第053話 毒消し草があるんだからそれと一緒に食べればいいじゃん
クライヴと別れた俺達はそのまま森の中を進んでいく。
あれからも何度も冒険者達とすれ違っているが、やはり魔物の気配はなかった。
そうこうしていると、開けたところに出る。
そこはかなり大きな湖があり、多くの冒険者達が休んでいた。
「多いなー……こんなに人が多いのは初めてだよ」
「…………西区、南区の冒険者が半々ってところだね」
30人はいるな……ん?
「アニーがいるな……えーっと、あ、いた」
俺は魔力探知でアニーの魔力を見つけると、湖のそばで四つん這いとなっているアニーが視界に入ったので指差す。
「あ、ホントだ」
「…………いつものエロい格好をしたアニーだ」
アニーは短いスカートを穿いており、それで四つん這いとなっているため、かなりきわどい。
ここから見ると、周囲の男共がチラチラと見ているのもわかる。
「あいつって痴女っていう認識でいいか?」
「…………いいよ」
「アリス! アニーさんはああいうファッションが好きなだけだよ」
まあ、人それぞれか。
「ちょっと声をかけてみるかね」
「…………狛ちゃん、ごー」
アリスがそう言って、狛ちゃんの背をポンと叩くと、狛ちゃんがアニーに向かって尻尾を振りながら駆けていく。
狛ちゃんはさすがの速さで駆け、あっという間にアニーのところに行くと、アニーの後ろにおすわりした。
これにより、アニーの形のいいお尻も露出した足も見えなくなる。
心なしか周囲の男共が恨めしそうに狛ちゃんを見ている気がする。
「…………あれ? ダイブを期待していたのに」
アリスは思っていた結果じゃなかったようで首を傾げた。
「ウチの子は良い子だから……きっと俺に似たんだな」
「よく3階に遊びに来るね」
やっぱ似てなかったわ。
俺達が歩いてアニーのもとに向かっていると、アニーが後ろにいる狛ちゃんに気付き、撫で始めた。
俺達はそんなアニーに近づく。
「よう」
狛ちゃんをわしゃわしゃし始めたアニーに声をかけた。
「あんたらも来たんだね。なんで狛ちゃんもいるの? エントランスのソファーで寝ているのが仕事じゃないの?」
楽な仕事だな。
一応、客人を通してくれたりもするんだぞ。
「そいつはナタリアとアリスの護衛。その気になれば、めっちゃ強いぞ」
「全然、見えない。いつも遊んでほしそうにすり寄って来るけど、犬そのもの」
本当に犬だな。
「狛犬なのになー……まあいいや。お前も採取か?」
「ええ。仕事に来たけど、ダメね。さっきまでクライヴ達もいたけどさっさと帰ったわ」
「そいつらとすれ違ったな。王都に行くんだと」
「まあ、そうなるでしょうね。他の人達もそうするでしょうし、いよいよウチのクランも人がいなくなるわ」
寂しいクラン。
「お前は?」
「私は採取をするわ。薬を作れるから毒消し草を採取して加工してから売る。それで十分に儲けられる」
そんなこともできるんだ。
すごいな、こいつ。
「俺らも採取するかねー」
「できるの?」
「誰だって初めてはある」
「いや、まあ、そうだけど……」
アニーがナタリアを見上げると、ナタリアが首を横に振った。
「ユウマ、これとこれのどっちが毒消し草かわかる?」
アニーが2つの雑草を交互に指差す。
「一緒だろ」
「えーっと、こっち」
アニーが右を指差すが、俺には差がまったくわからない。
「ふーん……」
「それでね、こうやって、スコップで周囲の土をどけて、採取するの。根を傷つけないようにね」
アニーはスコップでゆっくりと周囲の土を掘りだす。
「そうか……手で引き抜けよ」
「根が大事なんだからダメ。途中で折れたら価値が下がる」
「めんど」
「男の人はそう言うのよね…………というか、あんた、貴族様でしょ。無理無理」
ナタリアが首を横に振った理由がわかった。
「ユウマは休んでていいよ。私が採取するから」
ナタリアはそう言うと、腰を下ろして、スコップを取り出し、採取を始める。
「えー……暇じゃん」
「だからクライヴは王都に行ったのよ。あんたも行けば?」
うーん……
まだスタンピードの報酬をもらってないし、今出かけるとマズい気がするなー……
「AIちゃん、釣竿持ってない?」
一心不乱に地図を描いているAIちゃんに聞く。
「持ってないですねー」
だよな。
「…………ユウマ、釣竿なら持ってるよ」
アリスがそう言って、釣竿を渡してくる。
「持ってるんだ……よし、晩飯を釣ろう」
俺は受け取った釣竿を持って湖のそばで腰を下ろした。
すると、アリスも釣竿を持って、隣に座る。
「お前も釣りか?」
「…………採取嫌い」
そんな気はする。
根性も堪え性もなさそうだもん。
「じゃあ、釣るか」
「…………うん」
俺達は採取をナタリアに任せ、釣りを開始した。
俺とアリスが釣りを始めると、ナタリアとアニーは黙々と採取をし、AIちゃんは座って地図を描く。
そんな光景をチラッと見ながらのどかで平和だなーと思っていると、竿が引いた。
「んー? 早いな、おい」
そのまま竿を引くと、2、30センチくらいの魚が釣れる。
「おー、釣れた。美味そうだ。ナタリアに焼いてもらおう」
「…………それ、毒があるから食べられないよ」
「大丈夫。俺は毒が効かないし、毒は美味しいんだぞ」
フグは美味しいし、毒があるのは大抵美味いのだ。
そこに毒の苦みが足されるとさらに美味い。
母上もそう言っていた。
「…………ユウマは絶対に厨房には入らないで」
「焼かないからそれ、捨ててー」
こういうところに文化の違いを感じるなー。
「いや、前の世界でも毒は食べませんよ。そんなことをするのはマスターとお母様だけです」
お前も嬉しそうに蛇を食べてただろ。
あれも毒あったぞ。
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