第060話 鳴(泣)くなよ……


 俺達はギルドを出ると、南区に向かう。

 すると、獣耳をした冒険者風の男とすれ違った。


 俺はすれ違った後、振り向き、男の後ろ姿をじーっと見る。


「尻尾もあるな……」

「私の方がふわふわしてますし、品があります」


 対抗すんな。


「あれが獣人族だよ。というか、前に言ったBランクの人だね。強そうでしょ」


 俺とAIちゃんが獣人族の男の後ろ姿を眺めていると、ナタリアが教えてくれた。


「前に言ってた人か……確かに強そうだったな」


 魔力は高くなかったが、雰囲気が歴戦の強者って感じだった。

 まあ、実際、Bランクなんだから強いんだろう。

 サイラスとは大違い。


「初めて見たな。あれが獣人族か…………リリー、エルフはいないのか?」

「いないよ。エルフは森の中を好むから町にはほとんどいない。私は実家に帰ったりするし、結構旅をするけど、今までに町中だと2人くらいにしか会ったことないよ」


 そんなに珍しいのか。


「それにしてはお前って馴染んでいるな……」

「エルフっぽくないってよく言われるね。エルフってもっと知的だと思っていたとか、近寄りづらい雰囲気があると思っていたとか……」


 悪いが、どっちの要素もリリーにはないな。


「気さくなんだな」

「ユウマは良い人ねー。素直にがっかりって言えば?」

「いや、エルフを知らん」


 逆に言うと、俺の中のエルフはリリーになる。

 他のエルフに会った時にびっくりするかもしれない。


「あ、転生者さんだったね。そっか……エルフがいない世界か」


 獣人族も魔族もいないな。

 まあ、似たようなのは俺の家の縁側でいなり寿司を食ってたけど。


「人族しかいないな。それよりもリリー、お前の冒険者ランクは?」

「Cランク!」


 リリーが胸を張る。


「そうか。アリスがBランクで他はCランク……ついでにパーティーのランクもCか……パーティーランクをBにしたいな」

「パーティーランクは地道にやるしかないね。パーティーメンバーの平均だと思ってくれればいい」


 平均か……


「俺ともう1人がBランクになればBランクになれるな」

「…………手っ取り早いのは暇そうな痴女を引き入れること。そうすれば、ユウマがBランクに上がった時にBランクが3人になる」


 なるほど。

 あいつもBランクだったな。


「狛ちゃん、俺が誘ったら断ってくると思うが、その時、寂しそうに項垂れろ」


 そう言うと、狛ちゃんが頷く。


「アニーさんが入るかはわからないけど、あの人、あんまり働かないよ? 薬を作って儲けられるからあまり危険なことをしないし」


 ナタリアが教えてくれる。


「別に毎回付き合えって言ってるわけじゃない。今度の遺跡のように時間が合ったら一緒に行こうぜってことだよ。後は名前貸し」


 どうせ1人なんだから別にいいだろ。


「それなら頷くかもね」


 よし、交渉してみよう。

 まあ、何にせよ、俺のランクが上がってからだな。

 パメラの話だと上げてくれそうな感じはしたが、揉めているっぽいし、時間がかかるかもしれない。


 俺達はそのまま南区の街並みを進んでいき、門を抜けた。

 そして、そのまま順調に歩いていくと、森の前までやってくる。

 すると、森の外で話し合いをしているたくさんの冒険者パーティー達がいた。

 その数はゆうに50人を越えるだろう。


「多っ! 昨日もこんな感じだったの?」


 初めて来たリリーが森の周りにいる冒険者達を見て驚いた。


「いや、昨日は昼からだったからこんなに多くはなかった。代わりに湖の周りにはいたが……」


 それにしても多い。

 これはクライヴや他のクランメンバーが諦めて王都に行くわけだわ。


「どうする?」


 ナタリアが聞いてくる。


「まあ、稼ぐ気はないからなー……リリー、今日はお前の調整だから好きに動いていいぞ。どうしたい?」

「とりあえず、森に入って勘を取り戻したいかな……後は適当に狩れそうな魔物か動物を射るよ」

「任せるわ」

「うん。じゃあ、行こう」


 俺達はリリーを先頭に森の中に入り、道を歩いていく。

 森に入ってすぐにわかったが、今日も魔物の魔力を感じることができない。


 こりゃダメだわ……

 魔物稼ぎは無理。

 これ、そのうち西区と南区の冒険者がぶつからないか?

 もしくは、流出が起きるぞ……


 俺がどうするのかねーと思いながらそのまましばらく進んでいくと、先頭のリリーが立ち止まった。


「どうした?」

「うーん……全然、気配が感じられない……鈍った?」

「いや、昨日もだったが、冒険者が多すぎて魔物がいないんだと思う。俺も魔力感知で探っているが、魔物はゼロ」

「魔力感知…………傷付くから範囲は言わないでね」


 繊細な子だなー……


「リリー、動物とかは?」


 空気が読める女、ナタリアがリリーに聞く。


「ちょっと待ってね。人が多すぎてわかんないや」


 リリーはそう言うと、近くの木をすいすいと登っていった。


「こっちの世界の子はすごいなー。俺の子供の頃でもあんなに登れんかったぞ」

「エルフは木登りが得意なんですよ。ほら、木の上に住んでいるって言ってたでしょ」


 AIちゃんが教えてくれる。


「あれで木登りが得意じゃないって言ってたよな?」

「他のエルフはもっとすごいんじゃないです?」


 芸を仕込んだら雑技団で稼げそうだわ。


「リリー、どうー?」


 ナタリアが木の上の枝に乗っているリリーに声をかける。


「動物も少ないと思う! うーん、晩御飯用に鳥でも射る?」


 鳥?


「鳥ー?」

「うん! 見たことない鳥だけど、飛んでるから射るねー!」


 リリーはそう言うと、上空に飛んでいる黒い鳥に向かって弓を引いた。


「こらー! カラスちゃんに何をする気だー!?」


 AIちゃんが怒鳴って、木を叩く。

 すると、カラスちゃんが慌てて逃げていき、見えなくなった。


「え? ダメ?」

「カラスちゃんが泣きながら逃げていったじゃないかー! 降りてこーい!」


 確かに遠くでカー、カーと鳴いてるな……

 可哀想に……

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