第056話 帰還


 俺達は精算を終えると、クランの寮に戻った。

 寮に戻ると、狛ちゃんが走って、階段を昇っていく。


「どうしたんだ? いつもソファーで寝るのに」

「アニーさんが遊んであげるって言ったからでしょ。多分、アニーさんの部屋に行っていると思うよ」


 あ、そういうこと……


「じゃあ、解散な。お疲れさん」

「うん。あ、後でご飯を持っていくね。クライヴさんほどは期待しないで」


 まあ、クライヴは自分で店を持とうとするくらいの料理人だしな。


「大丈夫。卵焼きが1つでも怒鳴らないから」

「面白くない冗談だね」


 つまらなかったらしい。


「まあ、頼むわ」

「うん、頑張る。だから絶対に厨房には来ないでね」


 そこまで言う?

 燃やさないってのに。


「マスター、私もお手伝いしてきます!」


 AIちゃんが手を上げる。


「任せた。俺は少し考えるわ」


 3人と別れ、エントランスの隅にある交流スペースまで来ると、ソファーに座って、今後のことを考えることにした。

 そのまましばらく考えていると、先に帰っていたアニーがやってくる。

 なお、アニーの足元には嬉しそうに尻尾を振る狛ちゃんがいた。


「あれ? 1人?」


 アニーは対面のソファーに座りながら聞いてくる。


「3人は厨房で夕食を作っている」

「あー、なるほど。あんたは? 手伝わないの?」

「前世で家の厨房でぼやを起こしたらしい。それを聞いたあいつらとクライヴに厨房に入るなって言われた」

「なるほど。やめてほしいわね」


 盛り付けくらいはできると思うんだけどなー……


「お前は何してんだ?」

「遊んであげてる。ほらー」


 アニーが広いエントランスに何かを投げた。

 すると、狛ちゃんがすぐに駆けていく。


「ウチの子をどうも。なあ、お前って一人だったけど、パーティーは?」

「いないわよ。私、ソロだもの」


 アニーはそう言いながら取ってきた何かの骨を咥えている狛ちゃんを撫でた。


「ソロ? 1人がいいのか?」

「別にそういうわけじゃないけど、私は薬が作れるから一人でも稼げる。あと、パーティーを組んでいたけど、抜けてくれって言われた」


 マジ?

 槐みたいな性格破綻者には見えないが……


「何かしたのか?」

「何も。目に毒って言われたってだけね。ちなみに、クライヴ達」


 あー……なるほど。

 確かにこいつの格好は気になってしまうかもしれない。

 ましてや、クライヴのパーティーは男しかいなかった。


「仲が悪いとかではないわけね」

「そりゃね。円満に抜けたわよ。じゃなきゃ一緒に住んでいるのに気まずいじゃない」

「お前、その格好をやめる気はないの?」


 いまだって胸元がざっくり見えているため、大きな胸の谷間が見えている。

 足だって、露出しており、それで足を組む姿は非常に扇情的だ。


「ないわね。好きでこの格好をしているの」

「じゃあ、仕方がないか」

「あら、否定しないのね」

「俺は自主性を重んじるんだ……というか、服装に関しては他人のことを言えんし」


 俺は和服だ。

 町を歩いてみると、こんな格好をしているのは俺とAIちゃんだけ。

 もちろん、レイラもこんな格好はしていない。


「まあ……確かにね」

「でも、その格好で毒消し草採取はどうかと思うぞ」


 紳士である狛ちゃんが守ってくれたが、見えそうだった。


「見えないから大丈夫よ。そういう魔法があるの」


 魔法って便利だな……


「ふーん……」

「残念だった?」


 アニーが嬉しそうに笑う。


「いや、俺は見ないから。ただお前を見ていた周囲の冒険者共がな……」


 気持ちはわかるが、品というものを大事にした方が良い。


「お貴族様ねー。女には困っていない? ナタリアとはどんな感じ?」

「別に。仲間だ」


 アリスもそう。


「ふーん……パメラは?」

「持ちつ持たれつ」

「つまんない……俺の女だー的なことを言いなさいよ」


 女はどこに行っても色恋が好きだな。

 AIちゃんでもそうだ。


「つまらなくて結構。俺はそこまで愛に餓えていない」

『奥さんが12人もいたくせに……』


 黙れ、子ギツネ。

 いちいち念話してくるな。

 飯を作ってろ。


「あっそ。2人同時に孕ませて修羅場になるのが楽しみだわ」

『マスターを舐めていますね。4人でも5人でもどんと――』


 うるさいので念話を切る。


「そんなことより、お前、明日から東の遺跡か?」

「そうね。まあ、明日は薬の加工の作業をするけど、明後日以降は東の遺跡に行くわ。あそこにも薬草や毒消し草は生えているから稼ぎにはなるし。それに東区の冒険者は南区より荒れていないしね」

「詳しく教えてくれ。俺らもそっちに行くかもしれん」

「いいんじゃない? あのバカに絡まれるかもだしね。ナタリアは上手くあしらうけど、アリスは普通に言い返すし」


 そんな感じはする。


「パメラやジェフリーにトラブルは厳禁と言われているんだよ。それで?」

「えーっと、遺跡は東区から歩いて2時間のところで…………あ、ご飯よ」


 アニーが言うようにAIちゃん、ナタリア、アリスの3人が夕食を持って、俺達のもとにやってきた。


「マスター、できましたよー」

「悪いな」

「いえいえー、アニーさんも食べますー?」


 AIちゃんがアニーに聞く。


「私の分もあるの?」

「はい。アニーさんがここにいることは知っていましたのでついでに作りました」

「へー……じゃあ、食べようかしら?」

「どうぞー」


 3人は机に料理を並べていった。

 そして、料理を並べ終えると、夕食を食べだす。

 ご飯を食べてみると、普通に美味かった。

 でも、卵焼きが俺の分だけ2つあるのが気になった。


「お前ら、上手いなー」

「慣れてるからね」

「…………これくらい作れないと生きていけない。クライヴほどじゃないけど」


 俺、生きていけないのかな?


 俺達はその後も他愛のない話をしながら料理を食べていく。

 そして、料理を食べ終えると、一息ついた。


「それで東の遺跡のことだけど…………」


 俺はアニーに再度、東の遺跡のことを聞こうと思ったのだが、途中で言葉が止まってしまった。

 何故なら、いきなり玄関の扉がバンッと勢いよく開かれたからだ。


 皆が玄関に注目する。

 すると、そこにはくすんだ金髪の少女が立っていた。

 少女は全体的にそこまで大きくない。

 だが、耳だけはとんがって大きかった。


「皆、ただいま!」


 少女が俺達を見ながら高らかに挨拶をする。


「あ、リリーだ」

「…………リリーじゃん」

「うるさいのが帰ってきたわね……」

「あれがリリーさんですか…………いや、エルフじゃないですか」


 エルフ?

 何それ?

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