第051話 依頼料
俺達はクランの寮を出ると、ギルドに向かう。
ギルドに着くと、昼過ぎだったこともあり、冒険者の数はそこまで多くなかった。
「よう、パメラ」
受付まで行くと、パメラに声をかける。
「こんにちは、ユウマさん。昨日はありがとうございました」
パメラが笑顔で昨日の奢りのお礼を言ってきた。
「それはいいんだが、大丈夫か? 昨日はかなり飲んでいたようだが……」
「大丈夫ですよ。正直に言うと、朝は頭が痛かったですが、私も簡単な回復魔法は使えますからね」
便利な世界だな……
「へー。それいいな。俺も飲むし、AIちゃんに教えようかな?」
魔導石で覚えられるはずだ。
滅多に深酒はしないが、あるといいかもしれない。
「買われます? 初級だったら金貨10枚ですけど……」
うーん、どうしよ?
「マスター、そこに便利な方がいるじゃないですか」
AIちゃんがナタリアを指差す。
「いつでもやるよー。最近、魔力が伸びてきているし」
ナタリアの笑顔が眩しい……
毎日、変な薬(?)を飲ませてゴメンな。
「パメラ、やっぱりいいわ。それよりも仕事を頼む。ただ今日は様子見する程度だから簡単なので」
『早口』
子ギツネ、うるさい。
「南の森は初めて行かれるわけですし、それが良いかもしれませんね。でしたら常置依頼である魔物の討伐と毒消し草の採取はどうですか?」
毒消し草?
ヨモギか? それともドクダミ?
「毒消し草って何だ?」
「そのまんまです。毒消しポーションの材料です」
魔法で加工するのかな?
よーわからん。
「森に生えているのを採取すればいいのか?」
「そうなりますね。ちゃんと根まで材料ですからちゃんと採取してくださいね…………あのー、採取ってしたことあります?」
採取?
子供の頃に近所の柿を採って食ったことがあるが、それは採取じゃないだろうな。
「ない」
「あ、そうですか……まあ、御二人に聞いてください。森を進むと、湖があるのでその辺で生えています」
「湖なんてあるんだ」
「はい。開けたところですし、そこが休憩スポットでもありますね。野生動物もいますけど」
そりゃいるだろうな。
動物だって水を飲むわけだし。
「良いのがいたら獲って晩飯にするか」
「そういう方もおられますね」
よし、そうしよう。
「じゃあ、今日は様子見だし、その湖に行ってみる……それでいいか?」
後ろにいる2人に確認する。
「いいよ。私は採取が得意だし、やってあげる」
「…………お貴族様はしないだろうしね」
するよ。
やったことはないけど。
「じゃあ、それでいこう。AIちゃん、地図な。それも売ろう」
「わかりました。任せてください」
AIちゃんがドヤ顔で胸を張る。
「じゃあ、行ってくるわ」
「はい……あ、その前にナタリアさんとアリスさんに渡すものがあります」
パメラがそう言うと、受付の下から小袋を2つほど取り出した。
「私達?」
「…………何?」
2人が前に出る。
「この前の緊急依頼の依頼料です。金貨20枚になります」
「あー、あれか」
「…………どうも」
2人は納得したように受付に置かれた小袋を受け取る。
「安くね?」
命を懸けて町を守った代金としては安すぎる気がする。
「緊急依頼はこんなもんだよ」
ナタリアが苦笑いを浮かべながら答えた。
「そうなのか?」
「町が失って困るのは私達もだし、単純に予算がね……」
全員に高額な料金は払えんか……
義勇軍みたいなものだろう。
「しかし、その料金だと受けない奴も多そうだな」
「そういう人もいるよ。強制は厳しいからね。実際、東区の冒険者はほとんど見なかったし」
逃げたな……
まあ、責めるのは酷か。
「正直、難しい問題なんですけどね。何人かは依頼料が安すぎるっていうクレームを言ってますし」
パメラが困った顔をする。
「だろうな。冒険者は兵士ではないし、アニーみたいにこの町の出身者じゃなかったらやる気は金だ」
最初に依頼料を聞かなくて良かったわ。
確実にやる気が落ちてる。
「ですね……でも、魔物へ対処は全人類共通の使命ですから」
言うは易しだな。
そんなことを考えて冒険者になった奴は少ないだろう。
ナタリアやアリスでもそうだ。
「まあ、その辺が課題かね? ところで、俺の分は? かなり働いたぞ」
「ええ……それはもう。だからちょっと揉めてまして……もうちょっと待ってもらえます?」
揉めちゃってるのか……
「待つのは構わんぞ。別に急いで金が欲しいわけじゃないしな」
「すみません。間違いなく、ランクアップは確実だと思いますので」
Bランクになれるのかな?
「ナタリアは?」
リリーを知らんが、1人だけCランクは可哀想だ。
「その辺ももう少し待ってもらえます?」
相当、揉めているっぽいな。
「わかった。決まったら教えてくれ」
「はい。すぐにお知らせします」
「ん。じゃあ、行ってくるわ」
「お気をつけてー」
俺達はパメラに見送られ、ギルドを出る。
そして、ナタリアとアリスに案内され、南門を目指して歩き出した。
「揉めてるって何だろうか?」
AIちゃんに聞いてみる。
「おそらくですが、マスターの功績の証明が難しいのだと思います。実際に魔族を撃退したところを見た人がいませんし」
確かに。
魔族がいたということも俺の自己申告だ。
「…………緊急依頼の依頼料は町や国が出す。だからだと思う」
アリスが補足説明してくれた。
「それは確かに揉めそうだな。税金なわけだし、1人当たり金貨20枚だからすでに出費も大きいだろうしな。例の鏡を渡してみるか?」
AIちゃんが回収した魔物を転送する装置だ。
「いえ、それはやめましょう。あれは人が持っていいものではありません。悪用されます」
AIちゃんが首を横に振る。
「政治家が敵国に使いそうだよな……」
ギルドに渡せば、色んなところを経由し、国まで行きそうだ。
「はい。ロクなことがありません。ですので、没収です」
まあ、それがいいわな。
実はこういうのは前世でもあった。
陰陽師の術は式神を始め、対人にも強い。
だからそれを戦争に利用しようとする政治家は多いのだ。
だが、俺達は絶対に戦争には加担しない。
これは昔から決められた決まり事である。
人を救う陰陽師が人を殺せば、それは妖や鬼と何ら変わりないからだ。
あの嫌われ者の槐ですらこれを守っていた。
俺達だって時と場合によっては人を殺すことはある。
だが、それは自分や家族、そして仲間を守るためであり、やらなければならない時だけだ。
俺達はけっして戦争の道具にはなってはいけない。
これは生まれ変わって異世界に来ても変わらない。
「平和が一番だな」
「そうですよ」
AIちゃんがうんうんと頷いた。
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