第057話 リリー
どうやらリリーが帰ってきたらしい。
リリーは高らかに挨拶をすると、俺達のもとにやってくる。
「皆、こんにちは! 久しぶりね」
リリーは俺達のもとにやってくると、またもや挨拶をした。
近くで見ると、可愛らしい顔をしているが、若干、目が吊り上がっており、気は強そうだ。
背はそれほど高くなく、アリスとナタリアの中間っぽい。
また体つきは全体的に細く、戦士の様には見えない。
「久しぶりー。実家はどうだった?」
「…………おかえり」
「おかえり」
3人も挨拶を返す。
「それね。ほら、弓も直った!」
リリーがどこからともなく弓を取り出す。
弓はぼろいとは言えないが、とても上等なものには見えなかった。
だが、かなりの魔力を秘めている。
「よかったね。それで復帰できそう?」
「うん! あ、それでね、王都に寄ってから帰ってきたんだけど、そこでレイラさんと話をした。スタンピードってマジ?」
「うん、本当。すごかったよ。一面に魔物だもの」
「そ、そう……そんな時に留守でごめんね……」
リリーががっくりと落ち込んだ。
「リリー、いなかったのはあんただけじゃないし、別にいいわよ。それに何とかなったし」
レイラがいない時の代表であるアニーが落ち込むリリーを慰める。
「ごめん。それでさー、もう一つ聞いたんだけど、ウチのパーティーが乗っ取られたってマジ?」
リリーがそう言いながら俺を見てきた。
「あー、まあ……?」
「私は断固反対! なんで乗っ取られてんのよ!」
リリーからしたら留守中にパーティーを乗っ取られたらそう言うわな。
「いやまあ、勧誘したら……してないけど、しようと思ったらリーダーをやってくれるって言うし」
「良くないよ! こういうのが女を食い物にするのよ!」
ひでー評価。
「そんなことは…………ないよ」
ナタリア、はっきり言え。
「えー……時すでに遅し? くっ、私が戻ってきたからにはもう大丈夫! やいやい、そこの男、名を名乗れ!」
リリーが結構な剣幕で俺に向かって指差してくる。
『AIちゃん、エルフって何だ? こいつはなんで耳が長いんだ?』
『そういう種族です。耳が長いのが特徴ですね。あと魔力も高く、基本的には森とかに住んでいます』
魔力が高い?
『そんなに高くないぞ。アリスの方が高いくらいだ』
「おーい」
『まあ、人それぞれですから。高い傾向にあるってだけで低い人もいますよ』
それもそうか。
「ねえねえ、無視しないでよー……なんで無視するのー?」
「リリー、多分、作戦会議中だから黙ってた方が良いよ。ほら、座って」
ナタリアがリリーに座るように促す。
すると、リリーがしょぼくれながら座った。
『エルフは人類の敵とかそういうのはないのか?』
『若干、閉鎖的なところはありますが、魔族とは違って友好的ですよ』
『じゃあ、問題ないか』
『だと思います』
しかし、本当に色んな種族がいるんだな……
「名を名乗れと言ったか? 俺はユウマだ」
「え? あ、うん。私はリリー、よろしくね」
「ああ、よろしく」
「うん…………じゃなくて! なんで人のパーティーを乗っ取るの!?」
リリーが再び、立ち上がった。
「別に乗っ取ってないぞ」
「え? でも、乗っ取ったってレイラさんが……」
槐め。
「パーティーに入れてもらってそのままリーダーになっただけだ。女より男の方が良いんだろ?」
「え? まあ……ナタリアもアリスも無理だろうし、私はもっと無理だしね」
まあ、この子はちょっと落ち着きがないしな。
とてもではないが、人を纏められるようには見えない。
「そう。だから前世でも長年、人の上に立っていた俺がリーダーになったわけ。99年も生きていたわけだし、経験もある。何か反論はあるか?」
「ない……ないんだけど、なんでそんなに偉そうなの?」
「別に偉そうにしていない」
「いや、どう見ても貴族…………ねえねえ、本当に大丈夫なの?」
リリーは腰を下ろすと、ナタリアの袖を引っ張りながら確認する。
「大丈夫だよ。全然、問題ない」
「ホントー? レイラさんが気を付けろって言ってたよ」
「何て言ってたの?」
「女の敵。あと生意気だって」
性悪蛇女のくせに。
「そんなことないよ。優しいって」
「あ、うん……アリスは?」
リリーはダメだこいつっていう目をしながらナタリアの肩をポンポンと叩くと、アリスの方を向いた。
「…………問題ないよ。ユウマのことは後で説明してあげる」
「そ、そう? あとさ、このわんちゃんは何? いつ飼い始めたの?」
リリーが遊んでほしそうにアニーの足にすり寄っている狛ちゃんを見る。
「…………それも後で説明する。それよりも今は明日以降をどうするか」
「明日以降? 仕事の話?」
「…………そう。今はスタンピードの影響で西の森に行けないんだよ」
「そうなの? え? じゃあ、どうするのよ」
「…………それを今から話すところ」
「あ、そうなんだ。話の腰を折ってゴメン」
リリーは素直に謝った。
「別にいい。同じ仲間だしな。ナタリア、パーティーメンバーはこれで全員か?」
「うん、この5人……5人?」
ナタリアが俺達を見回す。
「まあ、人じゃないのがいるしな」
AIちゃんは式神であり、俺のスキルだ。
『マスターも人じゃないでしょ』
人だよ。
「あ、そうだ。リリー、今、ウチにはここにいるメンバーしかいないから」
いつの間にか狛ちゃんにのしかかられているアニーがリリーに教える。
「え? そうなの?」
「さっき、西の森が閉鎖中って言ったでしょ。それで南の森に行くことになっているんだけど、冒険者が溢れているの。それで仕事になんないから皆、王都に行った」
「入れ違いかー……」
「まあ、クライヴ達はまだいるけどね。明日発つそうで今頃、酒場で飲んだくれてるわ」
だからいないわけか。
「南の森……悪くないんだけど、冒険者が多いとなると、稼ぎが微妙?」
「そうね。魔物は期待できないわ」
「なるほどー……どうするの?」
アニーと話していたリリーがこっちを見てくる。
「お前、採取ってできるか? 毒消し草とか」
「できるよ。森育ちだし、得意!」
エルフは森に住んでいるって言ってたな。
「じゃあ、南の森でも稼げるとは思うんだが、今日、サイラスっていう南区の冒険者が人が多いって文句を言ってたんだよ。それでテッドと言い争いをしていた」
「あー……それは嫌だね。あいつ、マジでひどいもん」
やっぱりリリーも嫌っているらしい。
「それで東区の遺跡とやらに皆で行こうかという話になっている」
「遺跡かー……ちょっと遠いけど、そっちの方がまだ人は少ないかもね。アニーも行くの?」
「どうせ行くなら一緒でいいだろ」
4人も5人も変わらんし。
「それもそうだね」
「え? 私も一緒に行くの?」
狛ちゃんをあやしているアニーが聞いてくる。
「1人で行くよりかはいいだろ」
「まあ、そうだけど……」
「あ、でも、ユウマさー、ちょっと南の森にも行っていい? 私、ブランクがあるし、修理した弓の調子も見たい」
それもそうだな。
それにこの子の実力を知っておきたい。
「いきなり遺跡は無理か?」
「できないこともないけど、遺跡の方が難易度は高いし、森は私のフィールドだからね」
森に住んでいたらしいし、森が得意か。
確かに慣れている森で慣れさせてからの方が良いだろう。
「明日、行けるか? 着いたばっかりだが……」
「大丈夫! ずっと馬車の旅だったし、身体を動かしたいし」
「アニーは……薬を作るんだったな。お前らは大丈夫か? 別に休みにしてもいいが」
休みを決めるのはナタリアの役割だ。
「私はいいよ。ずっと働いてなかったし、体力的にも問題ない」
「…………私は今日、釣りをしてただけだし」
うん、俺もだな。
「じゃあ、明日も南の森にするかー……問題はあいつだな」
問題児のサイラス君。
「サイラスは大丈夫でしょ。あいつはそんなに真面目に働かないし」
リリーがそう言いながらうんうんと頷く。
「…………見つけたら逃げればいい」
「うん。関わらないようにするのが一番だよ」
あいつ、良いところがないなー……
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