第058話 やっぱり不人気


 話し合いを終えた俺達は解散し、各自の部屋に戻っていった。

 なお、狛ちゃんは女性陣と一緒に3階に上がっていった。

 どうやら、あの神の使いであるエロ犬はアニーに相当懐いているようだった。


 翌日、朝に起きると、リリーを加えた3人が朝食を持ってやってきたので皆で食べだす。


「床に座るなんて珍しいね。ユウマの世界はこの生活だったの?」


 リリーが美味しそうに野菜を食べながら聞いてきた。


「ウチはそうだったな」

「ふーん……私の実家もそうだよ」

「そういやエルフは森の中に住んでいるって聞いたけど、魔物とか大丈夫なのか?」


 この世界は魔物が多いため、町でも高い防壁で囲っている。


「木の上に家を作っているし、エルフは魔力感知が優れているから大丈夫。普通に強いしね」


 そうなのか……

 しかし、木の上に家って怖いな。

 秘密基地みたいな気もするが、寝ぼけたら落ちそうだ。


「ふーん……そういえば、アニーはどうした?」


 今は俺達しかいなんだから一緒に食べればいいのに。


「アニーさんは寝てるよ。夜、遅くまで狛ちゃんと遊んでたし」


 ナタリアが答えてくれる。


「あいつ、アニーに懐きすぎじゃないか?」


 あのエロ犬、昨日も話をしている時に常時、アニーに遊んでほしそうにちょっかいをかけていた。


「あー……まあ、一番可愛がっているのがアニーさんだし」

「…………いつもニコニコしながら骨を投げてるね」


 エロ犬じゃなくて、アニーが犬好きだったのか。


「あのわんちゃん、可愛いよね。式神っていうのがいまいちわかんないけど」


 どうやらアリスかナタリアが俺の術をリリーに説明したようだ。


「気にするな。俺がいた世界とこの世界の魔法が微妙に異なっているだけだから。俺にとっては、前の世界にはなかった回復魔法がすごいと思う」


 あれはどうなっているんだと思う。


「そんなもんか。確かに私も森で育って、町に出た時に別世界って思ったもんなー」

「そういや、リリーってなんで森を出たんだ?」


 生活圏を変えるって大変なことだ。


「私、落ちこぼれだもん。弓はともかく、魔力も低いし、木登りも得意じゃない。だから森の外に行けば活躍できると思ったんだよ。人族は魔力が低いし」


 …………いや、アリスの方が高い気がするぞ。


「えーっと……」

「言わないで! わかってるから! 泣いたあの夜を思い出す」


 自分より下だと思っていたのに上がいっぱいいたからだな。


「まあ、世界は広いからな」

「そうね。アリスを見てへこみ、アニーを見てさらにへこんだ。そして、ついには自分の物差しで測れないバケモノまで現れた」


 バケモノ?

 魔族かな?


「誰?」

「ユウマ」


 俺かい……


「レイラは?」

「レイラさん? あの人、魔力はそんな高くなくない?」


 あー、隠していることすらわからないのか……

 言わないであげよう。


「そうか……」

「え? え? どういうこと? あの人、すごいの」

「リリーさん、レイラさんは隠していますが、マスターと同程度の術師ですよ。まあ、マスターの方が霊力は高いですけど」


 言うなっての。


「えー……わかんない……」


 リリーが落ち込んだ。


「…………リリー、私もわからないから安心して」

「私に至っては何を言っているのかも理解していない」


 ナタリアは魔力感知が苦手そうだもんなー。


「魔力感知はまだ得意な方だったのにー……」

「よし、そんなお前に良いものをやろう」

「良いもの?」

「これだ。我が家に古くから伝わる魔力増強剤だ」


 例の丸薬を取り出すと、リリーの皿に置く。


「魔力増強? 何それ?」

「その名の通り、魔力が上がる」

「ハァ!? マジ!? 聞いたことない!」


 エルフも知らないらしい。

 やはりこの世界にはそういう知識がないっぽいな。


「本当、本当。ほら、ナタリアとアリスの魔力を感じてみろ。ちょっとだけ高くなっているだろ」

「そう言われても覚えてないな……あ、でも、ナタリアが上がっている気がする! 私とどっこいどっこいだったの私より上に…………」


 リリーが目に見えて暗くなった。


「ほら、飲め。お前も魔力が上がるぞ」

「うん……でも、こんなすごいものがある世界なんだね。ユウマの世界って魔力が高い人が多そう」

「そんなこともないぞ。比率的にはこっちの世界の方が多いくらいだ」


 誰も毒虫なんて食べないし。

 

「そうなんだ。あー、そっか。この薬は一族に伝わる伝統的なやつなんだね。ウチにもそういう秘術があるよ」


 勝手にいい感じに解釈してくれたな。


「そんな感じだ」

「そんなものをもらって悪いね」

「気にするな」


 俺の方が悪いと思っているから。


「ありがと」


 リリーはお礼を言うと、丸薬を水で流し込む。


「絶対に味わうなよー」

「んー……上がった?」


 リリーが早速、聞いてきた。


「そんなにすぐには上がらん。定期的にやるから飲むといいぞ」

「まあ、それもそうだね。よーし! 頑張るぞ!」


 前向きな子だな。


「ちなみに聞くけど、お前、虫は大丈夫か?」

「虫? そりゃ森で生まれ育ったから大丈夫だよ。芋虫とか食べるし」


 うわっ、キモッ!


『マスター、さすがにひどいです……というか、たいして変わらないでしょ』

『そう言われても芋虫って食うか?』


 うねうねしてるじゃん。


『エビと変わらない気がしますけど……』


 …………それもそうだな。

 まあ、一緒か。

 生は嫌だけど、食えそうだ。


「虫が嫌いじゃないなら良かった。大蜘蛛ちゃんも蜂さんも大丈夫だな」


 あと丸薬の材料がバレても大丈夫。


「アニーに聞いたけど、恐ろしい魔力を秘めたバケモノでしょ? 普通に怖いよ」


 魔力感知が得意だったな……

 やっぱり大蜘蛛ちゃんの活躍はダメそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る