第052話 さようなら


 俺達は南区の町中を歩き、南門までやってくる。

 そして、そのまま門を出ると、森に向かって歩いていった。

 なお、AIちゃんは地図を描きながら歩いている。


「あそこか?」


 俺は遠くでわずかに見えている森らしきものを眺めながら確認する。


「うん、あそこ。ちょっと歩くから疲れたら言ってね」


 ナタリアが笑顔で答えてくれた。


「疲れたら言えよ」


 そのままアリスに振る。


「…………言うよ。ユウマは他の冒険者とぶつからないでね。多分、多いよ」


 まあ、西区の冒険者も来ているわけだし、南区の冒険者もいる。


「その辺は昨日、パメラから聞いているから大丈夫だ。お前って勧誘されたことあるか?」

「…………あるよ。最近はないけど、冒険者になりたての時とかすごかった。でも、一番人気はナタリア。多分、今でも来てる」


 アリスにそう言われて、ナタリアを見る。

 すると、ナタリアがニコッと笑った。


「断れなさそうで従順そうだもんな」

「…………そんな感じ」

「お前はもう少し、はきはきしゃべれないのか? そうしたら人気になれるぞ」

「…………しゃべれないし、人気になってもしょうがないでしょ。勧誘なんて鬱陶しいだけ」


 まあ、それもそうか。


「ナタリアは大丈夫か? ちゃんと断っているか?」

「大丈夫だよ。普通に断ってるから」

「女って勧誘されることが多いのか?」


 男よりも多そう。


「多いね。それと私達はよそ者だからね。西区の出身のアニーさんは多分、ほとんど勧誘されてないと思うよ」


 区ごとの確執もあるし、出ないことがわかっているからか。


「レイラってどこ出身だ?」

「さあ? どこか遠くって聞いたことあるけど、場所まではわかんない。謎の人なんだよね」

「ふーん……」


 俺達が話しながら歩いていくと、森の前までやってきた。

 森の前には結構な数の冒険者らしき人がおり、パーティー単位で集まり、話をしながら休んでいる。


「南区の冒険者か?」


 ナタリアに聞いてみる。


「西区もいる……これは森の中も多そう」

「まあ、入ってみよう」


 俺達は森の中に入ってみることにし、そのまま進んでいった。

 南の森も西の森と同様に道が整備されており、そこまで苦もなく、歩きやすい。

 ただし、歩いていると、結構な頻度で他の冒険者とすれ違っていく。


「…………ユウマ、魔物はいる?」


 歩いていると、アリスが聞いてきた。


「いない。人の魔力しか感じないな」

「…………だろうね」


 アリスがわかっていたように頷くと、さらに道を進んでいく。

 だが、遭遇するのは冒険者ばかりで魔物には一切、遭遇しない。

 それどころか、魔力感知を広げてみてもまったく魔物の気配がなかった。


「こりゃダメだわ」

「これだけ人が多ければねー……あ、クライヴさん達だ!」


 ナタリアが前方を指差す。

 そこにはクライヴを始めとするクランの男3人組がこちらに向かって歩いてきていた。


「よう、お前らも仕事か?」


 俺達が立ち止まると、槍を肩に置いているクライヴが声をかけてくる。


「ああ。解禁になったから10日ぶりに仕事をしようと思ってな。どうやら皆、同じ考えのようだが……」

「だな。俺達は奥まで行ってきたが、ダメだわ。魔物はほとんど狩られているし、人としか会わない。皆が一斉に仕事を再開したから集中しているみたいだ。これじゃあ仕事にならん」


 やっぱりか。

 10日も収入がなかったのは他の冒険者も同じだし、西区と南区の冒険者がここに集中している。

 魔物なんか早い者勝ちだし、昼から来ても残っていないのだろう。


「森の前にたむろっている冒険者共を見て、何となくそう思っていたが……」

「無理無理。俺らは王都に行くことにしたわ。そういうわけで当分は留守にするからな」


 えー……


「料理人だろ」

「しゃーないだろ。自分で作れ」


 作る?

 料理を?

 俺が?


「男子厨房に入らずという言葉があるんだが……」


 めっちゃ前の言葉だけど。


「俺批判か?」


 まあ、そう思うわな。


「いや、厨房なんかは間食をもらいに行くくらいでロクに入ったこともない。当然、料理なんかしたことがない」

「威張って言うな。貴族か、お前?」


 貴族なんだよ。


「うーん……よし! 作ってみるか!」


 レイラいわく、俺は麒麟児と呼ばれるくらいには天才なはずだから料理くらいできるだろ。


「マ、マスター、おやめになった方がいいですよ。私が作りましょうか?」


 地図を描いているAIちゃんが慌てて見上げてくる。


「お前、厨房に届かんだろ」


 背が低すぎる。


「あー……大きくしてもらえません?」


 式神は大きくすることもできる。


「母上になっちゃうから嫌だ。あの人の料理なんか食えんわ」


 キツネだぞ。

 どうせ油揚げばっかり。

 まあ、母上が料理をすることなんてないんだけど。


「でも、おやめになった方が良いですよ。如月家の当主たる者が料理なんか作ってはいけません」

「そういうのはよくないぞ。何事もやってみることが大事だ。俺は柔軟なんだ」

「では、はっきり言います。あなたは火力が足りないとかいうふざけた理由で狐火を起こして、家を燃やすのでやめてください」


 えー……

 そんなことをしたの?

 バカじゃん。


「ユウマ、厨房に入るな」

「やめようか」


 クライヴとナタリアが俺の肩に手を置いて、止めてくる。


「そんなことをするわけないだろ」

「いいからやめろ。お前、立入禁止な」


 おい!


「ユウマの分は私が作ってあげるよ」


 ナタリアがニコッと笑い、俺の手を握ってくる。

 すると、アリスが俺の袖を引っ張ってきた。


「…………どうせこっちの食材がわかんないんだから私達に任せるべき。というか、火事はやめて。3階に住んでいる私達がヤバい」


 任せるか……


「……AIちゃん、手伝ってあげて」

「そうします。おにぎりも握れない人は無理です」


 俺は天才ではなかったらしい。


「調理器具は好きに使っていいからなー」


 クライヴの奴、あからさまにほっとしてやがる。


「お前、王都に行くって言ってたな。王都は仕事があるのか?」

「あるぞ。やはり王都が一番だな。ほら、ウチのクランって人が少なかっただろ? もうすぐで冬になるから出稼ぎに行っているんだ」


 そうなの?

 めっちゃ暑いんだけど……


「出稼ぎねー。ということは冬は仕事をしないのか?」

「するといえばするが、雪が積もったら仕事にならん。まず森まで行くのも一苦労だ。冒険者は今の内に蓄えるか、南に遠征だな」


 ふーん……

 まあ、前世でもそういう奴はいたな。

 北の雪国はしんどいからな。


「お前らは?」


 ナタリアとアリスを見る。


「運動と勘を鈍らせない程度に働く」

「…………寒いの嫌い」


 この辺も考えないとな。


「で? お前ら、どうするんだ? 奥に行っても何もないぞ」


 クライヴが忠告してくる。


「今日は様子見。湖の近くで毒消し草の採取をする」

「あー、それなら儲けはあるかもな」

「お前らはしないのか?」

「採取ってめんどくさいんだよ。あと、女子供がする仕事っていう風潮がある」


 じゃあ、問題ないな。

 女子供のパーティーだもん。

 ナタリアは得意って言ってたし。


「まあ、お前が草を採取してたら笑うわ」

「いや、食材の採取はするんだけどな。まあ、毒消し草はめんどいからやらない。そういうわけで俺達は帰って準備だ。明日には町を出るから留守を頼む」

「また人がいなくなるわけか……寂しいクランだな」

「どこもそんなもんだよ。まあ、アニーはいるぞ。お前らと一緒で湖で草むしりをしてたし」


 あ、あいつもいるんだ。


「わかった。じゃあ、頑張れよ」

「ああ。1ヶ月くらいで戻るからよ」


 クライヴがそう言うと、仲間と共に行ってしまった。


「…………これがクライヴを見た最後になるとはこの時は誰も思っていなかった」

「おい! 聞こえてんぞ、アリス!」


 耳良いな。

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