第050話 仕事を再開


 朝起きると、いつも隣で寝ているか、早くに起きて、起こしてくれるAIちゃんがいなかった。

 仕方がないので1人で起き、洗面所で顔を洗う。


『マスター、起きてますー?』


 顔を洗い終え、着替えようと思っていると、念話が届いた。


『起きてるよ』

『あのー、部屋に戻っても大丈夫ですか? ナタリアさん達と朝ご飯を持っていこうと思うんですけど』

『大丈夫だから持ってこい。裸で寝ているパメラはいねーよ』

『あ、そうですか。じゃあ、持っていきます』


 ホント、いらん気遣いだわ。


 俺がそのまま着替え終え、待っていると、扉が開かれ、AIちゃんが朝食を持って、部屋に入ってくる。

 さらにアリスとナタリアも入ってくるが、ナタリアはキョロキョロと部屋を見渡していた。


「AIちゃん、昨日はナタリアの部屋に泊まったのか?」


 ナタリアの様子で色々と察せたので机に朝食を置いたAIちゃんに聞く。


「はい。泊めさせてもらいました。お邪魔かなと思ったんで」


 そんなことはしないって言ったのに全然信じてない……


「普通に飯を食いに行っただけだよ。ナタリア、お前も座れ」

「あ、うん」


 キョロキョロしていたナタリアを座らせると、4人で朝食を食べだす。


「それでマスター、パメラさんとはどういうお話をしたんです?」


 パンを食べているAIちゃんが聞いてきた。


「普通の雑談。それとこれからの仕事のことだな」

「仕事ですか? もう再開できそうなんです?」

「西の森以外の立入禁止は解かれるそうだ。だから南の森にでも行ってくれだと」

「南の森……知ってます?」


 AIちゃんがナタリアとアリスに確認する。


「もちろん知っているし、何度も行ったことがあるよ」

「…………西の森は魔物が弱いけど、薬草なんかの採取できるものが多い。逆に南の森は魔物が強いんだけど、その分、良い魔石や良い素材がとれるからケースバイケースだね」


 楽なのは西の森か……


「南区の冒険者の方が強そうだな」

「実際、そうだね。西区は人数が多いんだけど、冒険者の腕で言えば、他所の区の方が強い人が多い」


 この前のスタンピードの時もいたんだろうか?

 魔力的には高いなと思ったのはアニーくらいだが……


「ふーん……今日、昼くらいに南の森にお試しで行ってみようと思っているんだけど、どうだ?」

「いいんじゃない? 久しぶりに仕事をしようよ」

「…………そうだね。一応、貯金はあるけど、10日も収入がないしね」 


 そういや、スタンピードの報酬はどうなっているんだろう?

 ギルドに行ったらパメラに聞くか。


「じゃあ、昼食を食べたら出よう。午前中に準備をしとけよ」

「わかった」

「…………了解」


 俺達は午後から仕事をすることにし、朝食を食べ終えると、各自の部屋で準備をする。

 俺はというと、買ってきた紙を切り、霊力を込めて護符を作っていた。


「マスター、昨日は本当にパメラさんと何もなかったんですか?」


 半妖化したAIちゃんが尻尾を振りながら聞いてくる。


「何もないっての。というか、お前は俺とリンクしてたからわかるだろ」

「昨晩はお邪魔をしてはいけないと思って、切っていました。ナタリアさんは『繋いで、繋いで!』と興味津々でしたけど」


 ナタリア……


「お前は俺が女に酒を飲ましてどうのこうのする人間だと思っているのか? アホらしい……如月の名が傷付くわ」


 貴族のやることじゃない。


「いや、そのまま自分の女にするのかなーと……パメラさんは行けそうな気がしますけど」


 その発言はパメラにも失礼だ。


「別に好んでいない女というわけではないが、今はそこまで女が欲しいとは思っていない。前世は当主だったから跡取りが必要だが、今はそうでもないだろう? 焦ることもないし、こういうのはゆっくりやった方がいい」

「そうですか……私的にはマスターに幸せになってもらいたいから推奨したいんですけどね」


 まあ、所帯を持ち、子供を作るのは人間の幸福の一つではあると思う。

 記憶にはないが、前世の俺はそうしていたようだし、孫を可愛がっていたらしい。


「年齢的には20歳だし、考える時期かもしれん。だけど、俺、この前まで99歳だぜ? 今は若い身体を満喫したいわ」


 走ってもどこも傷めないし、頭痛もない。

 実に楽しい。


「若いならそれこそ性欲だと思うんですけどねー……」

「そこよりも異世界を楽しみたいな。今は少年のような気分」


 何を見るのも新鮮だし。

 昨日の飲み屋で飲んだ酒や食べた料理も新鮮だった。


「なるほどー。じゃあ、当面はそれですかね?」

「まあな。そういうわけだからあまりナタリアを煽るな」


 今朝の雰囲気から察するに昨晩、絶対に煽ってるだろ。


「はーい。いっそ旅でもして世界を見て回るのもいいかもしれませんね」

「だなー。まあ、旅をしたことないからどんな感じなのかはわからんが…………でも、王都くらいには行っておきたいな」


 近いらしいし、米を買いに行きたい。

 パンも美味いけど、たまには米も食べたいのだ。


「それもそうですね。ナタリアさんとアリスさんは王都出身ですし、案内もしてもらえます」


 あいつらも里帰りくらいはするだろうし、その時にでも連れていってもらおうかな……


 その後、午後になると、4人で昼食を食べた。

 そして、昼食を食べ終えると、狛ちゃんに声をかけ、ギルドに向かう。

 なお、狛ちゃんは嬉しそうに尻尾を振っており、散歩に連れていってもらえるのが嬉しい犬にしか見えなかった。


 狛犬なんだけどな……

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