第048話 食事


 スタンピードが終わってから10日ほど経った。

 あれから部屋でゴロゴロしているか、ナタリアやアリスと町を歩いている程度で仕事は何もしていない。

 というのも、町自体は落ち着きを取り戻しているが、西の森を始め、周囲の森も平原も街道以外は立入禁止となっているため、冒険者の俺達はやることがないのだ。


 一応、町の中の仕事もあるのだが、金にならないし、ほぼ雑用なのでやる気はない。

 そんなこんなで特にやることもなく、今日も部屋でゴロゴロとしていた。

 そして、夕方になると、部屋にノックの音が響く。


「誰だー?」


 ナタリアかな?

 アリスかな?


『あ、私です』


 この声はパメラだ。


「ちょっと待ってろ」


 そう言って立ち上がると、扉の方に向かう。

 そして、扉を開けると、そこにはいつものギルドの制服姿じゃないパメラが笑顔で立っており、そんなパメラの足元には狛ちゃんが尻尾を振りながら見上げていた。


「よう、パメラ。狛ちゃん、どうした?」

「あ、ここまで連れてきてくれた」


 パメラは俺の部屋の位置を知っているんだが、まあ、それは言うまい。


「いい子だな。まあ、入れ」


 パメラを招き入れると、狛ちゃんは走ってどこかに行ってしまった。

 多分、定位置のソファーに戻っていったのだろう。


「お邪魔します」


 パメラが挨拶をしながら靴を脱ぐ。


「今日は休みなのか?」

「うん。久しぶりの休み。それでちょっと話があってね……あれ? AIちゃんは?」


 この部屋には俺しかいない。


「AIちゃんは上じゃないかな? 暇だから女共がいる3階に遊びに行っていると思う」

「あー、なるほど。やっぱり暇?」

「そりゃな。こんなにやることがないのはいつ以来だろうって感じだ」


 というか、記憶が曖昧だが、こんなに休んだことはない気がする。


「ごめんね。ちょっとバタバタしてたし、色々と決めないといけないこととかあったから」

「まあ、そうだろうよ。今日はその話か?」

「そうね。ちょっと時間もらえる?」


 長いかもしれないな……


「よし、飯でも食いに行くか。約束通り、奢ってやるぞ」

「いいの?」

「金はある。奢ってやるからいい感じの店に案内してくれ。最近はナタリアやアリスに町を案内してもらっているが、飯屋はわからん」


 飯はここに帰ればあるからなー。

 しかも、クライヴの飯は美味い。


「じゃあ、美味しいところを案内するよ」

「ん。行くか」


 そう言うと、パメラが脱いだ靴を履きだす。


『AIちゃん、俺はちょっとパメラと飯を食いに行ってくるわ』


 念話でAIちゃんに伝える。

 念話はある程度離れていても使えるのだ。


『了解です。今晩はお帰りになられます? それとも部屋を外しましょうか? ナタリアさんの部屋に泊めさせてもらいますけど』

『いらん気遣いだ。普通に帰ってくるし、少し話をするだけだ』

『わかりましたー』


 アホなことを言うAIちゃんとの念話を切った。


「どうしたの?」


 靴を履いたパメラが首を傾げる。


「いや、なんでもない」


 俺は靴を履くと、パメラと共に部屋を出る。

 そして、ソファーで寝ていた狛ちゃんに見送られ、建物を出ると、パメラに案内され、飯屋に向かった。


 飯屋はギルドの近くにあり、そこそこ広く、テーブルとカウンターがある店だった。

 俺達は給仕の少女に案内され、カウンターに座ると、酒と食事を適当に注文する。

 すると、すぐに酒と食事がやってきたので乾杯をし、食べだした。


「異世界って感じだわ」


 この店の内装も給仕も食事も酒も何もかも違う。

 最近は色々と学んできたが、やはりふとした瞬間に別世界に来たと実感する。


「私はユウマさんの前の世界が気になるわ。怖ろしい術を使うし、全然、文化が違いそう」

「まあ、まず魔物がおらんからな。とはいえ、妖はいるが」

「妖ってあの大蜘蛛ちゃんみたいなの?」


 パメラが酒を飲みながら聞いてくる。


「あの大きさはさすがに滅多にいないが、まあ、そんな感じ。ついでに言うと、AIちゃんもキツネの妖怪だな。今度、耳と尻尾を見せてやろうか?」

「あの子、キツネなんだ……」

「ああ。母上を模した式神だな。アバターだとかなんとか……そこがちょっと嫌だけど」

「ふーん…………え?」


 パメラが酒を置き、こちらを見てきた。


「なんだ?」

「ユウマさんのお母さんってキツネの妖怪なの?」

「そうだぞ。狐火を使ってただろ。あれはキツネにしか使えん」

「…………え? ユウマさんってガチで人間じゃない?」

「どう見ても人間だろう。尻尾も耳もないぞ。もっと言えば長寿じゃないし、普通に死ぬ」


 99歳は長生きだと思うがね。

 とはいえ、そのくらい生きる人間はたまにいる。


「そういえば、死んだんだったね。ねえねえ、死ぬってどんな感じ?」

「あー、死ぬんだなーって思って、寝た感じ。気が付いたら森の中だ」


 老衰だし、そんなもんだろう。

 苦しみなく、ただ寝るだけだ。


「へー……」

「パメラ、お前ってギルドの受付が長いのか?」

「16歳の時になったから4年くらいかな?」


 結構、長いな。


「他の転生者って知ってるか?」

「あー……何人かは知っているし、話したことはあるよ。それこそレイラさんもそうね」


 ん?

 あれ?


「レイラが転生者なことを知っているのか?」

「本人が隠しているようだから追及はしていないけど、知ってる。というか、転生者ってわかりやすいんだよね。だって、人生を2回も経験しているわけだから年の割に博識だし、落ち着いている。あと、根底にある常識が少し変だからさすがに何年も受付に座っていたらわかるよ」


 まあ、レイラは50年も生きた生粋の貴族だしな。


「レイラ以外はどうだ? 皆、どんな感じなんだ? 俺のこれからの生き方の参考にしたい」

「生き方をお悩みで?」

「まあ、そんな感じ。俺は子供の頃から当主になるべく努力し、当主になった後も国と一族のために頑張ってきた。そんな俺が何の使命もなくこの世界に来て、やることがない。特にこの10日は本当に暇だった」


 本を読むくらいだ。


「なるほどー……お貴族様は自由に生きられないですが、いざ自由になっても何をすればいいのかわからないわけですか」

「そんな感じ」

「まあ、一般的には働いて結婚して、子供を作って育てる感じじゃないかな? というか、それはどこの世界も一緒でしょ」


 そりゃな。

 じゃないと、種が滅ぶ。


「それは当然のことだろ? 貴族でも庶民でも変わらん」

「そんなに深く考えないでもいいと思うけどね。他の転生者だって特に考えてないと思うよ。しいて言うなら結構はっちゃけてるかな? 転生者の皆さんに共通するのは前世の後悔から同じ轍を踏まないようにしている感じ。借金は嫌だーとか、絶対に結婚してやるとか。まあ、逆もあるけど」


 レイラもそんな感じだしな。


「後悔がないんだよなー……」

「じゃあ、普通にやれば良いと思うよ。仕事してお金でも貯めなよ。何をするにしてもお金は大事」


 まあ、そうなるか。


「そのうちやることが見つかるまでは適当に働くか」

「うんうん。それがいいよ。そういうわけでお仕事の話です」


 パメラが上機嫌で飲んでいた酒を置き、仕事モードになった。

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