第059話 そこまでして食べるもんじゃない
朝食を食べ終え、一度解散すると、仕事の準備をする。
と言っても、俺とAIちゃんは準備をするものもそんなにないのですぐに終えると、エントランスの交流スペースで待つことにした。
俺は寝ている狛ちゃんを起こし、背中を撫でる。
「お前、そんなに女連中が好きか?」
「遊んでくれるからって言ってますね」
しゃべれない狛ちゃんに変わり、AIちゃんが答えた。
「男連中は遊んでくれないのか?」
「ご飯はくれるけど、遊んではくれないって言ってますね」
「ふーん……」
まあ、そんなものかもしれない。
「アニーが一番好き?」
「散歩に連れていってくれるのがマスターとアニーさんだけだそうです」
俺、狛ちゃんを散歩に連れていったことないんだけど……
あ、いや、仕事で森に行く時とかか……
狛ちゃんはあれを散歩だと思っているらしい。
「そうか……犬だな」
「どう見ても犬ですよ。あと、マスターが最初にナタリアさんとアリスさんを守るように命じましたよね? あれで狛ちゃんの人工知能がマスターの奥さん(候補)を守るように認識したようです」
どういう認識だよ……
もうちょっと賢い人工知能になってほしかったわ。
「ということは大蜘蛛ちゃんがあんな好戦的なのは戦闘をさせたからか?」
「戦闘というか蹂躙ですね。それに蜘蛛ですし」
まあ、蜘蛛に温厚なイメージはないな。
「他の式神を出す時は慎重にならないとな。大ムカデちゃんとか」
「出さなくていいのでは? 大蜘蛛ちゃんですら大騒ぎになっているのに次に大ムカデちゃんを出したら皆、逃げ出しますよ」
大ムカデちゃんもでかいし、それに毒があるからなー。
酸で溶ける魔物を見たらビビるのは間違いない。
「そうするかー」
俺とAIちゃんが式神のことを話していると、ナタリア、アリス、リリーの3人がやってくる。
「お待たせ」
「…………リリーの準備が遅かった」
「久しぶりなんだからしょうがないじゃん。忘れ物をしないようにしてたの!」
リリーは大丈夫かね?
「リリー、お前って冒険者はどのくらいやっているんだ?」
「私? 1年ちょっとだよ。そのくらい前にこの町に1人で来たんだけど、パメラさんに紹介してもらってこのパーティーに入れてもらったんだよね」
ナタリア、アリス、それと抜けたハリソン君は幼なじみって言ってたし、最初はその3人で後からリリーが加わったわけだ。
そして、ハリソン君が結婚と同時に引退し、残ったのが見た目弱そうなこの3人か……
俺は改めて3人を見てみる。
うーん……ホントに弱そう。
女ということもあるが、3人共、とても戦えそうには見えない。
もちろん、ナタリアとアリスは魔法使いだから仕方がない面もあるが、弓を持っているリリーは細いし、無理をしている感が半端ない。
「どうしたの?」
「…………品定め?」
「やっぱり好色ギツネだ! ところでなんでキツネなの?」
好色ギツネって言ったのは性悪蛇女だな……
「気にするな…………いや、お前ら、本当に弱そうだなって思って」
「ひどい」
「…………そりゃユウマと比べたら弱いよ」
「まあ、私達って身体も大きくないし、アニーみたいに気も強くないしね」
そこなんだよなー。
気が弱いとは言わないが、自己主張をしたり、ケンカをするようにはとてもでないが、見えない。
実際、そうだろうし。
「いや、実際にお前らが強いのはわかる。魔力も高いしな。だが、見た目が弱そう。あのサイラスが絡んできそうだなーっと思ってなー」
「実際、よく絡まれてたよ。だから南区には滅多に行かないね」
やっぱりか。
「サイラスが近づいてきたらすぐに退散でいいな?」
「うん。そうした方が良いよ。単純にめんどくさい」
だよなー。
たいした相手ではなかったが、向こうもクランに所属しているわけだから面倒ごとになる。
俺もこのクランに所属しているわけだからクランに迷惑はかけられない。
何しろ、クランリーダーが敵を作りたくなさそうだったし。
「わかった。じゃあ、そんな感じでいこう」
「うん」
俺達は方針を決めると、クランの寮を出て、ギルドに向かうことにした。
寮を出て、以前のような活気ある街並みを歩いていくと、ギルドに着く。
朝早くに来たため、他の冒険者達が依頼票を眺めているが、以前の半分くらいの数しかいないように見えた。
俺達はそんな冒険者を尻目に受付にいるパメラのもとに向かう。
「よう、なんか今日は少ないな」
いつもと変わらない笑顔のパメラに声をかけた。
すると、パメラが苦笑いを浮かべる。
「おはようございます。やっぱり少ないですよね……」
「昨日もこんな感じだったのか?」
昨日は昼からだったので他の冒険者を見ていない。
「いえ、昨日は溢れんばかりにいましたよ。ですが、今日はこれです……ハァ」
パメラがため息をついた。
「昨日の森ではなー……悪いが、クライヴを始め、ウチのクランの連中は王都に行ったらしいぞ。残っているのはここにいる5人とまだ寝ているアニーだけだ」
「でしょうねー……他の人達もそんな感じです。あ、リリーさん、おかえりなさい」
パメラがリリーに声をかける。
「ただいま、パメラ。それとごめんなさい。大変な時に留守にしてしまって……」
リリーはスタンピードのことを少し気にしている。
「いえ、仕方がないことですよ。それよりも弓は大丈夫です?」
「うん、直った! でも、ちょっとブランクがあるし、今日は私の調整をすることになった」
「それが良いと思いますね……どうされるんです?」
パメラが視線を俺に戻して聞いてきた。
「リリーが森が良いって言うんで南の森に行ってみる。今日は稼ぎとかは考えずに腕慣らしだな。俺もリリーの腕を知らないからちょうどいい」
「なるほど。ユウマさんがリーダーでしたね。リーダーはパーティーメンバーの力量を知っておくことが大事です」
彼を知り己を知れば百戦危うからずだ。
「そうそう。ただ、やはり誰とは言わんが、南区の冒険者が気になるから南の森は今日で終わりするわ」
「ハァ……そうでしょうねー。他の皆さんもそれを悩んでいるようです。ほら、依頼票の前に集まっている冒険者の皆さんも悩んでいるでしょう?」
そう言われて依頼票の方を見ると、依頼票を眺めたり、パーティーメンバーと話し合っているだけで誰も依頼票を取りに行かない。
いつもは争奪戦だが、数が少ないのもあって、今日は非常に大人しい。
「だなー……」
「少しの間はギルドも稼ぎが少なくなりそうです…………ユウマさん達は明日以降、どうされるんです?」
「アニーと一緒に東の遺跡だな。どうせだから一緒に行こうっていうことになった」
「なるほど。遺跡の魔物は難易度が上がりますが、ユウマさん達なら大丈夫でしょう」
遺跡の魔物は強いのか……
あー、だから他の冒険者達は悩んでいるんだ。
南の森は稼げないが、だからといって東の遺跡は難易度が高いからどうするかを悩んでいるわけだな。
「ああ。だから今日は森に行ってリリーの調整だな。一応、毒消し草の採取もやるが、期待はしないでくれ」
「…………私とユウマは晩御飯を釣る」
今朝、朝食を食べていた時に今日こそは食べられる魚を釣ろうと話していたのだ。
「もう最初から毒消し草の採取をする気がないんですね…………わかりました。気を付けてくださいね」
パメラは呆れていたが、すぐにジト目から笑顔に戻した。
「釣れたら御馳走してやるぞ」
「言っておくけど、毒魚は食べないからね」
毒消し草の香草焼きにしたら食えるんじゃないかな?
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