第049話 今後


 パメラが雑談もそこそこに本題に入った。


「スタンピードはどうなったんだ?」

「まずですが、スタンピードは一応、終息したということになります」


 まあ、原因である鏡は没収したいし、犯人である魔族君は逃げたしな。


「原因はどうするんだ?」

「そこはまだ調査中ということになります。おそらくですが、原因を発表することはないでしょう。まあ、時間が経てば人は忘れます」


 魔物が身近すぎるのも考え物だな。

 町の人達の危機意識が低い。


「魔族は言えんか?」

「はい。無理です。区長達も中央のギルドも王家もそう結論付けました」


 あの程度がそんなに恐ろしいのかね?


「仕事は再開できそうか?」

「それなんですけど、街道以外の立入禁止は明日にでも解かれます。ですが、西の森はもう少しかかりそうなんです。現在はギルド、国の調査団が調査をしているんですよ」


 恐ろしい魔族が関わっているし、スタンピードが起きた森は徹底的に調査するって感じかね?


「まあ、わかった。そうなると、西区の冒険者はどうするんだ? あそこが主な狩場なんだろ?」

「はい。ですので、当分は他所に出張してもらうことになるかと思います」

「他所?」

「西区は西の森がメインなんですか、南にも森があります。そちらに行ってもらうことになりますね」


 南か……

 方向的には俺が転生した森があるところだ。


「それっていいのか? 多分、南区の冒険者の狩場だろ」

「構いません。確かに南の森は南区の冒険者御用達ですが、そもそも別にそういう狩場の区分けはないんです。その証拠に他所の区の冒険者もたまには西の森に行かれますしね」


 そういえば、ビッグボア討伐依頼の時に他所の区の冒険者を見たな。


「じゃあ、勝手に行けばいいわけだな?」

「はい。ギルドの掲示板にも南区の依頼票も貼ってありますし、皆さん、そのようにされると思います」


 依頼票の争奪戦は無理なんだよな。


「例によって適当な依頼を回してくれ」

「もちろんです。ですが、以前のような優遇は難しいと思ってください。何しろ、西の森の依頼なら優先的にこちらに依頼が回ってきますが、それは他所も同じです。南の森の緊急依頼は南区のギルドに優先されます」


 まあ、そうだろうな。


「今はそこまで金に困っていないし、普通でいい。ナタリアやアリスに危険がない程度の依頼を回してくれ」

「わかりました。まあ、あの2人は結構強いんですけどね」


 それはわかるが、魔法以外が貧弱すぎて不安なのだ。


「とにかく頼むわ。西の森が解禁になるまではそこまで積極的に仕事をする気もない」

「はい。それがいいと思います。次の話ですが、ユウマさんのことです」


 俺ね。


「何?」

「スタンピードの際のユウマさんのご活躍は他所の区のギルドにも伝わっております。もちろん、大蜘蛛ちゃんやスタンピードを解決したことではなく、あの金色の炎や町の外での活躍ですね」


 町の外はたいして活躍していないから防壁の上から撃っていた狐火だな。


「問題があるか?」

「まずは勧誘が来ると思います。他所の区に所属しているクランやパーティーですね」

「来るか? 俺はすでにパーティーを組んでいるし、クランにも所属している。実際、西区の冒険者共から勧誘はないぞ」


 全然ない。

 クランメンバー以外は話したこともない。


「それは早々にレイラさんのところに行ったからですね。レイラさんは人望もありますし、他のクランとの繋がりが深いです。さすがに他のクランもAランクであるレイラさんに不義理はできませんから強引な勧誘はしてきません」


 人望のある槐とか笑ってしまいそうになるが、本当に変わったんだろうな。


「他所の区は関係ないか?」

「はい。もちろん、Aランクともなれば他所の区のクランとも繋がりはありますし、そういうクランは勧誘してこないと思います。ですが、レイラさんもすべてのクランと繋がりがあるわけではないですからね。それにあの人は敵を作らないことで有名ですが、その分、舐められているところもあります」


 まあ、舐められるわな。

 レイラはそれでも敵を作るよりかはいいと思っていそうだ。


「パメラ、良いことを教えてやる。レイラをあまり舐めない方が良いぞ。あいつは俺と同じ世界から来た転生者だが、ウチと同じ格の家だ」

「え? ほ、本当ですか? お貴族様?」


 パメラが驚く。


「ああ。蛇の神の一族の天霧家だ。そして、あいつは12歳で当主となった天才で国最高の陰陽師と呼ばれていた存在だな。今は前世のことを後悔し、腑抜けているが、元々は全方位に敵を作ったほどに性格が破綻している当主様だ。あいつの本性は自分以外は無能と思っている独裁人間だからキレたら何をするかわからんぞ」

「怖っ……気を付けます……実を言うと、あの人、ちょっと苦手だったんですよね。優しいんですけど、どこか怖くて…………そういうこと……」


 パメラは思い当たる節があったようで納得した。


「気を付けな。それで勧誘だが、どうすればいい? 普通に断ればいいのか?」

「それはユウマさんに意思次第です。ただ、断るにしてもなるべくトラブルは避けてください」


 トラブルねー……

 向こうがケンカを売ってきたら知らんぞ。


「まあ、せっかく縁あって入ったクランだし、移籍はしない。トラブルもなるべくは避けよう」


 槐みたいのはごめんだし。


「そうしてください。それとギルドからも勧誘が来るかもしれません」

「移籍しろって?」

「はい。各ギルドも人材を奪い合っていますからね」


 本当にこの町は大丈夫かね?


「移籍してもメリットがなー……というか、めんどくさいわ」

「そうでしょう、そうでしょう。ささ、飲んでください」


 パメラが笑顔で勧めてきたので酒を飲む。

 多分、移籍してほしくないからしているんだろう。

 おごりだから俺の金なんだけどな。


「ギルドからの圧力的なものは?」

「それはないです。当然ですが、こちらも圧力をかけますし」


 まあ、力関係的に言えば、同等か。

 あとはレイラも話をするって言ってたし、その辺は任せればいいだろう。


「わかった。ナタリアとアリスと話してみて仕事を再開しようと思うが、お前のところのギルドに行けばいいな?」

「そうですね。適当な依頼を見繕っておきますのでお待ちしております」

「頼むわ。さて、飲むか」

「そうね。久しぶりの休みを満喫しないと」


 もう夜だけどな。

 明日からも頑張ってくれ。


 俺達はその後も飲み続けていると、いい時間になったのでパメラを家まで送り届けた。

 もちろん、家には上がらず、普通に別れた。

 そして、家に帰ると、何故かAIちゃんが部屋にいなかったが、気にせず就寝した。

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