝って! この前も撃墜されたカラスちゃんに謝って!」

「カー……」


 おい……

 カラスちゃんがへこんでるぞ。


「ご、ごめんね、カラスちゃん。そんなに落ち込まないで……もう仲間を射ろうとしないから」


 落ち込んでいるのはそこの子ギツネのせいだがな。


「リリー、カラスちゃんは置いておいて、他に動物はいないのか?」

「え? あ、うん。あんまりいなさそう。こんなに人が多いと、みんな逃げちゃうでしょ」


 それもそうか……

 やはり魚だな。


「まあ、奥に行ってみるか」

「そうね。奥ならまだいるかもしれない」


 俺達はさらに奥に進んでいく。

 その間も魔力探知で周囲を探っているが、いるのは冒険者ばかりだった。

 そして、そのまま進んでいくと、昨日も来た広い湖がある広場に出る。


 広場もやはり多くの冒険者がおり、仲間内で何かを話している。


「やっぱりどこに行っても皆さん、相談されていますね」


 AIちゃんが周囲の冒険者達を眺めながらポツリとつぶやいた。


「まあ、これじゃあ稼ぎにならんからな。どうするかの相談だろ」


 時間が解決すると言っていたが、10日も休んでいたから金が欲しいんだろうな。

 全員が全員、スタンピードの依頼を受けたわけではないだろうし、受けても金貨20枚だ。

 ナタリアいわく、2ヶ月間の生活費程度だし、もうすぐで冬が来るらしいから貯金が欲しいのだろう。


「東の遺跡に行けない人はどうするんですかねー?」

「さあ? わからんな」

「問題事になりそうな予感…………それでどうします? 釣りをなさいますか?」

「俺とアリスはそうだな。他にやることがない。お前らはどうする?」


 ナタリアとリリーに聞く。


「私は毒消し草の採取をするよ」

「私はちょっと弓の練習をするからその辺で弓を射るよ」

「わかった」


 俺は頷くと、アリスと共に湖のそばに行き、腰を下ろす。

 そして、アリスが出してくれた釣竿で釣りを始めた。


 ナタリアは俺達の近くで腰を下ろし、毒消し草の採取を始める。

 そんなナタリアのそばに狛ちゃんがちょこんと座った。


「リリーさんの弓って魔弓ですか?」

「そう。結構いいやつなんだ。森を出る際にお父さんがくれた」


 リリーがAIちゃんに弓を自慢している。


「魔弓って何だ?」


 隣に座っているアリスに聞いてみた。


「…………矢を魔力で出すことができるんだよ」

「そういやあいつ、矢筒を持っていないな」


 空間魔法に入れているのかと思っていたが、魔力で矢を出せるらしい。


「…………矢も安くないからね」


 まあ、それはそうだろう。


「魔法の方が良くないって思ったらダメ?」

「…………魔法はオーバーキルなところがあるし、魔力の消費が大きい。コスパ的にも獲物を狩るにも矢の方が良い。燃やしたら肉なんかの素材が獲れないしね」


 確かに狐火で焼いたら何も残らんわな。


「でも、威力は?」

「…………大丈夫。ほら」


 アリスに言われてリリーの方を見ると、リリーが弓を構え、その隣にいるAIちゃんが石を持っていた。

 すると、AIちゃんが湖に向かって石を投げる。


 投石された石は放物線を描きながら遠くに飛んでいった。

 俺とアリスは首を動かしながらその石を追う。


「えい」


 リリーの声が聞こえたと思ったら光の矢が石に向かって飛んでいき、飛んでいる石に当たった。

 そして、その石は粉々に砕け、パラパラと湖に落ちていく。


「おー! 当たった!」

「すごいです!」

「ふふん!」


 俺とAIちゃんが称賛すると、リリーが鼻高々に胸を張った。

 なお、それを見ていたカラスちゃんがAIちゃんの肩から四つん這いになって採取をしているナタリアの背中に移動した。

 犬と鳥に囲まれているナタリアだけ世界観が違うように見える。


「…………ユウマ、竿が引いてるよ」


 アリスが教えてくれるが、この引きは昨日と一緒だから毒魚だろう。

 俺は一応、上げてみるが、やはり昨日の魚だった。


「リリー、食うか?」

「食べない!」


 自慢げに胸を張っていたリリーが怒る。


「誰も食わんな……」

「そりゃそうでしょ。いいから食べられる魚を釣ってよ。アニーが昨日、使えない2人って言ってたよ」


 そう言われてアリスを見る。


「…………魚を食べたかったんだって」

「帰りに買って帰るか。それを釣ったということで」

「…………最悪はそれでいこう。調理したらわかんない」


 よし、それだ。


 俺とアリスはその後も一応、釣りを続けるが、やはり毒魚しか釣れない。

 そうやって時間を潰しているのだが、今日は他の冒険者達が勧誘に来ない。


 もう来ないのかなーと思っていると、2人組の男がこちらに近づいてきていた。

 そんな男2人は俺達のところにやってくると、睨んでくる。


 んー?


「おい、お前ら、昨日、サイラスさんが来るなって言わなかったか?」


 片方の男が嫌味たっぷりに言う。


「え? 何? 昨日?」


 リリーは昨日、いなかったからな。


「てめーには言ってねーよ、長耳女!」

「え? そう?」


 リリーがへらへらと笑う。


「何笑ってんだ!?」

「え? だって、褒めてくれたから……」


 どうやらエルフ的には耳が長い方が良いっぽい。


「リリー、ちょっと黙ってな」


 こいつらは俺達に話しているんだ。

 よく見たら昨日、サイラスと一緒にいた2人だわ。


「え? あ、うん」


 俺はリリーを黙らせると、2人の男を見上げる。


「悪いが、途中で帰ったから昨日の話を聞いていない。サイラスは何て言ってたんだ?」

「サイラスさん、だろ!」


 はいはい……


「サイラスさんは何て?」

「西区の冒険者は立ち入るなって言ったんだよ」


 なんでサイラスが決める?

 というか、その辺にも西区のギルドで見たことがある冒険者がいるのになんで俺達だけに言うんだ?


「そうか。聞いていなかったな。もう少ししたら帰るよ」

「今すぐ帰れや。それとも痛い目を見るか?」


 男はそう言うと、俺の背中を軽く蹴ってきた。


「狛ちゃーん、やめなさい」


 ナタリアのそばにいる狛ちゃんがいつの間にか立ち上がり、飛びかかろうとしていた。


「なんだこの犬? やんのか?」

「ハァ……帰るか」


 アリスを見ると、アリスも頷いた。


「…………やっぱり東に行くべき。うざい」


 アリスがそう言うと、俺としゃべっていた男じゃない方の男がアリスに手を伸ばした。

 次の瞬間、目の前に白いものが勢いよく、通りすぎていく。


「――ぐはっ!」


 アリスに手を伸ばした男は狛ちゃんに体当たりされ、10メートル以上も吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がり、ピクリとも動かなくなった。

 まあ、死んではないだろう。


「こ、このクソ犬!」


 もう1人の男が怒り、剣を抜いた。


「殺すなよー」

「うるせー!」


 お前に言ったんじゃねーよ。


 男は剣を振りかぶると、狛ちゃんに向かって勢いよく振り下ろした。


「狛ちゃん!」


 ナタリアが声を出すが、剣は狛ちゃんの胴体に当たる。

 だが、剣を受けた狛ちゃんはきょとんとしており、首を傾げた。


「なっ!? なんだこの犬!?」


 斬ったのにきょとんとするだけの狛ちゃんを見て、男が驚愕する。


「…………狛ちゃん、ごー」


 アリスがそう言うと、狛ちゃんが前足に力を入れ、男に飛びかかった。

 すると、男のみぞおちに狛ちゃんの頭が当たる。


「ゲホッ! ぐっ……!」


 男は腹を抑え、その場で前のめりに倒れた。


「よっわ……」


 リリーが男2人を見て、呆れる。


「他の冒険者に絡まずに女4人のウチに絡んできたからなー。その程度だろ」


 まあ、そうじゃなくても、戦闘用の式神である狛ちゃんに勝てるわけないけど。


「…………狛ちゃん、ありがとう」


 アリスがお礼を言うと、狛ちゃんがアリスにすり寄る。

 狛ちゃんは命令通りにアリスを守ったのだ。


「トラブル厳禁って言われてたけど、まあ、しゃーないわな。こうなったらもう帰ろうぜ」


 ここにいてもゆっくりはできないだろうし、トラブルが増えるだけだろう。


「…………そうだね。ギルドに戻って報告して、魚屋さんに寄って帰ろう」


 だな……

 アニーにバレませんように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る